院長ブログ

グルテンフリー

2019.7.6

ジョコビッチの言葉。
「ツォンガは僕がもうヘトヘトだということを見抜いていた。
サーブして、僕をおもちゃのように、前へ後ろへ走らすことができた。
観客たちも彼に声援を送り始めた。彼のサーブはますます速く、そして力強かった。
一方、僕のサーブはますますのろく、弱々しかった。
まるで化け物を相手にプレーしているように感じた。
芝に足が釘付けになったみたいに、彼のショットに反応できないことも一度ならずあった。
彼は第4セットを、6-3でとった。

第5セットが始まる前から、観客の目にはこの試合の勝者は明らかだった。
ツォンガの3-1で迎える0-40のサーブで、僕は自分のテニス人生で最低のサーブを打った。まさに、ブレイクポイントだった。
彼に勝つためには、最高のサーブを放ち、彼のバランスを打ち崩し、ゲームの流れを握らないといけない。
これまでのテニス人生で数十万回のサーブを打ってきたが、次に打つこのサーブを、そのなかでも最高の一打にしなくてはいけない。
そうすることが、僕がこの試合で勝つ最後のチャンスだ。
ポン、ポン、とボールを地面についた。そして、ボールを空中にトスした。
体をめいっぱい反らせ、今まさに、打とうとした。が、胸全体に息苦しさを感じた。
ラケットではなく、重いハンマーを持っているようだった。

体がもうダメだった。
フォルト。
気持ちも折れた。ポン、ポンとボールを二度地面につき、サーブした。
ダブルフォルト。
ゲーム、ツォンガ。
試合終了は唐突にやってきた。まるですみやかな処刑のように。
コートの真ん中で握手した後、ツォンガは喜びのあまりダンスをした。観客の声援を受け、彼は力とエネルギーにあふれていた。
一方、僕は疲れ切っていた。
17年間、毎日休むことなく練習をしてきた。
それでも、この最高の舞台で、フィジカル面、メンタル面両方において、自分のベストパフォーマンスを発揮できるだけの力がない。

なぜなのか。
僕には技術もあれば才能もある。意欲だって誰にも負けない。
メンタルやフィジカルを鍛えるためなら、どんなトレーニング環境も整えることができるし、世界で一番の医者に診てもらうことだってできる。
僕の足を引っ張っていたのは、僕が思いもかけないものだった。
トレーニングや練習には、何の問題もなかった。
僕は食べるものが、まったくなっていなかった。

『僕の人生を変えた食事』
2010年1月27日のダブルフォルトは、僕のテニス人生のどん底だった。
しかし、そのたった18か月後、2011年7月には、僕は見違えるように復活した。
11ポンド軽くなり、しかもショットの切れが増した。自分の人生のなかで最高に健康的で、元気だった。
僕は二つの目標を達成した。ウィンブルドンで優勝することと、テニス選手ランキングの1位になることだ。

ラファエル・ナダルの放った必死のバックハンドがコート外に着地し、ついに僕がウィンブルドンで勝ったその瞬間、僕は6歳の頃に戻ったようだった。
戦火で荒廃したセルビアで、誰しもに「かなうわけがない」と嘲笑された夢を、純粋に追いかけていた、あの子供の頃の気持ちが、よみがえった。
地面に崩れ落ちた。両手を空中に突き出した。かがみこんで、ウィンブルドンの芝の草を幾本か引き抜き、それを口に含んだ。
甘い味がした。こんなに甘いものは食べたことがない。

18カ月で僕を「上手なプレーヤー」から「世界一のプレーヤー」に変えたのは、新しいトレーニングプログラムではない。
ラケットを変えたのでもなく、練習を変えたのでもコーチを変えたのでもない。
僕は食事を変えた。

僕の体が必要としているものを、正しく食べ始めたことで、僕の人生は変わった。
食事を変えて最初の3か月で、体重が181ポンドから172ポンドに減った。
家族や友人はやせすぎじゃないかと心配した。でも僕はこれまでにないほど元気で、機敏で、エネルギーがあふれ出るようだった。
コート上では素早く、かつ、しなやかで、他のどのプレーヤーも追いつけないようなボールを返すことができた。
集中力も冴えわたり、体力もタフになった。全然息切れすることがなくなった。
アレルギーは軽快し、喘息も治った。
恐怖や猜疑心は、揺るぎない自信へと変わった。風邪やインフルエンザにもかからなくなった。
あるスポーツ記者は、僕の2011年のシーズンを、これまでどのテニス選手も成し遂げたことがない最高の一年だったと書いた。
10のタイトルを獲得し、3つのグランドスラムを成し遂げ、試合は43連勝した。
そして、このすばらしいシーズンを迎えるために僕がした唯一のことは、食事を変えることだけだった」

ジョコビッチの”Serve To Win”という本からテキトーに訳しました。
僕は英語のことは多少知ってるけど、テニスのことは壊滅的に知らないので、誤訳はあると思う。
Serving 0-40, with Tsonga up 3-1, I hit the lowest point of my career. It was break point, in more ways than one.
訳せますか?
文法的には簡単でも、テニスを知ってないと訳せない。
とりあえず、『テニス用語辞典』で「ブレイクポイント」の意味を調べてみた。
【ブレイクポイント】
相手のサービスゲームで、サーバーから見て30-40やデュースでアドバンテージレシーバーになった際に、「ブレイクポイントが訪れる」と表現する。
頭にダブルが付くダブルブレイクポイントは、ブレイクチャンスが2回あることを指し、スコアはサーバーから見て15-40となる。
トリプルブレイクポイントはブレイクチャンスが3回あることを指すので、スコアは0-40となる。
テニスのスコアは原則その時のサーバー側から見た基準で考えるので、ブレイクポイントが相手に訪れている時のスコアは、0-40、15-40、30-40、アドバンテージレシーバーのいずれかである。

調べたのに、れっきとした日本語なのに、まったく意味がわからないっていう^^;
テニスのルールを理解することはあきらめた。だから、上記の訳はテキトーです。
興味があってちゃんと読みたいという方は、翻訳本が出ている。
『ジョコビッチの生まれ変わる食事』

ジョコビッチのした食事の変更を、簡単に書くと、
グルテンフリー(小麦をやめる)、砂糖、乳製品をやめる。
基本的にこれだけ。
これだけで、単なる「うまいプレーヤー」から「世界一のプレーヤー」になれた、って彼は言ってる。
要するに、グルテン不耐症が彼の足を引っ張っていた、ということだろうな。
セルビアの実家はピザ屋だっただけに、小麦をやめるというのは相当な決断だったに違いない。

グルテン不耐症の人は、思った以上に多い。
うちの患者でも、小麦をやめるだけで症状がずいぶんよくなったという人はたくさんいる。
体がなんとなく調子が悪いという人は、まず、パンをやめてみるといいよ。

この本を読んでてふと思ったんだけど、、、
錦織圭の成績がパッとしないのは、彼、日清食品の宣伝塔で、カップ麺とか毎日食ってるからじゃないの?笑

スポーツドリンク

2019.7.5

「今日も暑い日になります。熱中症予防のために、こまめな水分補給を心がけましょう」
と気象予報士の姉ちゃんがいう。
しかし、これは大きなお世話じゃないかな。
のどが渇いたら、飲むなと言われたって飲むし、のどが乾いてなかったら、飲まないよ。
でも、こういうことを言うお医者さんがいる。
「熱中症を予防するためには、のどが渇いてからでは遅い。渇きに先回りして、事前に水分補給に努めるべきだ」
本当?
馬を水場に連れて行っても、のどが渇いてなければ絶対に飲もうとしない。
動物は自分の感覚優先だけど、人間は小知恵が働くから、エラい人から言われたら「そんなものかな」って思って、のどが渇いてなくても飲んでしまう。
しかしまぁ、だいたいにおいて、医者の言ってることはデタラメだからね。
まずは疑ってかかるのがいいよ。
ただ、そういう俺も医者だけど^^;

正常を知るために、異常を研究する。対比が物事の本質を浮かび上がらせるのは、よくあることだ。
世の中には、真夏の炎天下にマラソン大会に参加するような酔狂な人がいる。こういう人たちは相当に極端なことをしているわけだけど、彼らの生理を研究することで、逆に、普通一般の人たちが夏の暑さにどう対処すべきか、ヒントを得ることができるんだな。

1980年代に入って、マラソン業界に不思議な現象が起こり始めた。
マラソンのレースディレクターやランニング雑誌などが、こぞって「マラソン中の給水は必須」と言い出したのだ。
「のどの渇きを信用するな」「目玉が浮くほど飲め」とランナーたちは教えられ、今やマラソン中の給水は日常的な風景となった。

ところで、42.195kmを最も速く走る動物は何か、知っていますか?
それは、人間です。
人間は、短距離走ではチーターに及ばないし、パワーでは熊にかなわない。鳥のように空を飛ぶこともできないし、クジラのように水中で生きられない。
自然界でこれといって特技のない、どちらかというとひ弱な動物である人間が、長距離走となれば、無類の強さを発揮する。
脱水に強く、その気になれば給水なしに100km走ることさえ可能だ。いつ、どれくらい水を飲めばいいかは、体がわかっている。アフリカの炎天下、この走行能力を使って獲物が疲れ果てるまで追い込み、仕留める。人間はこうして数百万年を生き抜いてきたのだ。
ティモシー・ノークス博士は以下のように指摘している。「進化の過程で、ヒトは長距離走の名人になった。暑いなか運動するにあたって、比類ない体温調整能力を備えている。さらに、我々の脳は水分補給の欲求を後回しにする能力を発達させた。これは、水が少ししかなく、狩りを中断して水を探す余裕もない暑い日中に獲物を追いかけるには、極めて重要な能力だ」

しかし1980年代になって急に、米国スポーツ医学会は、マラソンの際の水分補給の重要性を言い始めた。人類が急に脱水に弱くなって、走るのに給水が必須になった、というのだろうか。
明らかにバカげている。
事実、過去の記録を調べると、そのバカバカしさが明確になる。
ノークス博士は、マラソン中の給水が一般的になる前の時代のランナーたちは、のどが渇いても平気だったことに気付いた。
「ガムを噛むだけで、水分はまったくとらなかった」と1908年にマラソンの世界記録を作ったマシュー・マローニーは言った。マイク・グラットンは1983年ロンドンマラソンで水を一口も飲まずに優勝した。
コムラッズ(南アフリカのウルトラマラソン。89kmを走る)で5回優勝した伝説のランナー、アーサー・ニュートンは「一番暑い日でも26マイル走るには、1回か、多くても2回の給水で充分」と考えていた。
カラハリ砂漠のサン人は今も摂氏42度の暑さのなかで、ほんの数回のどをうるおすだけで7時間走ってみせる。

それなのに、なぜ急に、アメリカスポーツ医学会は「のどの渇きは運動時に必要な水分の指標として信用できない」と宣言するのか。
コムラッズでは給水所の設置が当たり前になる以前には、一度たりとも脱水症や熱中症が問題になったことはなかった。
脱水症や熱中症が深刻な問題になったのが、頻繁な水分摂取が常識になった後というのは、一体どういうことなのか。
ノークス博士は様々なマラソンのデータを分析した結果、結論した。
「脱水症が原因で死亡したマラソンランナーは、いまだかつて一人もいない」
ところが、水分を多く摂取するランナーに目を向けると、話が変わってくる。マラソンによる死者は、すべてそこに起因していた。
アメリカでは特に暑くもない日にマラソンランナー3人が死亡していた。イギリスでは、自分のクライアントに水分摂取を指導していたインストラクターが、ロンドンマラソンの完走直後に亡くなった。2000年ヒューストンマラソンでは給水所が1マイル置きに設置されたが、数十人のランナーが医療テントに運ばれた。
ノークス博士は言う。「彼らは、溺れていたのだ。水が足りなかったのではなく、多すぎて死んだのだ。水分の過剰摂取により血中ナトリウム濃度が低下し、脳浮腫を起こした。脳浮腫は、脳圧亢進による脳の低酸素状態を引き起こし、結果、ランナーを死に至らしめた。つまり、ランナーの死因は水中毒だ」

スポーツ飲料メーカーなどの巨大企業がすべてを抑えている。スポーツ医学界、テレビ、新聞、雑誌の一大スポンサーとして、多額の資金を提供し、自社製品の販売促進に余念がない。
地球上のすべての生物は、いつ、どれくらい水分をとればいいかわかっている。牛も犬も赤ちゃんも、皆わかっている。しかし、人間は違う。自分の感覚を信じないで、医者が言うから、気象予報士の姉ちゃんが言うから、「暑いときにはこまめに水分補給しよう」と思う。
しかしそれはでっち上げだ。もちろん科学的根拠なんてない。ニセの健康不安を煽りたて、結果、マラソンランナーたちは本当の健康被害を受けた。人々をだまして水分が足りないと信じさせ、飲みすぎるよう仕向けた。それはマーケティングによる死だった。

『ボストンマラソンのランナーにおける低ナトリウム血症』
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa043901
この論文、簡単に要約すると、「タイムの速い一流ランナーは完走後、体重が減っていたが(飲む量が少なく、しっかり汗をかいていた)、タイムの遅い素人ランナーほど、完走後の体重が増えていた(走ってる最中に水飲みすぎて腹チャポチャポになってる)」ということ。後者は、スポーツ飲料メーカーにとっての「いいお客さん」であり、また、低ナトリウム血症による死のリスクが最も高い人でもある。

ちなみに、マッチョになるために筋トレを頑張ると同時に、プロテインをたくさん飲んでる人がいるけど、「プロテインで筋肉増量」っていうのも、企業のマーケティングだよ。
https://www.livescience.com/8086-protein-supplement-myth-revealed-body-work.html
もちろん、プラセボ効果もあるだろうから多少効くだろうし、栄養状態が不良で肉、魚、卵とか食事由来のタンパク質が不足しているなら、プロテインを摂る意味はあると思う。
個人的には牛乳は体によくないと思っているから、牛乳由来のプロテインパウダーは、あえて人には勧めない。でも、下痢しちゃうのに無理に飲もうとしてる人なんか見ると、ずいぶん気の毒だね。

参考
・”Natural Born Heroes”(Christopher McDougall著)
・ミオンパシー整体院UROOMの續池均さんから大きな示唆を得ました。ありがとうございます。

美容整形

2019.7.4

「なんで美容に行ったかって?
一応これだけは言っておくけど、金に惹かれたんじゃないよ笑
収入は、まぁ標準的な医者よりはもらってる。でも全然割に合わない。
本当にもうけたいのなら、開業だよ。
もちろん、開業したからってうまくいくとは限らない。大手を向こうに回して成功するには、よほどの何かがないとダメだと思う。専門分野のなかで突出した腕があるとか、宣伝に充分お金をかけられるとか。
僕もできれば開業したいけど、正直それだけの自信がないから、〇〇(某美容クリニック)に勤めてる。

なんぼもらってるかって?えらい切り込んでくるなぁ笑
3と4の間くらいかな。でもはっきり言って、僕なんて全然だよ。美容やってる人の平均って、4と5の間って話だから。
でも君も知ってるように、1千超えたら手取りは大して変わんないよ。この国は累進課税で、稼ぐ奴がいじめられるようにできてるからね。

もうね、お金じゃないよ。本当に割に合わない。
全然労働に見合った収入じゃない。
専門は豊胸術だけど、何でもやってる。二重まぶたから脂肪吸引、植皮、ワキガ、ボトックス、ヒアルロン酸とか、いろいろね。
そうやって、月に25日、クリニックのために何でも屋として働いてる。
QOLは悪いな。家族ともっと一緒に時間を過ごしたいけど、なかなかね。
先月さ、僕の労働がクリニックの収入にどれだけ貢献しているか、ちょっと計算してみたんだよ。
そしたらね、ざっと4000万円だった。
僕の給料は固定プラス歩合で、歩合は売り上げの2%。4000万売り上げたからその2%でプラス80万円。
まぁ、ひどいよね。たったの2%だよ。4000万稼いでも、そのうち98%はクリニックの上前。
搾取されてる感がハンパじゃないよ。

しかしまぁ、聞かれたからこんなふうにグチが出たけど、本当は金のことは別にいい。女房子供を食わせるだけの金は稼いでる。
高級外車とかバカ高い腕時計とか、全然興味ないしさ。必要以上の金は、いらない。
知ってる?美容整形で使う薬とか道具って、オーダーメイドならともかく、ほとんどは二束三文の安物なんだよ。
で、そんな安物を使って、ビックリするような施術料をとる。もちろん、そこには技術料が含まれているわけだけどね。
安いものを高く売る。商売の基本だよね。そこは別に構わない。
ただ、仕事の何が苦痛ってさ、クリニックの方針で、効果がないような施術も売り込まないといけないところ。
たとえば、うちのクリニック、いびきにレーザーを使った治療をやってるんだけど、効かないよ、あんなの。エビデンスはない。でも患者は高い金を払ってる。
正直あんな仕事はやりたくない。

君はさっき、患者を本当に助けたいから栄養療法を始めた、って言ったよね。対症療法で症状をまぎらすだけの医療はやりたくない、毒みたいな薬を処方して威張ってるだけの医者にはなりたくない、って。
良心的だね。プロって、そういうことだと思うよ。
自分で言うのも何だけど、そこは僕も同じだよ。
せっかく仕事をするからには、患者の悩みを解決してあげたい。誇りが持てる仕事をしたい。
若い女性で、いびきに悩む人って意外に多いんだ。そういう人たちが、ネットで探して、レーザー治療を受けにうちに来る。そこの勤務医として「こんなの金のムダですよ」なんて言うわけにはいかない。効果がないとわかっていても、規定の施術をし、規定の料金を頂く。
胸が痛いよ。くだらねえ仕事してるなって思ってさ、自分が嫌になる。

なんで美容に行ったのか、ってことだけど、僕はね、変な話だけど、魔法を使いたいって思ってた。
昔テレビで、美容整形を真っ正面から取り上げた番組をやってた。ビフォーとアフターが激変するんだよ。本当に、生まれ変わったみたいにきれいになって。魔法のようだって思って、すごく憧れた。
僕もあんなふうに、女の子をきれいにする魔法を使って、それでその子の人生が変われば、すばらしいことだなって。
「腫れぼったいような一重まぶたが嫌いで、自分の顔が好きになれない」
「小さな胸がコンプレックスで、女性として誇りが持てない」
そういう人が僕の施術を受けて、自分に自信を持つようになる。そして恋愛に積極的になって、人生がどんどん拓けていく。
僕が自分の仕事にやりがいを感じるのは、自分のかけた魔法が成功したって思える、そういう瞬間なんだな」

電子レンジ4

2019.7.3

「現在、電子レンジは何ら規制されることなく野放しに使用されている。この責任の一端は我々科学者にある。
我々の責務は、この状況に警鐘を鳴らすことだ。同時に、自然と調和した技術を開発しそれを社会に広めることだ。
技術によって自然と調和した便利な社会を作ることは可能なはずだと、私は思っている」
ハンス・ヘルテル博士の言葉である。
彼は、電子レンジによって加熱した食品が人間の血液および生理にどのような影響を及ぼすかを調べた最初の研究者である。
それは小規模ながら、非常に質の高い研究だった。
「極力多くの変数を減らすために、マクロビオティックの施設で暮らす8人に被験者として協力してもらった。
彼らは厳格なマクロビオティック食を実践していて、酒もタバコもやらない。8週間、私はそういう人たちと同じホテルで過ごした」
電子レンジで加熱したものを食べることで、どのような変化が生じるか。その変化は、非常に微妙なものかもしれない。
変化を敏感に検出するためには、他の変数は極力小さくしたい。
タバコ、酒、ジャンクフード、農薬、ホルモン剤、抗生剤、環境汚染などが影響しては、研究の結果をゆがめてしまうからだ。

採血データの異常は明らかだった。
電子レンジで調理した食品を食べると、赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、白血球の値が正常範囲内下限にまで低下した。
「この結果は、貧血傾向を示唆している。8週間の期間中、後半4週間でその傾向は一層顕著になった」とヘルテルは記している。
「そのように低下する項目がある一方で、コレステロール値は上昇していた」

水分子を含む物体にレーダーやマイクロ波を照射すると、その物体の組成が変化する。
それは、水分子(特に酸素分子)に加わった激しい摩擦熱(熱効果)による変化と無熱効果による変化である。
この変化によって生成した物質は、放射性分解化合物(radiolytic compounds)と呼ばれており、自然界に存在しない。
この放射性分解化合物は、電子レンジで加熱した食品中にも当然含まれている。

国の機関や一般の学会では、電子レンジによって生じる放射性分解化合物の量は、普通の加熱方法(煮たり焼いたり)で生じる放射性分解化合物の量よりも多くはない、とされている。
これは明らかに事実と異なる。
しかし不思議なことに、公的機関や一般の学会は実際にこの放射性分解化合物を調べる実験を行わないし、これを食べると採血データや健康状態にどのような異常が生じるかを研究しない。
そうしたなかで、ヘルテルが電子レンジの有害性を明快に示す研究を行い、広く公表したのだった。

1992年電子レンジの販売を担うスイス産業会(FEA)がヘルテルを裁判所に訴えた。
「被告(ヘルテル)の主張は事実無根であり、原告(FEA)は多大な風評被害を被った」というのが訴状の主旨である。
この裁判の結果は、どうなったか。
ヘルテルの主張は科学そのものなんだから、再現性もあれば普遍性もある。裁判に訴えられたところで、負けるわけがない。
そう思うでしょう?
違います。
あろうことか、ヘルテルに裁きの鉄槌が下された。
原告の訴えが通り、ヘルテルには箝口令が命じられた。「その研究結果を口外するな」というお達しである。

「真実を語った人は叩かれる」というのが世の常だ。
ヘルテルもその例外に漏れず、見事にしてやられた。
「科学が人を不幸にすることがあってはならない」という信念のもと電子レンジの危険性を告発した科学者は、巨大企業の圧倒的な資金力を前にして、一瞬で踏みつぶされた。
この姿が、僕にはライナス・ポーリングの姿とダブって見える。
本当に良心的な科学者は、世界中のあちこちに、きっといる。でもその声は、一般大衆の耳に届く前にかき消されてしまう。

そして僕らは今日も、当たり前のように電子レンジを使っている。
その危険性を知れば、加熱完了の「チーン」が、死の暗示、仏壇の前で聞く「チーン」に聞こえるはずなんだけどね。

電子レンジ3

2019.7.2

食品を電子レンジにかけると、自然界に存在しない物質が生成する。
一般に、こういう人工的な物質を体内に入れると(消化管経由であれ静脈経由であれ)、体はその代謝に四苦八苦する。
毒物の代謝といえば、肝臓の出番だ。
体はこの「電子レンジ毒」の流入に対して、肝臓に蓄えたグルタチオンやらビタミンCやらを総動員して、何とか毒性を丸め込もうとする、というのが以下の論文。
https://www.researchgate.net/publication/303589584_Impact_of_microwave_heated_food_on_health_Journal_Journal_of_Advances_in_Biology
要約
本研究の目的は、電子レンジで加熱した食餌をマウスに与えて、血液や臓器にどのような生物学的影響があるかを調べることである。
オスのスイスアルビノマウス(1か月齢と3か月齢)に同食餌を与えたところ、血中総タンパク質濃度が低下する一方、アルブミンやビリルビンが上昇した。
グルタチオンペルオキシダーゼやSOD(スーパーオキサイドディスムターゼ)が減少し、同時にマロンジアルデヒド(酸化ストレスのマーカー。生理学的異常の原因)が増加した。
本研究の結果は、電子レンジによるマイクロ波の照射によって肝機能に悪影響が生じ、組織学的障害や生理学的障害が起こり得ることを示唆している。

上記論文の本文(5.Discussion)にも興味深い記述があるので、抜き書きして紹介しよう。
Veneman et al(2004)によると、電子レンジで加熱した食餌を食べたマウスのみならず、電磁場に曝露したマウスでも肝細胞の損傷が起き、アルブミンとビリルビンが増加していた。
同様の研究はLohmann et al(2000)にもあり、ここでは50Hzの磁場にさらすことでマウスの血中アルブミン、ビリルビン、AST、ALTが増加することが報告されている。
本研究と同じ結果であるMoussa(2009)では、マウスを3.5GHzの磁場にさらすことでアルブミンとビリルビンの増加が確認されている。
処置をしたマウスにおいて、肝酵素のマーカー(AST、ALT)、アルブミン、ビリルビン、総タンパクで増加が見られる(Clark et al.2003)
本研究はBurgert et al(2006)と一致しており、ここではアルブミンとビリルビンの増加のみならず、肝細胞の損傷に起因するALP(アルカリフォスファターゼ)の増加を報告している。
本研究では血中総タンパク濃度は減少したが、これと同様の結果はBohr(2000)でも報告がある。これは、電磁波によるタンパク質の変性についての研究である。
Moussa(2009)の結果は、これとは逆で、マイクロ波に曝露させたマウスで血中タンパク濃度がむしろ増加していた。
本研究では肝酵素の変化を評価しているが、電子レンジで加熱した食餌を8週間食べ続けたマウスと同様、電子レンジから照射される2.45GHzのマイクロ波に照射されたマウスでも血中のALP、ALT、ASTの上昇が見られた。
本研究がPashovkina and Akoev(2001)と一致しているのは、肝細胞の細胞膜の透過性が変化しALPが有意に増加する、ということである。電子レンジ照射群で見られたALP活性の上昇は、肝細胞の損傷を示すものである。
Dufour et al(2000)は血中マーカーとして肝酵素(ALP、ALT、AST)を測定することは、肝細胞の損傷や壊死のみならず、肝機能不全を検出する上でも有用だと指摘している。
Abdel-Aziz et al(2010)は、ラットを電磁場に2週間さらしたところ、AST活性が有意に増加したことを報告した
Oh et al(2006)は、血中ALT濃度と非アルコール性脂肪肝(NAFLD)、心血管疾患の間には相関があることを報告した。Claek et al(2003)はALT増多の原因で最も多いのはNAFLDだと指摘している。
電子レンジで加熱した食餌を与えた後のAST、ALPの増加は、肝損傷の指標となるばかりではなく、その他の組織の損傷マーカーでもある。(Hajimehdipoor et al.2006)
本研究の結果は、実験群マウスでの血中ALT増加を示しているが、これはMaria and Stuchly(1995)とも一致している。

日本で、電子レンジがない家庭はほとんどないだろう。普及率は、ほぼ100%に近いに違いない。
しかし電子レンジで調理することで、食品中に毒性物質が生じることを知る人はほとんどいない。
人々の健康を守るべき医者でさえ、電子レンジが原因で病気になり得ることを知らない。
だから医者は患者の異常な採血結果を見ても、その原因が電子レンジの過剰使用によるものだなんて、疑うことさえできない。
でも実際の臨床現場では、電子レンジに起因する病気の患者が必ずいるはずだ。
電子レンジの普及率を考えれば、いないはずがないんだ。

「総蛋白もアルブミンも高くて、いいですね。しっかりタンパク質が食べれてて、肝臓が元気な証拠ですよ」
「ALPが高めで、いいですね。ALPの活性中心には亜鉛がありますから、これは亜鉛がちゃんと摂れてる証拠なんですね」
自戒を込めて言うんだけど、毎日電子レンジで加熱した食事をしているような患者を相手に、僕はこんなふうに説明していた。
知識がなかったら、的外れな読み方をしてしまう。
生かせないデータなら、とったところで意味がない。