院長ブログ

不眠

2018.6.13

不眠を訴える人は多い。
「寝れないのなら、起きていればいいだけの話でしょ。
寝れないということは、体が眠りを欲してない、ということなんだからさ、そういうときは開き直ることだよ。
ベッドから起きだして、好きな音楽でも聞いて、気楽に過ごせばいい。それで自然に眠くなるのを待つといい」
というアドバイスは、半分当たり。半分間違い。

寝れない人は、その「寝れない」という状態自体に不安を感じがちで、その不安が焦りを呼んで、ますます眠れないという悪循環に陥っている。
「11時に布団に入ったのに、もう2時か。やばいなぁ。明日の朝、早いのに」という具合で、ベッドの中で延々苦しんでいる。
そういうときには、開き直るのも大事だ。
寝れないときはどう頑張っても寝れないもんだ、とベッドから起き上がって、「別に寝なくてもいいや」と腹をくくる。
それで翌日の準備なんかしてゴソゴソしてるうちに、不思議なもので、眠たくなってきて、布団に入ったら今度はちゃんと寝れた、みたいな経験のある人もいるだろう。

半分間違っている、というのは、このアドバイスは寝れない人の気持ちを全く分かっていない、とも言えるから。
「あのね、体的には疲れているんだよ。体はひしひしと休息を求めている。でも、体とは対照的に、頭のほうはすっかり冴えて眠らせてくれない、という感じなんだ。
だからさ、改めてベッドから起き上がって、何かしようだなんて、そんな気持ちにはとてもなれない」
気持ちの切り替えとか、そういう次元の話ではないよ、という訴えであって、こういう訴えにどう対処するかが、医療に期待されていることなんだな。

不眠に対する一般的な医学的アプローチはお決まりで、睡眠薬の投与。これしかない。
一番よく使われるのはベンゾジアゼピン系睡眠薬というタイプの薬で、はっきり言って、これは初めて飲む人にはすごく効きます。
不眠で苦しんでいる人の「すっかり冴えわたった頭」を、もう、問答無用で強制終了させてしまう、という感じだ。
なかには、眠りに落ちるときのこの強制スリープの感覚を嫌がる人もいる。
「奈落に突き落とされるような感じで、眠るというより意識を失う、という感覚に近い」という人もいる。
しかし、ほとんどの人は問題なく使い始める。少なくとも最初のうちは。
短期間の使用にとどめるだけならいいんだけど、ベンゾを長期的に使うと、後々、かなりやばいことになる。
それは、ベンゾには耐性と依存性があるからだ。
耐性というのは、昔なら効いたはずの量でも、その量では効かなくなることだ。体が薬に慣れてしまったせいで、同じ量ではもはや効かないから、量を増やさざるをえなくなる。
依存性とはその名の通り、「もうこれなしでは生きられない」という具合に、はまってしまうことだ。
たとえば、タバコは依存性はあるけど耐性はない。「一本吸っただけではものたりない」とか言いながら一気に二本三本のタバコを吸ってる人って見ないでしょ。
一本吸っただけで、きっちり満足できる。これはタバコに耐性がないからなんだね。
アルコールは耐性も依存性もある。初めて酒を飲んだときのことを思い出してごらん。
ちょっとの量飲んだだけなのに、かなり回ったでしょ。それに比べて、今どうですか。けっこう飲めるでしょ。それが耐性です。

ベンゾはアルコールに似たところがある。というか、ざっくり、「錠剤の形をしたアルコール」と形容してもそれほど間違いじゃない。
ベンゾは睡眠薬だけじゃなくて抗不安薬にも使われるけど、不安なときにお酒飲んで気持ちを紛らせてるような人、いますよね、抗不安薬の作用って実はあれと大差ありません。
「いや、昼間から酒飲んでる人と、あがり症に悩んで抗不安薬を飲んでるまじめな社会人を一緒にするな」と言われるかもしれないけど、そういう倫理的な意味ではなくて、生理学的な意味で、です。
つまり、ベンゾもアルコールも脳のGABA受容体に対して抑制的に作用する。交叉耐性という現象もある。
アルコール依存症者の離脱症状を抑えるのにベンゾを使うことがあるけど、こういう対処をする背景には、両者の相互作用がある。
医者もこういう点をわきまえているから、ベンゾと酒は一緒に飲まないように、と注意されるはずだ。

さて、このベンゾ、諸外国では処方できる期間に1か月とかの上限があるんだけど、日本は基本的に野放し。だから、十年二十年ベンゾを飲み続けているという人も、ざらにいる。
一度ベンゾにはまると、やめるのは相当に難しい。
長期的な副作用として、認知症とか癌とかいろいろあるけど、個人的に一番気の毒なのは、感情鈍麻だ。
人間としての感情、うれしいとか悔しいとか、楽しいとか悲しいとか、そういうのを感じられなくなってしまう。
ベンゾにはまる前は、そういう感情をありありと感じていたのが、長らくベンゾを飲み続けたことで、自分自身の感情をリアルに感じられなくなるんだな。感情を持つことなしに人生を生きるって、どんなに苦しいだろう。
こういうベンゾ依存に陥った人が一念発起して、「なんとか薬をやめたい」って思ったとする。で、そのことを主治医に話したとする。そうすると、先生、きっと困惑するだろう。
ベンゾの減薬、あるいは断薬がどれほど大変なことか、医者も知ってるからね。
そう、一般的な医学ではベンゾ依存の状態には打つ手がないのが実情だ。
ひどい話だね。処方しといて、はまってしまったら、「どうにもできません」、なわけで。
ただ、ありがたいことに、栄養療法にはベンゾをやめさせるためのプロトコルがある。
ビタミンCとナイアシンなどのビタミンを中心とした処方なんだけど、個人的にはアダプトゲン(ロディオラ、アシュワガンダなど)を併用すると非常に効果が高いと感じている。

ベンゾにはまってしまったら大変。
なので、初手が重要です。
不眠になったときには(というか不眠に限らず、何らかの体調不良を自覚したときには)、まず栄養療法を試してみてください。
不眠を訴える患者の話を聞きながら、さて、どのビタミンを使おうかな、と考えるのだけど、栄養療法のすばらしいのは(そして悩ましいのは)、選択肢の多さだ。
つまり、不眠に効くビタミンには複数あって、どれを使おうかというのが悩ましいところ。
患者が経済的に余裕があって「効くビタミンをとにかく一通り、全部出してほしい」というような人ならともかく、普通の人はあんまり多種類の錠剤を飲むのは嫌がるし経済的にも負担だと思うから、その人に特に効きそうな栄養を選ばないといけない。
単純にメラトニン出しといたらいいか、あるいはカスケードでその上流にある5HTPやトリプトファンを出すべきか。ビタミンB群やマグネシウムも補いたいし、日中にビタミンDを飲んでもらって、自前のメラトニン生成を促すのも手か。なんとなく話している感じがうつっぽいから、GABAを出すのもいいかもしれない。いや、アシュワガンダ、ギンコ、バレリアンとかのハーブ系のほうが向いてるかな。
こういう具合に、栄養療法では、打つ手がないのではなく、打つ手の多さという、ぜいたくな悩みに突き当たります。

もちろんサプリ出しといて終わり、ではなくて、食事指導も併せて行います。
具体的には、一度徹底的に糖質を控えてもらいます。
糖質じゃなくて脂質をエネルギー源にして体が動き始めると、ケトン体が生じます。断食してるお坊さんの脳波を調べるとα波が出てて、βエンドルフィンの血中濃度も上がってる。つまり、脂質代謝が優位になると、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスが整って、リラックス状態になる。
別に断食ほど極端な食事制限をする必要はないけど、糖質を減らしてかわりにたんぱく質や野菜を多めに摂ってみてください。
本当のことを言うと、サプリよりは食事改善のほうがむしろ本筋で、食べるものに気を使ってもらうだけで大半の不眠は改善します。