院長ブログ

慢性上咽頭炎1

2020.3.18

サザンの曲にあるように、マンピーにあるのはGスポットだけど、Bスポットと聞いて何か分かりますか?

Gスポットというのは、発見者の名前(グレフェンベルクの頭文字G)に由来するれっきとした解剖学用語だ(エロワードではございません^^)。
一方Bスポットというのは、上記の本(1984年初版)の出版にあたって著者が考えた造語なんだな(鼻咽腔(Biinkuu)のBにちなむ)。だから、一般の医者もこの言葉を知らない。

患者に勧められたことをきっかけにこの本を読み始めたのだけど、衝撃を受けた。
ときどき、こういう名著に出くわす。”Orthomolecular medicine for everyone”もそうだし”Proof for the cancer-fungus connection”を読んだときもそうだった。
「できるだけ多くの人がこの事実を知るべきだ」という使命感のようなものを感じた。こういう衝動を催させる本は、多くはない。
もっとも、この本は英語ではなく日本語で書かれているから、僕が翻訳を頑張る必要はない。「いい本だから、買って読んでね!」でおしまい。
そうではあるが、僕の切り口から、この本がなぜ、どのようにすごいのかを紹介しよう。

僕はものごとを系統的に把握するのが好きなんだな。
たとえば英単語を覚えるにしても、一個一個覚えていくよりは、できるだけ語源で覚えたい。暗記の労力が節約できるのはもちろん、見通しがよくて、記憶の定着もいい。
同様に、病気の原因を考えるときにも、「なぜその病気になるのか(なぜその症状が現れるのか)」を、広く説明する理論に魅力を感じる。
一般の内科学では風邪の薬、インフルエンザの薬、結核の薬、破傷風の薬など、個別の対処法をウンヌンするが、オーソモレキュラーでは「感染症にはビタミンC!」と上流で一気に抑える。簡潔にして明瞭だ。
「病気は外側からのみならず、内側からも生じる」として、カビ(内因性のカビ(CWDs)も含めて)の存在を説く理論を以前のブログで紹介した。一見別々と思われる病気が、カビ毒という一本の糸でつながっている。この理屈も僕好みだな。
そう、「簡単な原理原則で、多くの事象を説明できる」これが、”いい法則”の条件だと思う。

そういう意味で上記著書『堀口申作のBスポット療法』はすばらしい法則を提示している。
それは、「一般に治癒困難とされている慢性的不調(頭痛、肩こり、めまい、倦怠感、関節リウマチなど)は、すべてBスポット(鼻腔ないし上咽頭)の炎症に起因しており、ここにBスポット療法(1%塩化亜鉛をしみこませた綿棒を擦り付ける処置)を行うことで治る」というものである。
堀口氏は30年以上にわたる臨床経験のなかで、無数の難治患者をこの治療法により救ってきた。症例数の膨大さが、この治療の有効性を何より雄弁に語っている。

堀口氏はすでに故人(1908~1997)である。
東京医科歯科大学耳鼻咽喉科の教授時代には、自身の開発したこの治療法を学会などでも積極的に発表したが、保険点数の低く、かつ侵襲的で患者に強い痛みをもたらすこの治療法は、医師からも患者からも評判が悪かった。教授を退官してしまえば、後継者に恵まれなかったこともあって、この治療法はすたれてしまった。ほとんど注目されることなく、不遇の晩年を送った。

確かに、一般受けしにくいだろうと思う。にわかには信じがたい主張だから。
「鼻の奥、のどの奥に、ちょっとした処置をするだけで万病が治るだって?バカも休み休み言え」という声が、医者だけでなく一般の人からも聞こえてきそうである。
しかし、近年ネットの口コミを中心に、Bスポット療法に興味を持つ人が急激に増えている。実際、上記著書は2018年に復刻されるまで絶版となっていて、一時はアマゾンで1万5千円以上に高騰していた。
結局のところ、患者は本物を求めている。多少痛みを伴う治療であっても、それによって真に回復するのであれば、患者はすすんでその治療を受けるものである。
Bスポット療法は、時の経過に耐えて、いまや”知る人ぞ知る治療法”として、ネット界隈で着実な広がりを見せている。

部分と全体、というのは一般に対義語とされている。
しかしこれらの概念を、単純な二項対立ととらえては本質を見誤る。むしろ、部分の中に全体があり、全体のなかに部分があるという、相補性を見出さなくてはいけない。
たとえば、マッサージ。
「足裏のここのツボは肝臓に、ここは目に効く」「耳のここを押すと腎臓に、ここは消化器に効く」などという表現は、「足裏(あるいは耳)という局所に、全身が照応している」ことを踏まえたものである。東洋医学の叡智は、大昔から部分と全身の相関を見抜いていた。
同様に、鼻咽腔は、局所でありながら全身に影響を及ぼす。そもそも解剖学的には、鼻咽腔は、吸い込んだ空気が一番最初に突き当たる”関所”である。
空気には微細なほこりやゴミ、病原菌などのよからぬものも含まれているから、その関所が重要な免疫機能を担っていることは、むしろ当然である。
このことは、嚥下した食塊から体に取り込むべき栄養素と有害な不要物を弁別する小腸に免疫機能(パイエル板)が集中していることと相似をなしているようだ。

ひとつの体内にありながら位置的に離れた臓器同士が、それぞれに影響を与え合う現象が知られている。
有名どころでは、「腸脳相関」である。腸と脳が自律神経や液性因子(ホルモンやサイトカイン)を介して密接に関連している。
医者なら「心腎相関」も知っている(国家試験に出るので^^;)。心疾患(特に動脈硬化、心筋梗塞)と腎疾患(特に慢性腎臓病)が互いに影響しながら悪循環に陥るという概念である。
同様に、上咽頭と大脳辺縁系の間に密接な関係があるとする仮説「上咽頭・大脳辺縁系相関(epipharynx-limbic system interaction)」が近年提唱されている。
上咽頭に処置(Bスポット療法)することで、めまい、けいれん、視力障害、睡眠障害など、むしろ大脳辺縁系に起因すると思われる症状が改善する機序が、この仮説によって説明できる。
長くなりそうなのでまた次回に。