院長ブログ

見えないもの5

2020.3.1

ブログにアップする文章は、それなりのエネルギーを注いで書いている。そのエネルギーの分だけ、それぞれのブログに愛着がわく。だから基本的には、いったんブログにあげた文章は、そのまま残したいと思っている。
ただ、ブログを目にした周囲の親身な人たちが、すぐ僕に連絡をくれたりする。「あっちゃん、さすがにあのブログはまずいよ!」とか^^;
ありがたいことである。こういう助言こそ、得難いものである。
しかし、その助言に対する僕の反応はまちまちである。
「そうやなぁ。さすがにまずいか」と素直に助言をいれて、そのブログを非公開にすることもあれば、「いや、このままでいい。絶対下げない」と突っぱねることもある。「せめてこの箇所の記述は削れ」と迫られ、妥協して修正に応じることもあれば、そうではないときもある。
以下の文章は1年以上前にブログにアップしたものの、諸事情で非公開にしたものである。非公開にするまでの間、1週間ほどアップしていたため、昔から僕のブログをフォローしてくれている人は、読んだことがあるかもしれない。
時間の経過によって、非公開にする理由も動機も消滅したと思われるので、表題を変えて再掲することにする。

「十年近く前のことですけど、マンガやアニメの専門店で働いていたことがありました。
店内には本やDVDはもちろん、同人誌、コスプレ衣装なんかがずらりと並んでいて、先生みたいにアニメ趣味のない人なら、3分とその空気に耐えられないんじゃないかな笑
お客さんは当然というか、オタクみたいな人ばかり。
でもオタクの人って、いい人が多いですよ。繊細でおとなしくて、恥ずかしがり屋で。リアルの女性に堂々とアプローチなんて、とてもできない。拒絶されたら、傷ついてしまう。
でも、拒絶される心配のないアニメのなかのキャラクターになら、思い切って感情をぶつけられる。アニメにはまる人の心理って、そんなところだと思います。
でもみんながみんな、羊みたいにおとなしいかっていうと、そういうわけでもないです。

ある日仕事を終えて、家に帰る途中、背中に何となく視線を感じました。誰かに後をつけられているような気がする。ふっと振り返ると、ある若い男の姿が目につきました。私が立ち止まると、その人も立ち止まる。私が歩き出すと、その人も歩き出す。
気のせいかな、たまたま歩く方向が同じなのかな。
周囲の人気はどんどん少なくなっていく。当時一人暮らしをしていたマンションが、だんだん近くなってきた。それでも、その人、ずっと私の後ろをついてきている。
明らかにおかしいと思って、近所のコンビニに入りました。近く住んでいる妹に電話して、コンビニまで迎えに来てくれるよう頼みました。
すぐに来てくれて、いつのまにかその男の姿もなくなっていました。

数日後、私の家のすぐ近所で、一人暮らしの女性が男に乱暴される事件があったとニュースで見ました。被害女性が男の特徴を覚えていたおかげで犯人はすぐに逮捕されましたが、私、このニュース見て、はっとしました。
私の後をつけてきた男と同じ人かもしれない。警察に電話し、後をつけられたことを話しました。
直接話を聞きたいと、刑事さんが来て、詳しくお話しました。
その後、男の事情聴取から、私もその人のターゲットの一人だったということが分かりました。
私の働く店のお客さんでもあって、そこで私に目を付けたようなんです。被害者女性は、家まで後をつけられ、鍵をかける前に玄関に無理やり侵入、暴行されていました。
危なかった。
本当に危なかったんです。
危険を感じて妹に迎えに来てもらったおかげで助かったけど、後をつけられていることに気付かないで、まっすぐ自分の家に帰っていたら、と思うと、心底ぞっとしました。

そのあたりのてんまつを店長に話しました。すると、店長、
「あのさ、ちょっと変なこと言っていいかな。たまたま尾行されているのに気付いて、たまたまタイミングよく妹が迎えに来てくれて、たまたま犯人が暴行をあきらめてくれた、だなんて、本気で思ってる?君が助かったのはね、偶然じゃないんだよ」
「どういうことですか」
「君の身内、多分君のお父さんだと思うんだけど、いつも君のそばにいるんだよね」

父は私が25歳のときに癌で亡くなっています。
だから、店長がいうところの「父が私のそばにいる」というのは、物理的な意味ではありません。
「お父さん、どんな格好をしていますか」
「男性にしては長い髪で、スカジャン着てジーパンはいてて、おしゃれだね。笑顔の素敵な人だよ」
父の姿そのもので、店長、本当に見えてるんだなって思いました。
父への感謝とかなつかしさとか、何だか感情が胸に急にこみあげてきて、泣きそうになりました。
私は霊感とか全然ないから、そういうの分からないんだけど、いわゆる「見える人」に言わせると、必ず言われます。お父さんが君を守ってくれているよ、って。
先生、そういう霊的な話、大嫌いなんですよね笑
ごめんなさい、でも本当のことなんです」

いや、ちょっと待ってくれ。何も霊的な話が嫌いというわけじゃないよ。別にそういうものの存在は否定しない。
というかむしろ、怖い話とか好きだし、そういうものがあったほうが世の中おもしろいとさえ思う。
見えるものばかりが真実じゃないし、科学が万能じゃないことは当然のことだ。
ただ俺が許せないのは、その「見えなさ」につけ込んで人々の不安をあおり、それで金儲けしている連中のいることだ。
「先祖霊のたたりだ。供養してくれ、でないと成仏できないと言っている。つきましては、当寺では50万円から永代供養を承っておりまして。。。」
「あなたの腰痛の原因は霊障だ。腰に蛇が巻き付いている。除霊には、まず、この70万円の壺を買って頂き、、、」
アホちゃうかと。
こういうぼろい商売してる奴らがいるかと思うと、まじめに仕事する気なくすわ、ほんま。

「先生は、何かそういう、霊的な体験ってしたことないんですか」

うーん、どうかな。
あるにはあるよ。
でも別に、不思議だなぁ何だったんだろうなぁって思うぐらいで、「霊はやっぱり実在する!」とか全然思わないけどね。
勤務医時代のこと。出雲大社の近くにある病院に勤めてたんだけど、若い統合失調症の女性患者を担当した。妄想がかなり活発で、現実見当識は極めて乏しい。会話を試みようにも、ほとんど成り立たない。
そばにはその人のお母さんが付き添っている。お母さんが言う。
「うちの家系の女性は、代々霊媒師をしております。大社からつかわされる神の言葉をうけとり、それを必要とする人にお伝えする。それが我々の仕事です。
この子は元来非常に筋のいい子で、高野山なり恐山なり、霊山で修行すれば相当ものになると思うのですが、残念ながら病気のせいで」
「よくわからないんですけど、何かこう、霊的なものが見えたりもするんですか」
「はい、見えます」
「今、何か、見えてます?」
「娘に聞いてみましょう」
お母さん、ぶつぶつ独語している娘さんに問いかける。
娘さん、こちらを見て、ぼそっと、しかし非常に明瞭な声で、「エイコさん、見守ってますよ」
さすがに衝撃は隠せない。
どこでどうやって僕の母の名を知ったのか。
患者に尋ねるが、再び幻覚妄想の海に沈んでしまい、まともな答えは返ってこない。

ちなみにこの患者さん、甘いものが大好きで、毎日コーラを欠かさず飲んでた。
有能な霊媒師も、コーラの魅力には勝てないんだよねぇ笑