院長ブログ

肉と癌

2020.1.27

古くはアトキンス・ダイエット、最近ではケトジェニック・ダイエット、パレオダイエットなど、食事法には様々なブームがあるが、これらのダイエットにおおよそ共通するのは、”低糖質高タンパク”である。
低糖質食に関しては、おおむね同意する。砂糖などの精製糖質や小麦製品の摂取量は、一生ゼロでもいいと思う。ただ、米から適度な炭水化物を摂るのはかまわないと思うし、「野菜にも糖分が含まれている」として根菜類(人参、ゴボウなど)やかぼちゃまでダメ、とするのはさすがにやりすぎじゃないかな。
高タンパク食についての個人的な考えは、「保留」ということにしている。
「肉や卵をたっぷり食べて、プロテインも飲んで、不調が改善しました」という患者の声を実際に聞く。タンパク不足が不調の背景にあれば、効く人もいるだろう。
ただ、だからといって、「高タンパク食万歳!」とは思わない。
原住民の食事の研究からプライス博士は肉食の効用を説いたが、現代の畜肉と原住民が食べている天然の肉では、同じ「肉」と言っても意味合いが全く違うだろう。
以前のブログで、生の羊肉だけを10年食べ続けて健康を維持している人を紹介したけど、ああいう肉なら体にいいとしても、一般の日本人にはあんな食事法は真似できないだろう。
それに、個人的には牛乳は体に悪いと思っているから、そこから精製したプロテイン(ホエイプロテイン)が体にいいと考える理屈がない。
「低糖質高タンパク食で体調がよくなりました」と言っている人は、案外、高タンパクというか低糖質のおかげで元気になったんじゃないかな?現代病の大半は、砂糖と小麦をやめるだけで治っちゃうものだよ。砂糖や小麦をやめることで腸の炎症がなくなって、消化吸収能力が改善して、結果、各種栄養素(タンパク質も含め)の吸収も高まるから。
もともと肉が好きでもないのに無理やり食べて体調を崩している人を臨床で見ていることもあって、安易に高タンパク食を勧める気持ちになれないんだな。

はたして、肉は体にいいのか悪いのか。科学的研究は、一体どのように言っているのだろうか。
いくつかの論文を紹介しよう。

『赤身肉、加工肉の摂取と癌リスクの関係性についての前向き研究』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18076279
「赤身肉と加工肉はいくつかの部位での腫瘍発生に関与しているが、これらの肉の摂取と癌の悪性度を調べた前向き研究は存在しない。そこで、赤身肉、加工肉の摂取が体の様々な部位で癌リスクを上昇させるかどうかを調べた。
50歳~71歳の男女50万人を8.2年間追跡したところ、53396件の癌が確認された。赤身肉の摂取量が最も多い群と最も少ない群を比較すると、食道癌、大腸癌、肝臓癌、肺癌に関して、統計的に有意な癌リスクの上昇(20%~60%)が見られた。また、加工肉の摂取に関して、摂取量が最も多い群では、大腸癌のリスクが20%、肺癌のリスクが16%増加していた。
【結論】赤身肉、加工肉の摂取のいずれも、大腸癌と肺癌のリスクと正の相関がある。さらに、赤身肉は食道癌と肝臓癌のリスク上昇とも関係している」

これだけ見ると、「もう肉を口にするのはやめておこう」と思っちゃうかもしれない^^;
でも、こういう研究もある。
『肉と癌』
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0309174009001764
「ますます多くの研究が、肉の摂取量(特に赤身肉と加工肉)と癌リスク(特に大腸癌)の上昇の関連性を示している。
しかし、この癌リスク上昇は、肉それ自体のせいというよりは、肉の摂取に伴う高脂肪摂取の影響、かつ(または)、様々な調理方法による発癌物質の生成の影響が、関係している可能性がある。また、癌リスクにはある種の遺伝子型が関係しているかもしれない。肉の摂取量との相関が見られる癌は、肉の調理時(あるいは摂食時)に抗癌作用のある食品と一緒に食べたり、調理法に一工夫して、発生率が減少する可能性がある。
また、そもそも、肉には抗癌作用物質(オメガ3系多寡不飽和脂肪酸、共役リノール酸など)が含まれているものである。特に赤身肉は、抗癌作用のある微量栄養素(セレン、ビタミンB6、B12、Dなど)の重要な供給源である。肉を食べる際には、他の食品との食べ合わせや肉の調理法の工夫によって、潜在的な癌リスクから身を守ることが重要である」

肉を食べるほど癌になりやすい、というのが疫学の示すところだけど、この論文はそういう事実を踏まえた上で「肉食ったら癌になるぞ!」と脅すのではなく、調理法や付け合わせ次第で肉の癌リスクは軽減するはず、としている。理性的な、いい論文だね。
以前のブログで、ネギ科植物(ニンニクやタマネギなど)に抗癌作用があることを紹介したけど、ステーキの付け合わせにニンニクを添えたり、すき焼きにネギやタマネギのスライスを一緒に入れるのは、結果的に肉の発癌性を打ち消す格好になっている。食文化の知恵が、科学的にも理にかなった食べ方になっているというのは、おもしろい偶然だね。

Dr.Sebiは「肉の過食は体を酸性にして癌のできやすい体質にするが、野菜は体をアルカリ性にして癌のできにくい体質にする」と言っている。
西洋医学的には、肉=酸性とか野菜=アルカリ性といっても、何を言っているのか意味不明でお互い分かり合えないようだけど、結論は共通していて、どちらも「肉の過食は癌の可能性を高める」と言っている。
人間の本来の食性は、多分、雑食だから、何事もあまり極端に走らないのがいいと思うよ。