院長ブログ

薄毛治療

2019.11.11

これは麻生先生に分が悪くて、説得力ゼロ、と言われても仕方ない(´Д`)
ただ、AGAスキンクリニックのノウハウすべてが間違っているとは思わない。
内服(ミノキシジルとフィナステリド。女性にはミノキシジルとスピロノラクトン)と頭皮への注射(ミノキシジルと成長因子)が治療の柱だけど、効く人には確かに効く。
もちろん改善の具合にはばらつきがあって、「劇的に生えた」という人もいれば「まぁ多少増えたかな」程度の人まで、様々だ。

ミノキシジルの有効性を検証した研究は複数あるが、そのなかからいくつかを紹介しよう。
『AGA(男性型脱毛症)に対するメソセラピー(薬剤の局部注入療法)と5%ミノキシジルの局所塗布をダーモスコピーで評価した比較研究』
http://www.ijtrichology.com/article.asp?issn=0974-7753;year=2019;volume=11;issue=2;spage=58;epage=67;aulast=Gajjar
目的:AGAに対してメソセラピーと5%ミノキシジルの局所塗布、どちらが有効かつ安全であるかを比較することが本研究の目的である。
方法:49人のAGA男性を無作為に二つの群(メソセラピー群25人とミノキシジル塗布群24人)に振り分けた。
メソセラピー群の被験者は合計8回の局所注射を受け、ミノキシジル塗布群の被験者は4か月間1日2回ミノキシジルを塗布した。
結果は写真、ダーモスコピー、トリコスキャン(皮膚計測機器)、7点標準評価ツール、患者自己評価スコアによって一か月おきに評価した。
結論:メソセラピー群において、ミノキシジル塗布群よりも、治療前と治療後で毛幹の径が有意に大きくなった。
ただし、ダーモスコピー、トリコスキャン、患者自己評価スコアでは有意差がなかった。AGAにおいて、メソセラピーはミノキシジル塗布にまさる有意な改善はなかった。

わざわざ頭皮に注射しても、ミノキシジルを塗る以上の効果は特になかった、という結論。
薄毛治療のクリニックで行われるメソセラピーは一般に非常に高額である。上記はその意義を全否定する研究であり、なかなかに衝撃的だといえる。
逆に、効果があったとする研究もある。たとえば以下の論文。

『女性におけるAGA治療において2%ミノキシジル局所塗布と局所注射(メソセラピー)の比較研究』
https://pdfs.semanticscholar.org/6db0/79bde239ed48c27cdfb29b007de0f74972a4.pdf
結論:女性のAGA治療において、メソセラピーによるミノキシジルの局所注射は、局所塗布よりも有効である。

女性で薄毛に悩む人は多い。こういう人はたいてい食生活の偏り(甘いもの、小麦の多食)があるもので、食事の改善で大半が回復する。
しかしそういう知識は一般的ではないから、自分で治そうという発想がそもそもない。そこで他力本願、美容クリニックを訪れ、高額な治療費を払うことになる。
上記論文では、メソセラピーのほうが局所塗布より効果があった、とのこと。

『ミノキシジルの局所塗布で男性型脱毛症を治療する男性の長期フォロー』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3549803
41人の男性型脱毛症の男性に、ミノキシジルの局部塗布を132週(2年9か月)にわたって続けてもらい、その効果を1インチ標的エリア頭髪計測法でフォローした。
2%ミノキシジル塗布群、3%ミノキシジル塗布群、プラセボ群に振り分け、1日2回局所に塗布した。
研究開始から12か月後、被験者全員3%ミノキシジルに切り替え、1日2回の塗布を1年間続けてもらった。その後、被験者を1日1回塗布群と1日2回塗布群に無作為に振り分け、残り9か月フォローした。
2年目時点以後、1日1回塗布に切り替えた群では、非うぶ毛(nonvellus hair)数は、ベースラインの1年目時点の平均291.2本から、235本(2年9か月時点)へと変化した。
1日2回塗布を継続した群では、非うぶ毛数がベースライン1年目の平均323本から335本(2年9か月時点)へと変化した。
非うぶ毛数が減った被験者は、どちらの群にもいたが、1日1回群のほうが1日2回群よりも減った本数が多かった。ただ、非うぶ毛数が最初のベースラインよりも減った人はいなかった。

ミノキシジルは効果があったよ、それも1日1回ではなくて1日2回の方がより効いたよ、という論文。
しかし一般に、「クスリはリスク」である。
薬には副作用がつきもので、それはミノキシジルも例外ではない。たとえば、以下のような症例報告がある。

『ミノキシジルの局所塗布は、非動脈性前部虚血性視神経症(NAION)の原因か』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5028441/
5%ミノキシジルの局所塗布でNAIONを生じたが、使用の中止により回復した症例報告。
ミノキシジルはもともとは降圧薬として研究・開発された薬である。
しかし治験中、被験者のなかに髪の毛が生えてきた人がいたことから、脱毛症治療薬として売り出されたという経緯がある。
だから循環器系への副作用(血圧低下、頻脈、浮腫など)は当然想定されるし、局所塗布ならかゆみや接触性皮膚炎なども起こり得る。
こうした副作用は医者のほうでもよく承知しているが、患者から「最近目がぼやけ視力が下がっています」と言われても、まさかミノキシジルが原因とは思いもよらない。
レアな副作用ではあるだろう。しかし、医者のほうで認識しておかないと、失明など最悪の事態を防げない。
ただの毛生え薬、という軽い認識では危険だ。