院長ブログ

14属元素(C Si)

2019.9.29


化学の授業で、周期表を見たことがあるだろう。
14属元素に注目すると、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、と続く。
同族元素は最外殻電子の数が同じで、化学的性質が似通っている、と学校で習う。

炭素は有機化学の花形で、水素や酸素とともに、生命を構成する中心的な元素だ。
一方、そのすぐ下にあるケイ素は、有機化学での扱いは軽い。
どちらかというと、鉱物や無機物を構成することが多い元素で、無機化学の登場キャラ、といった感じだ。
「炭素を生命の元素だとすると、ケイ素は死の元素だ」という人もいる。
どちらも手の数が同じ(最外殻電子の数が4個)なのに、一方は生命を司り、他方は死を司るという、真逆のイメージで語られている。

SFものの小説や映画では、炭素の代わりにケイ素からなる『ケイ素生物』がしばしば登場する。
しかしこういう生物は化学的にあり得ないと言われている。
炭素は手が4本あって、単結合だけではなくて二重結合とか三重結合とか、わりと自由に結合できるが、ケイ素は基本的には単結合しかとれない。
さらに炭素がグラファイト(黒鉛)、ダイヤモンドのような平面構造だけでなく、フラーレンのような球状構造までとるのに対し、ケイ素はせいぜいダイヤモンド構造をとるくらい。
炭水化物、脂質はもちろん、アミノ酸を作ることができるのも、炭素のある種の「身軽さ」のおかげで、そういう炭素に比べて、ケイ素はいかにも柔軟性がなさすぎるんだ。

ケイ素は地殻に含まれる分子のなかで、酸素に次いで2番目に多い元素である。つまり、地球は「酸素の星」であると同時に、「ケイ素の星」といっても過言ではない。
しかしこんなに豊富にある元素でありながら、生命を構成する要素としてはマイナーな印象だ。
せめて炭素のようにメインを張る元素でなくとも、鉄が赤血球に利用されるように、マグネシウムが葉緑体のクロロフィルに利用されているように、ケイ素が生体にもっと利用されてもいいところだが、ケイ素といえば何、とイメージが浮かぶ人はあまりいないだろう。

RDI(アメリカの栄養摂取基準)も定められていないケイ素だが、しかし、生体にとって必須の微小ミネラルだ。
それは、組織を分析してみればわかる。骨、腱、動脈、肝臓、腎臓など、ケイ素を含む臓器は数多い。体は、必要があるからこそ、ケイ素を取り込んでいる。

「君がいなくなって初めて、君が僕にとって大切な人なんだと気付いた」
何かのドラマにありそうなセリフだが^^;、一般にある物質が必要であるかどうかは、それを抜いてみてどうなるかを観察してみればいい。
不要なものなら、何ら問題は起こらないだろう。しかし必要なものであるなら、異常が現れる。
ケイ素欠乏食を与える研究では、頭蓋骨、四肢の骨の変形、関節形成不全、軟骨量、コラーゲン量の減少、大腿骨、脊椎のミネラルバランスの破綻といった症状が確認されている。
逆に、過剰に摂取させればどうなるか。現在のところ、水溶性ケイ素の過剰摂取による毒性の報告はない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17435951
「摂るメリットしかない栄養素」といっても過言ではないだろう。
特に骨への影響は大きい。骨粗鬆症予防には、カルシウムではなくケイ素(とマグネシウム)の摂取を心がけるべきだ。