院長ブログ

スポーツドリンク

2019.7.5

「今日も暑い日になります。熱中症予防のために、こまめな水分補給を心がけましょう」
と気象予報士の姉ちゃんがいう。
しかし、これは大きなお世話じゃないかな。
のどが渇いたら、飲むなと言われたって飲むし、のどが乾いてなかったら、飲まないよ。
でも、こういうことを言うお医者さんがいる。
「熱中症を予防するためには、のどが渇いてからでは遅い。渇きに先回りして、事前に水分補給に努めるべきだ」
本当?
馬を水場に連れて行っても、のどが渇いてなければ絶対に飲もうとしない。
動物は自分の感覚優先だけど、人間は小知恵が働くから、エラい人から言われたら「そんなものかな」って思って、のどが渇いてなくても飲んでしまう。
しかしまぁ、だいたいにおいて、医者の言ってることはデタラメだからね。
まずは疑ってかかるのがいいよ。
ただ、そういう俺も医者だけど^^;

正常を知るために、異常を研究する。対比が物事の本質を浮かび上がらせるのは、よくあることだ。
世の中には、真夏の炎天下にマラソン大会に参加するような酔狂な人がいる。こういう人たちは相当に極端なことをしているわけだけど、彼らの生理を研究することで、逆に、普通一般の人たちが夏の暑さにどう対処すべきか、ヒントを得ることができるんだな。

1980年代に入って、マラソン業界に不思議な現象が起こり始めた。
マラソンのレースディレクターやランニング雑誌などが、こぞって「マラソン中の給水は必須」と言い出したのだ。
「のどの渇きを信用するな」「目玉が浮くほど飲め」とランナーたちは教えられ、今やマラソン中の給水は日常的な風景となった。

ところで、42.195kmを最も速く走る動物は何か、知っていますか?
それは、人間です。
人間は、短距離走ではチーターに及ばないし、パワーでは熊にかなわない。鳥のように空を飛ぶこともできないし、クジラのように水中で生きられない。
自然界でこれといって特技のない、どちらかというとひ弱な動物である人間が、長距離走となれば、無類の強さを発揮する。
脱水に強く、その気になれば給水なしに100km走ることさえ可能だ。いつ、どれくらい水を飲めばいいかは、体がわかっている。アフリカの炎天下、この走行能力を使って獲物が疲れ果てるまで追い込み、仕留める。人間はこうして数百万年を生き抜いてきたのだ。
ティモシー・ノークス博士は以下のように指摘している。「進化の過程で、ヒトは長距離走の名人になった。暑いなか運動するにあたって、比類ない体温調整能力を備えている。さらに、我々の脳は水分補給の欲求を後回しにする能力を発達させた。これは、水が少ししかなく、狩りを中断して水を探す余裕もない暑い日中に獲物を追いかけるには、極めて重要な能力だ」

しかし1980年代になって急に、米国スポーツ医学会は、マラソンの際の水分補給の重要性を言い始めた。人類が急に脱水に弱くなって、走るのに給水が必須になった、というのだろうか。
明らかにバカげている。
事実、過去の記録を調べると、そのバカバカしさが明確になる。
ノークス博士は、マラソン中の給水が一般的になる前の時代のランナーたちは、のどが渇いても平気だったことに気付いた。
「ガムを噛むだけで、水分はまったくとらなかった」と1908年にマラソンの世界記録を作ったマシュー・マローニーは言った。マイク・グラットンは1983年ロンドンマラソンで水を一口も飲まずに優勝した。
コムラッズ(南アフリカのウルトラマラソン。89kmを走る)で5回優勝した伝説のランナー、アーサー・ニュートンは「一番暑い日でも26マイル走るには、1回か、多くても2回の給水で充分」と考えていた。
カラハリ砂漠のサン人は今も摂氏42度の暑さのなかで、ほんの数回のどをうるおすだけで7時間走ってみせる。

それなのに、なぜ急に、アメリカスポーツ医学会は「のどの渇きは運動時に必要な水分の指標として信用できない」と宣言するのか。
コムラッズでは給水所の設置が当たり前になる以前には、一度たりとも脱水症や熱中症が問題になったことはなかった。
脱水症や熱中症が深刻な問題になったのが、頻繁な水分摂取が常識になった後というのは、一体どういうことなのか。
ノークス博士は様々なマラソンのデータを分析した結果、結論した。
「脱水症が原因で死亡したマラソンランナーは、いまだかつて一人もいない」
ところが、水分を多く摂取するランナーに目を向けると、話が変わってくる。マラソンによる死者は、すべてそこに起因していた。
アメリカでは特に暑くもない日にマラソンランナー3人が死亡していた。イギリスでは、自分のクライアントに水分摂取を指導していたインストラクターが、ロンドンマラソンの完走直後に亡くなった。2000年ヒューストンマラソンでは給水所が1マイル置きに設置されたが、数十人のランナーが医療テントに運ばれた。
ノークス博士は言う。「彼らは、溺れていたのだ。水が足りなかったのではなく、多すぎて死んだのだ。水分の過剰摂取により血中ナトリウム濃度が低下し、脳浮腫を起こした。脳浮腫は、脳圧亢進による脳の低酸素状態を引き起こし、結果、ランナーを死に至らしめた。つまり、ランナーの死因は水中毒だ」

スポーツ飲料メーカーなどの巨大企業がすべてを抑えている。スポーツ医学界、テレビ、新聞、雑誌の一大スポンサーとして、多額の資金を提供し、自社製品の販売促進に余念がない。
地球上のすべての生物は、いつ、どれくらい水分をとればいいかわかっている。牛も犬も赤ちゃんも、皆わかっている。しかし、人間は違う。自分の感覚を信じないで、医者が言うから、気象予報士の姉ちゃんが言うから、「暑いときにはこまめに水分補給しよう」と思う。
しかしそれはでっち上げだ。もちろん科学的根拠なんてない。ニセの健康不安を煽りたて、結果、マラソンランナーたちは本当の健康被害を受けた。人々をだまして水分が足りないと信じさせ、飲みすぎるよう仕向けた。それはマーケティングによる死だった。

『ボストンマラソンのランナーにおける低ナトリウム血症』
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa043901
この論文、簡単に要約すると、「タイムの速い一流ランナーは完走後、体重が減っていたが(飲む量が少なく、しっかり汗をかいていた)、タイムの遅い素人ランナーほど、完走後の体重が増えていた(走ってる最中に水飲みすぎて腹チャポチャポになってる)」ということ。後者は、スポーツ飲料メーカーにとっての「いいお客さん」であり、また、低ナトリウム血症による死のリスクが最も高い人でもある。

ちなみに、マッチョになるために筋トレを頑張ると同時に、プロテインをたくさん飲んでる人がいるけど、「プロテインで筋肉増量」っていうのも、企業のマーケティングだよ。
https://www.livescience.com/8086-protein-supplement-myth-revealed-body-work.html
もちろん、プラセボ効果もあるだろうから多少効くだろうし、栄養状態が不良で肉、魚、卵とか食事由来のタンパク質が不足しているなら、プロテインを摂る意味はあると思う。
個人的には牛乳は体によくないと思っているから、牛乳由来のプロテインパウダーは、あえて人には勧めない。でも、下痢しちゃうのに無理に飲もうとしてる人なんか見ると、ずいぶん気の毒だね。

参考
・”Natural Born Heroes”(Christopher McDougall著)
・ミオンパシー整体院UROOMの續池均さんから大きな示唆を得ました。ありがとうございます。