院長ブログ

老化のトリアージ理論2

2019.6.7

ビタミンKの働きを生理学的に見た場合、その作用はひとつだけ。
ビタミンK依存性タンパクをカルボキシル化すること、これだけだ。
カルボキシル化されるタンパクにはいろいろあって、それに応じて様々な作用があるが、ビタミンKの摂取量が十分かどうかを調べるには、そうしたビタミンK依存性タンパクの活性化の具合を調べてやればいい。

実験的に、人にビタミンKが不足した食事を与え続けると、カルボキシル化されていないオステオカルシンが増える。さらに数週間後には、カルボキシル化されていない凝固因子が増える。
ビタミンKは骨の健康(K2)だけでなく、血液の凝固(K1)にも関わっているが、この実験からわかることは、体は、骨の健康よりもまず先に、凝固系の健康を優先するということだ。
なけなしのビタミンKを凝固能の維持にまわし、骨の健康は次第に蝕まれていくわけで、これはトリアージ理論の例証になっている。
凝固系に異常が現れるようになれば、ビタミンK不足が猛烈に進行しているということだ。一方、軽いビタミンK不足が慢性的に続くなら、凝固系は維持されるものの、骨粗鬆症や動脈硬化が着々と進行することになる。

「長期間のビタミンK2欠乏は、加齢による変性疾患(骨粗鬆症、動脈硬化、結石、癌を含む)の独立したリスク因子である」というのが、現在の学者の結論だ。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21427421
「独立したリスク因子って何だ?独り立ちせずに親元で暮らしているリスク因子ってのもあるのか」とか思いますか^^;
ある病気のリスク因子には、年齢、性別、タバコ、酒、遺伝などいろいろあるんだけど、リスク因子の相関が結果に影響している可能性がある。「ある要因が単独で、結果にモロに影響している」と言えるとき、それを、独立したリスク因子という。
たとえば、「BMI25以上であることは癌の独立したリスク因子である」とか「睡眠障害は糖尿病の独立したリスク因子である」みたいに言います。
裏を返せば、やせれば癌リスクが低下するし、ちゃんと眠れると糖尿病のリスクが低下するということだ。
「ビタミンK2欠乏は慢性疾患の独立したリスク因子である」なんて聞くと、一瞬恐ろしい感じがするけど、要するに、K2をきちんと補えば慢性疾患のリスクが低下しますよ、と前向きに解釈することもできる。

老化のトリアージ理論は、別名、栄養必要量のトリアージ理論、ともいう。この考え方に照らせば、国の決めた栄養の1日推奨量(RDI)はいかにもデタラメだとわかる。RDIは、急性(短期間の)欠乏症を防ぐのに必要な最低限の量に基づいて設定されている。
トリアージ理論によれば、どんな栄養素であれ摂取量が最適量に満たない場合、長期的には代償を支払うことになる。ビタミンK2が不足していても一見健康そうな人はいるが、支払いを後回しにしているだけのこと。そういう人のところにも、いつか必ずツケの回収屋が来るはずだ。

具体的に、ビタミンK2をどれくらい摂取すればいいのか。
K2の有効性を確認する臨床治験では、骨粗鬆症の場合は180μg、動脈硬化の場合は360μgで行われることが多いから、このあたりを目安にすればいいだろう。
食品からではなく、サプリで摂るのなら、できればビタミンD3とAも併せて摂りたい。なぜか。
D3とAは、オステオカルシンやMGP(基質glaタンパク)の産生を促進する。それらのタンパクを活性化させるのがK2の仕事だ。K2抜きで、D3(あるいはA)だけを摂っても、タンパクの作りっぱなしで、肝心の活性化が行われない。非カルボキシル化オステオカルシンなどの非活性型タンパクは、骨に行かず、血管内壁や皮膚などの軟組織に沈着して、むしろ体の老化を促進する要因になる。
だからこそ、この3つをセットで摂るのが理想的なんだ。

ビタミンK2とD3とA、これらが三位一体であることを説明するために、Kate Bleue氏はこの写真を示す。
左端にいるこっち目線の男は、ビタミンD3。力が一番求められそうなポジションで、いかにもカナメって感じがする。近年D3の重要性はあちこちで言われているから、まさにこのイメージだろう。
左の男の股間に顔を埋めている格好の男がビタミンA。手を支えられて水平状に浮かんで、何をしているのかよくわからない^^;実際のビタミンAのイメージもそんな感じで、最近はひどく誤解され有害性が強調されている。しかし、この三者のピラミッドで、Aがなかったらどうなるか。たちまちのうちに崩れてしまうだろう。
D3のサプリを服用する人は増えている。しかしAを補う人は少ない。これではピラミッドが成り立たない。
トップで逆立ちしているのがビタミンK2だ。D3とAなしではK2は転落してしまう。
逆に、K2が華々しい仕事ができるのも、D3とAがあってこそだ。

もう少し、D3やAの作用機序にまで踏み込んで話をしよう。これらのビタミンの効き方は、B群やCなどの水溶性ビタミンやミネラルの効き方とは相当異質だ。
水溶性ビタミンやミネラルが、体内のタンパク質(たいていの場合酵素)の補因子として働くのに対して、D3やAは、いわば、もっと「根っこ」のところ、細胞の核内にある受容体に直接作用する。具体的には、DNA情報がmRNAに転写され、tRNAが固有のアミノ酸を運んできて、タンパク質が産生される、というセントラルドグマに則って作用を発現する。これがD3やAの効き方だ。
こうして産生されたタンパク質に対して、補助因子として働くのが水溶性ビタミンやミネラルであり、活性化するのがK2の役割だ。
「脂溶性ビタミンがない状態では、水溶性ビタミンやミネラルの効果が半減する」とプライス博士は1930年代に指摘していた。D3やAが核内受容体を介して作用発現することなど、当時は知られていなかったわけだから、時代がようやくプライスに追いついた格好だ。

参考
“Vitamin K2 and the Calcium Paradox”(Kate Bleue著)