院長ブログ

ビタミンD

2019.4.7

温かくなって、いい季節になってきた。
温かいことで、医学的にどんなメリットがあるか?
温かいから、薄着で外を歩くことができる。薄着だから皮膚の露出部分が多い分、日光によく当たる。日光が当たると、皮膚でビタミンDが生合成される。
ビタミンDはほとんど「万病に効く薬」と言ってしまいたいほど、心身にプラスの効果がある。

精神的には、抗うつ作用がある。冬季うつなんかは、ビタミンD欠乏性うつと呼ぶべきで、ビタミンD補充がテキメンに効く。一般の精神科ではルーチンで抗うつ薬が処方されているけど、ベターチョイスがなおざりにされているのは(というか医者がビタミンDにまったく目を向けていないのは)、悲しいことだね。
さらに、血中ビタミンD濃度の高い人ではアルツハイマー病になりにくい、というのが疫学の示すところだ。

骨の病気(骨粗鬆症、くる病、骨軟化症)にも効くから、若い女子諸君は紫外線を恐れるあまりに日光を過剰に避けるのはよくないよ。
シミはあるけど骨がタフで頭もしっかりしているおばあちゃんと、美肌だけど骨折で寝たきりで認知症のおばあちゃん、どっちになりたいですか。「綺麗になれたそれだけで命さえもいらないわ」ってテレサ・テンが歌ってるけど、常識的には、まず、キレイさよりも健康でしょう笑。
若いときに運動部で頑張っていた人は、高齢になっても骨粗鬆症になりにくいことが分かっている。運動による機械的刺激で骨がタフになったということもあるし、成長期の大事な時期にしっかり日光を受けることで、ビタミンDの生合成が促進され、骨が強くなっている。その貯金(貯骨)のおかげで、高齢になっても骨粗鬆症になりにくいわけだ。
ビタミンDが不足すると、副甲状腺機能が活性化し骨の脱灰が促進され、骨粗鬆症が進展する、という機序もある。

「サーファーに花粉症なし」という格言がある。
「夏にサーフィンするんだけど、その時期だけは花粉症が治る。食べ物とか特に気を使ってるわけじゃない。いつも通り、コンビニ弁当とかジャンクフードばっかり。でもなぜか、この時期だけは調子がいい」こういうサーファーがたくさんいる。
このメカニズムは?
海辺の強い日差しを浴びて、血中のビタミンD濃度が高まる。さらに、海水に含まれているミネラル(特にマグネシウム)が経皮吸収される。
ビタミンD、マグネシウム、いずれにも抗アレルギー作用がある。
マグネシウムが欠乏すると、IgE、炎症性サイトカイン、ヒスタミンが増加することが分かっている。いずれもアレルギーに関係するマーカーだ。
(『皮膚アレルギーにおけるマグネシウム』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17928798)
日照量と自己免疫疾患(1型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、SLEなど)の関係性についてのエビデンスは膨大で、ここにも当然ビタミンDが関与している。でも膠原病内科の医者で、患者にリウマトレックスじゃなくてビタミンDを投与している人を僕は見たことがない。これも悲しい現実だね。

1型糖尿病は免疫疾患だけど、2型糖尿病はどちらかというと生活習慣病だ。でも、2型糖尿病にもビタミンDが効く可能性が示唆されている。つまり、疫学では、血中ビタミンD濃度と2型糖尿病発症率の間に逆相関が見られた。

ビタミンDには抗癌作用がある。日光曝露量が少ないこと、血中ビタミンD濃度が低いことが、大腸癌と乳癌のリスク因子であることが分かっているし、逆に、ビタミンDのサプリを予防的に服用することで癌の発症率が低下する可能性がある。

腸内細菌の研究から、「腸脳相関」ということが言われ始めて、最近ではさらに、「腸脳皮膚相関」を唱える先生もいる。確かに、発生的には脳と皮膚はいずれも外胚葉由来。いわば共通のご先祖を持つ器官で、無関係ではない。
うつ病やアルツハイマー病というのは脳神経系の疾患で、それにビタミンDが効くということは、皮膚疾患にも効果があるのではないか、というのは理にかなった推測で、その通り。実際、アトピー性皮膚炎への有効性が示唆されている。
(『ビタミンD濃度とアトピー性皮膚炎に対するビタミンDサプリの効果』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30284328)
腸内に無数の細菌がいるように、皮膚にも無数の常在菌がいる。腸が荒れると皮膚が荒れるように、腸と皮膚の相関は確かにあるだろう。皮膚の免疫異常のアトピー性皮膚炎にビタミンDが有効だということは、腸の免疫異常(クローン病など)にビタミンDが有効だということも、やはり筋が通っている。
(『ビタミンDと炎症性腸疾患』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21419280)

「ほう、ビタミンDというのはそんなにいいのか。じゃ、ひとつ、自分も飲み始めようか」と思う人は、とりあえず5000 IUあたりから始めるといい。
何らかの不調があってその治療目的で飲む人は、症状次第だけど、25000 IUとかそれ以上の高用量を飲むのもありだけど、同時にマグネシウムとビタミンK2の服用を忘れないこと。
以下に関連論文を訳しておこう。
『ビタミンD欠乏時のマグネシウム補充』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28471760
要約
背景:ビタミンDとマグネシウムは医学で最も研究の進んでいるテーマのひとつであり、人間の健康および疾病に強く関わっている。多くの成人はビタミンD、マグネシウムともに欠乏しているが、医療従事者はそのことを認識していない。
課題:マグネシウムとビタミンDは体内のすべての臓器で利用されているため、不足するといくつかの慢性疾患を発症する可能性がある。栄養と病気の関連についての研究には互いに矛盾したものもあり、仮に栄養を充分に補充しても病状が回復しない可能性もある。サプリの使用は、現時点では、治療というよりもあくまで予防にすぎないと思われる。
データソース:ビタミンDとマグネシウムと各種疾患との関係性についての文献をPubMedで検索した。
結果:中年患者におけるビタミンDとマグネシウムの補充療法は、 非脊椎骨折、全死亡率、アルツハイマー病発症率を減少させた。
結論:一般的に血中ビタミンD濃度の正常値とされている範囲の下限値は、病気の予防にはまったくもって不十分である。疫学調査によると、世界中の全成人の75%が血中25(OH)D濃度が30 ng/mL以下である。近年、ビタミンD不足を意識する人が増えているため、ビタミンDをサプリで補うことが一般的になってきているが、マグネシウム欠乏はいまだ放置されたままである。慢性的なマグネシウム欠乏をスクリーニングで見つけることが難しい。なぜなら、一般的に正常とされている血中濃度だとしても、実際には中程度から重度のマグネシウム欠乏である可能性を否定できないからだ。現在、ヒトにおける体内の全マグネシウム量を正確に評価する計測法は存在しない。マグネシウムはビタミンDの代謝に必須であり、ビタミンDを高用量で摂取すると重度のマグネシウム欠乏を引き起こすことがある。ビタミンD投与による治療を行う際には、充分量のマグネシウムをも併せて補うことが重要である。