院長ブログ

癌治療3

2019.3.19

風邪をひいて、熱が出る。
これは万病を治す治癒反応そのもので、体内にたまった毒物のデトックスはもちろん、癌細胞さえも排除してくれるのではないか、という話がある。
たとえばこんな論文。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5884214/
『癌患者に発熱反応を引き起こすPAMPを用いる治療の安全性について』というタイトル。
要約
ウィリアム・コリーは1895年から1936年にかけて数百人の癌患者の治療にあたったが、その方法が実にふるっている。発熱を引き起こす細菌の抽出液を患者に注射を行ったのだ。
同様の研究として、1940年代にロシアのクリュイエバらがトリパノソーマの抽出液を用いた研究が挙げられる。多くの寛解症例および治癒症例が報告された。
これらの二つの研究において、治療が奏功した理由を分子レベルで説明するなら、『病原体に関連した分子パターン物質(PAMP)』こそがポイントではないかと我々は推測した。
癌のマウスにPAMPを複数回投与することで、固形腫瘍が消滅することを我々は示すことができた。
そこで我々としては、癌の治療に際しては。発熱を引き起こす治療プランを使って、承認された癌治療薬とPAMPを組み合わせて用いることを推奨したい。
この後ろ向き第1相臨床試験において、131人の癌患者に対して、細菌抽出物を用いた発熱惹起療法、発熱惹起療法と承認薬の組み合わせ、承認薬の組み合わせ、これらの治療法の有効性と安全性について我々は報告した。
感染による発熱を引き起こすことで副作用が予想されたが、軽微なものであった。523人以上の患者に対して発熱を引き起こしたが、深刻な有害事象は観察されなかった。

上記の論文は2018年で最近のものだけど、癌の温熱療法は昔からあった。
低体温(35度とか)は癌の増殖に適した環境で、逆に高体温(39度など)は免疫系の活性化と相まって癌細胞が死滅する、と言われている。
風邪をひいたからといって、何も落ち込むことはない。
むしろ大事なのは、風邪をデトックスのチャンスととらえて、上手に利用することだ。
風邪でしんどいからと、むやみやたらに薬で症状を抑え込むのは、実は一番やっちゃいけないことだ。
風邪のときにやるべきことはシンプルで、とにかく寝ること。あとは水分摂取。これだけだ。
これは科学的データというよりも経験的な話だけど、ちょくちょく風邪をひくいわゆる病弱な人のほうが、病気らしい病気をまったくしない人よりも案外寿命が長いのではないか、と思うことがある。
病気らしい病気をまったくしない人は、いざ病気になると癌とか脳卒中とかでぽっくり逝っちゃったりする。
「風邪をひかない人」には、二通りのパターンがあるようだ。つまり、体内に毒物がたまっていなくて本当の意味で健康な人と、風邪をひくことさえできないという人だ。
危険な農薬、食品添加物、遺伝子組み換え食品などが流通している現代日本で、前者の健康を保ち続けるのは相当困難なことだ。
こういう時代だからこそ、上手に風邪をひくことはとても大事だ。

風邪をひくことさえできずに癌になってしまった人に対して、病原体の抽出物を注射してわざと発熱反応を引き起こし、癌の治療に結びつけるというのが上記論文の治療法だ。
しかし、有効性が証明されているにもかかわらず、一般の病院でこの治療法を行っている医者はまずいない。
癌患者にとって不幸なことに、研究と臨床には圧倒的な乖離があって。研究での成果が臨床にまったく反映されていない。
癌の標準治療は何十年もあいかわらず「切る、焼く、殺す」だけ。
ビッグファーマの利益にならない治療法は、絶対に普及することはない。

以下の論文は2019年と最近のものだけど、癌を脂肪細胞に変換しようという発想が斬新だ。
ただ個人的には、実際的な治療法としてちょっと賛同しかねる。MEKインヒビターという抗癌剤を使っているからだ。
しかし製薬会社が利益にいっちょかみしている分、臨床で普及する可能性はあると思う。
https://www.cell.com/cancer-cell/fulltext/S1535-6108(18)30573-7
『脂肪を付けて転移をなくす~浸潤性乳癌細胞を脂肪細胞に変換することで、癌の転移を抑制する』
要約
癌が治療抵抗性を生じたり悪性転化して進行するのは、癌細胞に可塑性があるためである。上皮間葉転換(EMT)のような脱分化のプロセスは、細胞の可塑性を高めることが知られている。
本研究において、我々は癌細胞の可塑性を利用することで、上皮間葉転換に由来する乳癌細胞に分化転換を起こし脂肪細胞に変換させて癌を治療できることを実証した。
分化転換のメカニズムが分子レベルで明らかになることで、治療としてMEKインヒビターとロシグリタゾン(チアゾリジン系抗糖尿病薬)を組み合わせて使うアイデアが出た。
マウスやヒトの乳癌に投与したところ、この組み合わせ療法は浸潤性・播種性の癌細胞を有糸分裂後脂肪細胞への変換を促し、原発性腫瘍の浸潤および転移を抑制する結果となった。