院長ブログ

ビタミンC〜経口と静注

2019.3.10

特に病気のない人が、毎日の健康維持のためにビタミンCを摂るということであれば、サプリの経口摂取で充分だろう。たとえば1錠1000㎎を朝昼夕食後に摂るとか。
しかし、すでにある何らかの症状(疲労感や風邪から癌まで)に対する効果を期待してビタミンCを摂るのであれば、経口よりも点滴が効率的だ。
たとえばこんな文献がある。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15068981
『ビタミンCの薬物動態~経口投与および静脈投与の影響』というタイトル。
要約
高濃度ビタミンCは試験管内で癌細胞に対する毒性が示されている。末期癌患者に対するビタミンCの臨床研究は、当初、臨床的有用性が示されていたが、その後に行われた2件のプラセボ対照二重盲検では有効性が示されなかった。
しかしこれらの研究では、当初の研究とビタミンCの投与経路が異なっていた。
血中ビタミンC濃度が投与経路の違いによって変動するかどうかを見極めるために、17人の健康なボランティアを対象に研究を行った。
ビタミンC(用量は0.015~1.25g)を経口あるいは静脈から投与し、その後のビタミンCの血中および尿中の濃度を計測した。また、1~100gのビタミンC投与により血中濃度がどう変化するかを計算した。
結果、経口よりも静脈注射のほうがビタミンCの血中ピーク濃度が高かった。その差は投与量が増えるにつれて大きくなった。
ビタミンC1.25gの投与によって、平均の血中ピーク濃度は、経口では134.8 +/- 20.6 micromol/Lとなり、静脈注射では、885 +/- 201.2 micromol/Lとなった(+/-は標準偏差)。
薬物動態モデルでは、4時間おきに3gを経口投与(最大許容量)すると、ビタミンCの血中ピーク濃度は220 micromol/L、50gの静脈注射では13400 micromol/Lになる予測であった。また、薬物動態モデルによる予測では、静脈注射したときのビタミンCの尿中ピーク濃度は、経口で最大用量を投与したときの尿中ピーク濃度の140倍高かった。
結論としては、ビタミンCの経口投与では、血中濃度は厳密にコントロールされている。ビタミンCの静脈投与の場合にだけ、血中および尿中のビタミンC濃度が高かった。これによって抗腫瘍効果が生じている可能性がある。
ビタミンC治療の有効性は、経口投与だけを行った臨床研究では判断することはできない。癌治療に対するビタミンCの効能は再評価されるべきである。

経口よりも静脈から入れたほうが血中濃度が上がるという、当たり前といえば当たり前の話なんだけど、こういうことをデータできっちり示しておくのは意味のあることだ。
これを当たり前だとは思っていない医者がいるからだ。
1979年ポーリングとキャメロンがビタミンCの抗癌作用を明確に示したが、すぐにこれを否定する研究が出た。
この研究はびっくりするほどデタラメだった。
ポーリングの研究はビタミンCの静脈投与なのに、経口で投与していたり(同じ10gなら静注でも経口でも効果は同じ、とでも思ったか)、すでに抗癌剤も効かなくなったような末期癌患者を意図的に入れていたり、プラセボ群がこっそりビタミンCを飲んでいたりした。
これはネズミ相手の研究と人間相手の研究は当然違う。ネズミは無口だが、患者には口がある。「ビタミンCが癌に効くらしい」というウワサが広まるのを、研究者は止められない。末期癌患者も生きようとして必死だから、効くものは何でも試す。
こんな具合に、ほとんどRCTの体をなしてない研究だった。当然ポーリングたちも反論した。
しかし医学界はこの研究を有効として、ポーリングのビタミンCに関する仕事は闇に葬られることになった。
どういう方面から手が回ったのか、おおよそ予想がつく。安いビタミンCで癌が治っては、困ってしまう人たちがいる。抗癌剤という高価な毒物を売って儲けている人たちだ。
こういう現状には気が滅入る。でも僕の仕事は世直しじゃない。
医者として目の前の患者に向き合い、必要に応じてビタミンを使っていくだけだ。