院長ブログ

ひまし油

2019.3.8

「ひまし油の塗布で薄毛が改善した」という声がネット上に散見される。
本当に効くのだろうか。
薄毛を恐れる一人として、当方も関心を持たざるを得ない^^;
こういう個々の体験談というのは、自分を実験台にした症例報告としての意味合いはあっても、科学的なエビデンスとしては認められない。
強い説得力を持つには、実薬群(ひまし油塗布群)とプラセボ群を設定した無作為化比較試験(RCT)を行なって発毛の具合に有意差があることを示したいところだ。
しかし残念ながら、僕が調べた限りでは、ひまし油を使ったRCTは見当たらなかった。
しかし、ひまし油は民間療法として数千年にわたって使われてきた歴史がある。その安全性についてはFDAも認めるところだ。経験的に有効とされるのは、薄毛、シミ消し、イボ取り、水虫、関節痛、筋肉痛、頭痛、てんかん、神経炎、肝障害、便秘、虫垂炎、大腸炎、胆嚢炎など、ほとんど『万能薬』と言いたくなるほどだ。

薄毛に効くというエビデンスはないが、ひまし油に含まれるリシノール酸の抗炎症作用については、研究室レベルでのエビデンスがある。
薄毛も含め多くの病気の背景には炎症があることから、ひまし油の薬効はこの抗炎症作用に由来しているのかもしれない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?cmd=search&term=11200362
タイトルは『急性炎症・亜慢性炎症の実験モデルにおけるリシノール酸の効果』。
要約を訳す。
ひまし油の主成分であるリシノール酸の局所投与には著明な鎮痛・抗炎症作用があることが、観察研究によって示されている。薬理学的特性としては、リシノール酸の作用はカプサイシン(唐辛子の主成分)の作用と類似性があることが示されているが、このことから、リシノール酸は感覚性の神経ペプチドを介した神経原性炎症に作用している可能性がある。
本研究の目的は、急性炎症および亜慢性炎症のいくつかのモデルに対するリシノール酸の抗炎症作用を、カプサイシンとの比較から評価することである。急性炎症モデルは、マウスにカラギーナンを皮内注射するか、モルモットのまぶたにヒスタミンを投与することで作成した。いずれの実験においても、浮腫の厚みの程度を計測した。
亜慢性浮腫モデルは、マウスの右足腹側にフロイントアジュバント注射を行うことで作成した。カラギーナンの投与実験では、放射免疫測定によって組織中のP物質(痛覚物質)を測定した。
リシノール酸(1マウスあたり0.9mg)あるいはカプサイシン(1マウスあたり0.09mg)の局所投与によって、カラギーナンによって起こしたマウスの足の浮腫が有意に増大したが、同用量のリシノール酸あるいはカプサイシンの局所投与を8日間繰り返すと、組織中のP物質の減少とともに、カラギーナンによる足の浮腫が著明に抑制された。同様の効果は、モルモットのまぶたにヒスタミンで起こした浮腫に対してリシノール酸あるいはカプサイシンを投与した後にも確認された。フロイントアジュバントによって引き起こされた浮腫(亜慢性炎症のモデル)に対してリシノール酸およびカプサイシンを1〜3週間にわたって投与すると、症状が軽減した(特に皮内に投与すると効果が大きかった)。カプサイシンの投与によって、マウスの足、モルモットのまぶたには、軽度の充血および行動反応(まぶたを掻くなど)が見られたが、リシノール酸ではこのような反応は見られなかった。
本研究の結果に基づけば、リシノール酸は、カプサイシン様の抗炎症作用を持ちながら、同時にカプサイシンのような刺激性のない新たな作用物質として使用できる可能性がある。

ただ、長く人類に使われてきたものだとはいえ、有害事象の報告がないわけではない。ひまし油を髪に塗ったところ、ひどい巻き毛になったという症例報告がある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5596646/
極めて稀な症例で、だからこそ報告されているわけで、こんなレアな症状を恐れる必要はないけれども、「数千年に渡って使われてきたものだから、絶対に安全」というテーゼの反例にはなっていると思う。