院長ブログ

ビタミンの消耗1

2019.2.27

リウマトレックス(メトトレキサート)を処方するときにフォリアミン(葉酸)も一緒に出す、というのは普通の整形外科医もやっている。
単剤投与では葉酸の代謝が悪くなって、薬を飲み続けることができないからだ。いつもはビタミンを目の敵にしている製薬メーカーも、併用を勧めざるを得ない、といった格好だ。
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD000951.pub2/full?cookiesEnabled
しかしこれって、本来おかしな話なんだよね。
メトトレキサートはリウマチだけでなく、癌にも使われるんだけど、抗癌剤としては『葉酸代謝拮抗薬』に分類されている。
細胞分裂の際には葉酸が不可欠なところ、メトトレキサートは葉酸の活性を抑えることで、細胞増殖を抑制する。
だからメトトレキサートによって葉酸の代謝異常が起こるのは、副作用というか主作用であって、併用して葉酸を処方しているというのは、もはや、何をやっているのか意味不明だ。
ブレーキとアクセルを同時に踏むようなことをしたって、患者の体には負担がかかるだけ。もうかるのは製薬会社だけ、という仕組み。

メトトレキサート以外にも、ビタミンの消耗を促してしまう薬はないだろうか。
ほとんど無数にある、というのが僕の答えだ。
理想を言えば、薬は全部やめるのが一番いい。でもいろいろな事情から、簡単にやめるわけにはいかない人もいるだろう。
そういう人には、せめてビタミンの併用を勧めたい。薬の代謝プロセスで消耗したり阻害されたりするビタミンを補うことで、薬剤性の被害を最小限にとどめることができるはずだ。

たとえばコエンザイムQ10という抗酸化物質がある。
これは厳密にはビタミンではないが(体内で生合成できるので)、ビタミン類として扱われることが多い。
加齢につれて産生量が減少していくんだけど、ある種の薬の影響で消耗することも知られている。
代表的なのはコレステロール降下薬(スタチン)だ。
他に、βブロッカー(メトプロロール、プロプラノロール)、抗糖尿病薬(グリピジド、グリベンクラミドのような経口糖尿病治療薬)もCoQ10を低下させる。
コエンザイムQ10は、コレステロールを作るのと同じ酵素(HMG-CoA還元酵素)で作られる。
だから、スタチンの服用によってコレステロールが低下すると同時にコエンザイムQ10も減少するのは、ここでもやはり、副作用というよりも主作用であって、当然の話なのだ。
コエンザイムQ10は細胞のエネルギー代謝に必要なので、これが低下すると筋肉(横紋筋融解症)、脳神経(認知症)など、全身に様々な悪影響が出る。
あと、致命的な副作用ではないけど、頭髪が薄くなるよ。https://www.amjmed.com/article/S0002-9343(02)01135-X/fulltext
以前にもどこかに書いたけど、コレステロールを下げたいならナイアシンを勧めたい。
それでも何か事情があってスタチンを飲まざるを得ないという人は、コエンザイムQ10(100㎎~200㎎)を飲んで、消耗を補っておこう。

ビタミンB群を消耗させる薬は非常に多い。
たとえば胃酸抑制薬(オメプラゾール、ランソプラゾールなどのPPI)。
胃酸のおかげでタンパク質をアミノ酸に分解できるところ、胃酸の分泌を抑えるとどうなるか。
アミノ酸の供給が減るから、たとえば神経伝達物質の合成も低下し、気分、記憶、注意力などに影響が出る。
胃酸の分泌低下によって腸内のpHがアルカリに偏り、さらに未消化のタンパク質が増えることもあって、腸内細菌叢が悪化する。
ビタミン産生菌などの善玉菌が減り、悪玉菌(チアミナーゼなどのビタミン分解酵素を分泌するビタミン分解菌)が増殖し、血中ビタミンが減少する。
人体には微量の金属(ミネラル)が必要だが、食品中のミネラルは胃酸でイオン化することで吸収される。しかし胃酸抑制薬を飲むと、ミネラルの吸収が減少する。
たとえば亜鉛の吸収が落ちれば抗酸化力の低下から様々な慢性疾患にかかりやすくなり、鉄の吸収が落ちれば貧血になり、マグネシウムの吸収が落ちれば不安症や気分障害を発症しやすくなり、カルシウムの吸収が落ちれば骨粗鬆症になりやすくなる。
食品中のビタミンB12はタンパク質と結びついているが、胃酸分泌の低下によってタンパク質の消化力が落ち、同時にビタミンB12の吸収も低下する。ビタミンB12の低下によって大球性貧血を生じる。
つまり、まともな赤血球が作れなくなってしまう。酸素の運搬能力が低下して、易疲労性、記憶力低下、認知症、うつ病などの原因になる。
単に胃酸を抑えるだけで、ビタミンの減少のみならず、これだけの悪影響がある。
胃酸の抑制によって胃部不快感が軽減する、というのは、一時的・局所的には成立しているかもしれない。
でも長期的・全体的に見れば、結局収支はマイナスになっている。
要素還元主義的な医学で、本当の健康を取り戻すことなんてできるはずがない。