院長ブログ

γGT

2019.2.1

血液検査を受けたことがある人なら、γGT(GGT)の項目を見たことがあるはずだ。
「ガンマはお酒の飲み過ぎで上がる」ぐらいなことは一般の人にも知られている。
もう少し詳しい人なら「肝臓、胆嚢の不調で上昇するマーカー」だと認識しているだろうけど、実は医者の認識もせいぜいこの程度なんだよ笑
でもGGTは、解釈の方法を知っていれば、もっと多くの情報を読み取ることができる。
ルーチンの採血で簡単に調べられて費用も安い項目の割りに、体の状態について非常に多くのヒントをくれるから、意味を知らないのはもったいないよ。

まず、GGTは「お酒で上がるマーカー」というよりも「体の酸化を示すマーカー」と解釈したほうが応用がきく。
このあたりの検証した論文がこれ。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15336318
タイトルは『血中γグルタミル転移酵素(GGT)は酸化ストレスのマーカーとして、血中の抗酸化物質と逆相関しているか』。
要約をざっと訳す。
黒人、白人の男女を対象とした一連の研究から、血中GGTが正常範囲内であっても、酸化ストレスの初期マーカーとして使えるのではないかと考えられている。
血中GGTが酸化ストレスのマーカーであるならば、その意味するところは臨床的にも疫学的にも極めて大きい。なぜなら、血中GGTの測定は容易であり、精度も高く、かつ、安価に行えるからである。
9083人の成人を対象として、血中GGTと血中抗酸化物質の濃度の関係を調べた。人種、性別、年齢、総コレステロールで調整した後、血中GGTと逆相関が見られたのは、αカロテン、βカロテン、βクリプトキサンチン、ゼアキサンチン/ルテイン、リコピン、ビタミンCだった(すべてp<0.01)。ビタミンEは血中GGTと相関していなかった。これらの相関はすべて、総エネルギー摂取量、体格指数(BMI)、喫煙の有無および喫煙本数、アルコール摂取量、運動でさらに調整しても変化しなかった。 ビタミンEだけGGTとなぜ相関しないのか謎だけど、それ以外の上記抗酸化物質は、GGTと負の相関が見られた。しかもp値が0.05未満どころか、0.01未満。かなり相関強いよ。つまりGGTが高いということは、血中の抗酸化物質濃度が下がっている可能性が高い、ということだ。 「抗酸化物質の濃度が低い?だからどーした?」と思うかもしれない。 だからどうなのか、ということを説明しよう。 たとえばこの論文。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4620378/#!po=17.5325 『γグルタミル転移酵素(GGT):細胞内抗酸化物質欠乏および疾病リスクの予測マーカー』 GGTはアルコール関連の肝障害の血中マーカーとしてその有用性は確立している。しかしGGTが疾病の経過の予測マーカーとして有用なのは、何も肝疾患に限ったことではない。GGTの上昇は、多くの疾患や病態の発症リスクと関連している。具体的には、心血管系疾患、糖尿病、メタボリック症候群、全死亡率である。GGTが疾病の予測因子として使えることは、世界中から文献報告があり、性別や民族を超えて有用である。本稿では、我々はGGTと血中フェリチンの関係について調べている。また、環境由来の毒物あるいは内因性毒物に曝露することで、酸化ストレスやニトロソ化ストレスが増加する機序についても言及している。1970年代後半以降、GGTとメタボリック症候群およびその関連疾患との関連が言われている。GGTは動脈硬化(動脈壁の硬さとプラーク)、心不全、糖尿病、肝疾患(ウィルス性肝炎も含め)、感染性疾患、致死性の癌などに対して、早期からの予測マーカーとして有用である。 我々は、医学文献からだけでなく、「GGTは将来の疾病リスクに関する優れた予測マーカーである。その他複数の死亡リスク因子と比較しても、その有用性は高い」と実証している生命保険業者の文献も含めてレビューを行っている。 生命保険というのは、構造としてはギャンブルそのものだ。 保険契約を結び、若くして病気になって早死にすれば、お客さんの勝ち。保険屋は保険金を支払わないといけない。逆に、保険契約を結んで定期的に保険料を払っているものの、病気知らずで長く天寿を全うした、となれば保険屋の勝ち。 だから、客が将来、病気しそうかどうかの予測というのは、保険屋にとって社運がかかっていると言っても過言ではないくらいに重要な判断だ。 その保険屋が、これまでのデータ分析から言っている。「GGTと将来の疾病リスクの相関は高い」と。これはなかなか重いよね。銭金がかかって必死な業者の結論だけに^^ この論文は要約だけ読んで済ませてしまうのはもったいないくらいおもしろい。本文はもちろん、参考文献まで興味深い(実は一番最初に紹介した論文も参考文献に挙げられていたものだ)。できれば本文全体を訳して紹介したいぐらいなんだけど、量があまりにも膨大なので、適当にピックアップして紹介すると、、 GGTは、肝臓におけるグルタチオンの枯渇具合を示すマーカーである。グルタチオンの枯渇を引き起こす原因としては、鉄の過剰摂取、外来異物(アルコール、ベンゾジアゼピン系薬物を含む)への曝露、不適切な栄養状態に由来する細胞膜の脆弱性があげられる。たとえば赤血球の膜が脆弱だと赤血球が溶血しやすく、結果、血中の鉄濃度が上がる。鉄は生体にとって有毒な活性酸素種である。肝臓はその解毒処理に追われ、グルタチオンが消耗される。GGTの上昇はそういう病態を反映している。 赤血球から血中への鉄の漏出は、急性の経過をとることもあれば慢性に起こることもあり、症状の程度は様々だ。 アメリカ人の3人に1人はメタボリック症候群だが、この背景には血中フェリチン高値および鉄の過剰摂取がある。メタボリック症候群のイルカを使った研究で、マルガリン酸(C17:0 飽和脂肪酸)を多く含むエサを与えたところ、フェリチンの有意な減少、血糖値、中性脂肪、インスリンの正常化が見られた。こうした改善をもたらした食事変更は、マーガリン(トランス脂肪酸)の代わりにバターを与えたのと同様の効果だと研究者は考えた。バターにはC17の飽和脂肪酸が豊富に含まれている。代謝が改善したのは、これら飽和脂肪酸を食事に加えたことで赤血球の膜が強くなったことが背景にある。 フェリチンを100まで上げることを目標に鉄サプリの摂取を励行する先生もおられて、この指導で救われた患者も確かにいるのかもしれないけど、反対に、上記のように鉄の危険性(鉄摂取に伴うグルタチオンの低下、抗酸化物質の減少、GGTの上昇)を説く文献もある。 一人の先生の主張を金科玉条にせず、いろんな説があることを知って相対的に考えることが、我が身を守ることにつながるかもしれないよ。