院長ブログ

瞑想

2019.1.10

進化的に見ると、脳は建て増しに次ぐ建て増しを経て作られてきた。
まず視床下部は、脳というビルの地階にあって、いわば、空調や電気、ガス、水道などの調整をしている。
具体的には、体温、浸透圧の調整、摂食行動、性行動など、生きるための基本となる機能を担当していて、自律神経の中枢だといえる。
ここがダメにになっては、生存にモロに影響する。
だから、視床下部にできる脳腫瘍って、脳外科医泣かせなんだ。すごく難しいから、外科医もできればこの辺りはいじりたくない。
ビルのさらに上には、大脳辺縁系があり、これは感情の中枢だ。情動(喜怒哀楽、好きか嫌いか、快か不快か)、意欲、記憶などを司っている。
ビルのそれなりに高いところにあるから、仮にここがダメになっても(たとえばうつ病やアルツハイマー病)、死に直結するようなダメージがあるわけではない。
ビルの最上階、最も見通しの良い部屋が、大脳皮質だ。理性、その人らしい思考や行動など、いわゆる脳の高次機能はここが担当している。
人間が他の生物との生存競争に抜きんでることができたのは、大脳皮質のおかげだ。
簡単にまとめると、視床下部「体」、大脳辺縁系「感情」、大脳皮質「考え」ということで、「か」の頭韻でうまくまとまりました笑

これら三つのパートが脳を形作っているわけだけど、これらは相互に影響し合っている。
「わかっちゃいるけどやめられない」というのは、大脳皮質と大脳辺縁系のつなひきの結果、大脳辺縁系が勝ったということ。
座禅を組んで呼吸に意識を集中すれば、心のもやもやがとれて冷静になる。これは大脳皮質が大脳辺縁系や視床下部の暴走をしっかり制御したということだ。
そう、禅による瞑想は極めて人間的な行為だ。
瞑想している犬や猫って見たことないでしょう?これは人間以外の動物では、大脳皮質の形成が乏しいためだ。
豊富な大脳皮質は、人間の特権だ。
「人間らしく生きる」とはどういうことか。哲学的な問いだから、答えは百人百様だろう。
しかし脳科学的には、「大脳皮質の機能を活用して、原始的な脳(視床下部、大脳辺縁系)に左右されないで生きること」と言えるかもしれない。
人間は迷走しがちなものだけど、瞑想で以って迷走から脱却できるのです笑

「わかっちゃいるけどやめられない」という生き方も、ある意味人間らしいと思うんだよね。
でも、自分の本能や欲求の声に負けてばかりの人は、多分、社会的に成功できない。
スティーブ・ジョブズが禅の愛好者だったという話は有名だけど、いわゆる成功者のなかには習慣的に瞑想を行っている人が多い。
瞑想の実践者が言っている。「自分の体さえ思うようにならない人が、自分の人生を思うように切り開けるわけがない」と。

瞑想では呼吸を意識する。
吸う息を何秒、息を止めて何秒、そして何秒かけて吐く、みたいな感じで、何秒かけるかはそれぞれの瞑想の流儀によってまちまちだろうけど、呼吸を意識しない瞑想はあり得ない。
考えてみれば、肺というのは不思議な器官だ。
大きな臓器のなかで、唯一随意的なコントロールがきく。
肝臓や腸だとこうはいかない。
「二日酔いでしんどいから、肝臓の代謝能を高めよう」とか「腸の蠕動を高めて、今のうちにうんこしておこう」とか、できない。
でも肺は非常に特殊で、呼吸のペースを自分で調整することができる。
体をコントロールする秘訣はここにあって、それは人生をコントロールする極意にも通じているのだから、おもしろい。

コントロールできるのは人生だけではない。健康さえもコントロールできる、という論文がある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2048830/
表題は、『慢性心疾患(CHF)を持つアフリカ系アメリカ人の心機能およびQOLに対する瞑想の効用』。
ざっと訳してみよう。
CHFを持つアフリカ系アメリカ人に対し、瞑想によるストレス軽減プログラムを行い、無作為化対照試験でその有効性を調べた。
ニューヨーク分類でクラス2あるいは3であり、心駆出率が0.4未満のCHFで最近まで入院していた23人のアフリカ系アメリカ人(55歳以上)を選んだ。
参加者は瞑想群と健康教育群に振り分けられた。
結果の測定は、6分間の歩行テスト、QOL、幸福度、ストレス度、うつ病評価尺度(CES-D)、再入院率、脳性神経利尿ペプチド、コルチゾルで行った。
治療して3か月後および6カ月後のスコアを最初のベースラインのスコアと比較し、変化を評価した。
結果、治療後6カ月で、瞑想群は健康教育群に比べて、6分間歩行テストはじめ、その他各種の検査項目で有意に改善していた。

昔から、「病は気から」という。
気の乱れが病を引き起こすということを、昔の人は知っていたということだ。
逆に、瞑想することで気の流れを整えれば、病気が遠ざかる。
上記の論文では、動脈硬化にはビタミンEがいいとかトランス脂肪酸は避けるべきとか、慢性心疾患に対する栄養的な面への言及は全くない。
瞑想によって心身が研ぎ澄まされれば、自分がどういう食べ物を口にすべきか、自然とわかるんだと思う。