院長ブログ

遺伝

2018.11.27

「この子がこういう病気になったのは、私の血のせいかもしれません」
ときどき親御さんから聞く言葉だけど、医者としてどう答えたものか、なかなか悩ましい。
答えはケースバイケースだ。
遺伝性が確かに証明されている疾患もあるし、遺伝よりは環境因子の影響が強いものもある。

二十いくつのときだったか、正月に家族や友人とマージャンをしていて、赤ドラを入れようとなった。赤ドラというのは、その牌を持っているだけで1翻つくボーナス牌なんだけど、やってるときに父が「これ、赤ウーピンか」
「見たらわかるやんか」
「いや、色盲やから見えへんねん」と、さりげなく衝撃のカミングアウトをされたことがある。父としては、別に隠していたわけでもないが、あえて言うことでもない、という感じだったのだろう。
しかし、マージャンきっかけで知ることになろうとは、いやはや^^;
色盲はX染色体劣性遺伝だとわかっている。僕にはその遺伝子は受け継がれていないが、姉には受け継がれている。姉はあくまでキャリアであって色盲にはならないが、姉に子供が生まれて、もしその子が男児なら、二分の一の確率で色盲を持って生まれてくる。
こういうのは遺伝だから、受け入れないと仕方ない。

一見遺伝のようだけど、実は環境のせい、というものもある。
たとえばお母さんが妊娠中に酒を浴びるように飲んでいたとすると、子供は胎児アルコール症候群という症状を持って生まれてくることがある。
これは遺伝じゃなくて環境要因だ。
生命の誕生は出産の瞬間じゃない。受精の瞬間から、生命の成長は始まっている。
だから、母胎内の環境が悪ければ、子供がその影響をモロに受けるのは当然のことだ。
アルコールのような胎盤経由の直接的毒物の影響だけではなくて、妊娠中のお母さんが非常に強い精神的ストレスを受けても、子供に大きな影響を与えるという研究がある。
https://www.cambridge.org/core/journals/the-british-journal-of-psychiatry/article/prenatal-exposure-to-maternal-stress-and-subsequent-schizophrenia/E98EA1EC38EA3EDAA55B0BDEE5208295

妊娠中の強いストレスが、児のその後の統合失調症発生率と関係しているかどうかの研究。
1940年5月ドイツ軍がオランダを占領したことで、オランダ国民は強い恐怖に打ちひしがれていた。
この極度のストレスに曝露した群を曝露した時期(妊娠第一四半期、第二四半期、第三四半期)によって分け、また、コントロール群(非曝露群)を設定し、統合失調症の生涯発症率を追跡した。
結果、曝露群で発症率が有意に高かった。特に、妊娠初期(第一四半期)でより高かった。第二四半期曝露群では、性別の違いで有意差があり、女性では低かった。男性で発症率が高かった理由は、男の胎児では女の胎児に比べて脳の発達ペースが遅く、外界からの影響を受ける期間がより長いためと考えられる。

妊娠中にお酒をやめれなかったのはお母さんの意思の弱さだから、そういうお母さんが我が子の不幸を嘆いてもいまいち共感できないんだけど、戦争とか夫からの暴力とか、自分ではどうにもできない状況に巻き込まれ、強いストレスを受けることを余儀なくされたお母さんは、気の毒だと思う。
栄養療法がすばらしいのは、そういうお母さんに対しても、「大丈夫です。栄養状態の改善で、お子さんの症状は改善します」と励ますことができるところだ。
統合失調症は遺伝によるものか環境によるものか、学者がいろいろ議論しているけど、栄養療法的には別段関係ないということだ。
治ってしまえば、治った者勝ちであって、原因が何だってかまわないでしょ。
そういうのを気にするのは学者だけで充分。患者としてはとにかく治りたい一心なんだ。

仮に不治の遺伝性疾患にかかっている場合であってさえ、「遺伝子の呪いです。もうあきらめてください」なんてことは絶対に言わない。栄養療法が有効な病気も確かにあるんだ。
たとえばハンチントン病。治療法の存在しない難病とされている。表現促進現象により、子供世代では発症時期が早かったり症状が重かったりするため、親がこの病気だと子供は非常に不安を持つ。
しかしホッファーが栄養療法(主にナイアシン、ビタミンC、ビタミンE)で見事に改善させた症例を報告している。
http://orthomolecular.org/library/jom/1984/pdf/1984-v13n01-p042.pdf

病気に関しても、才能に関しても、「遺伝だから」の一言で簡単にあきらめてしまう人が多いと思う。
「この症状は遺伝だから仕方ない」「運動音痴なのは遺伝だから仕方ない」「絵がへたくそなのは遺伝だから仕方ない」
何でも遺伝のせいにしてしまうことができる。
こういう、希望の持てない考え方、やる前から努力の意味をつぶしてしまう考え方って、好きじゃないな。

残念ながら病気に関しては、「遺伝だから仕方ない」という症状は、確かにある。僕の父の色盲のように。
でも、一般には不治とされているが、栄養状態の改善によって症状の軽快が見込める疾患は意外に多い。
難治疾患に悩んでいる人は、ダメもとでもいいから栄養療法を試してみよう。
栄養療法の売りは副作用のなさだから、肝心の病気が治らなかったとしても、少なくともデメリットはないはず。
試してみる価値はあるよ。