院長ブログ

質問と回答

2018.11.8

ミオンパシー整体サロン『uroom』にお邪魔して、栄養療法について話をさせて頂いた。
スタッフの皆さんは熱心に聞いてくれて、いくつか質問を頂いた。
その場では答えに窮する質問もあって、「うーん、わかりません。また調べておきます」なんて紛らすしかなかった。
鋭い質問は、自分の不明な点をあぶり出してくれる。それに答えようとする努力が、自分を成長させてくれる。僕にとっては最高の宿題を頂いた格好だ。

「クライエントのなかに、毎晩かなりのお酒を飲まれる方がいます。もう少し酒量を控えられれば体調がもっと良くなりますよ、と助言するのですが、一向にお酒を減らそうとはされません。
ナイアシンがアルコール依存症に著効するとのことでしたが、ナイアシンアミドでも同様の効果が得られますか。当サロンにはナイアシンの取り扱いはなく、ナイアシンアミドのみ扱っていますので、その辺りを伺いたく思います」

アルコール依存症患者にはナイアシン、と決めてかかってる僕には、これは不意を突かれる質問だった。
ナイアシンとナイアシンアミドの違いとして最も大きいのは、ホットフラッシュの有無だ。ナイアシンによる紅潮を不快に思う人には、ナイアシンアミドを使う。
ときどきマニアックな人がいて「ホットフラッシュのあの体が火照る感覚が好きだ」という向きにとっては、ナイアシンアミドでは飽き足らない。「フラッシュしないと気持ち悪いです。フラッシュすると体の内側にこもった熱が発散される感じで、何だか気持ちいいんです。もっと強くフラッシュする方法はありませんか」という人さえいる。
こういう人には、胃が空っぽの状態でお湯で服用することを勧める。逆にフラッシュを出にくくするには、食直後に服用するといい。
他の違いとしては、コレステロール降下作用の有無だ。ナイアシンにはHDLを上げ、LDL、中性脂肪を下げる作用があって、これはスタチン製剤よりも遥かに有効だ。ナイアシンアミドにはこのような作用はない。
ナイアシンとナイアシンアミドの違いとして認識していたのはせいぜいこの二つの違いだったから、ナイアシンアミドにアルコールへの渇望を抑える作用があるのかどうかと聞かれれば、にわかには答えられない。
飲酒欲求の軽減にホットフラッシュが何らかの形で関係しているとすれば、ナイアシンアミドはアルコール依存症に効果がないかもしれない。
調べてみたところ、以下のような文献を見つけた。
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/13590849009003140?journalCode=ijne19
内容をざっと説明すると、、、
依存症の解決法というのはとっくの昔から分かっている。1948年イタリアのオテネロという先生が『Minerve Medicine』誌に寄稿したのが最初の報告だ。でもイタリアのマイナー医学誌だから、広く知られることはなかった。
その後、あちこちで独自に「再発見」されることになるんだけど、ホッファーの仕事もそうした再発見の一つということになる。
さて、第一発見者の名誉を与えられるべきオテネロ先生のやり方は、ナイアシンアミド(1000mg)とチアミン(25mg)を1日2回静脈注射するというものだった。ナイアシンではなく、ナイアシンアミド。ここがポイントだね。
静脈投与であり、チアミンと併用してるんだけど、経口投与でも効かないということはないだろう。ナイアシンアミドでオッケーという裏がとれた形だ。
ちなみにオテネロ先生は特にアルコール依存症を治そう、というのではなくて、モルヒネにハマってしまった人も含め依存症そのものを治そうとしていて、その過程で発見されたやり方だから、他の依存症、たとえば糖質依存とかタバコ依存にも効くんじゃないかな、って僕は踏んでるんだけどね。

「牛乳はもちろん、チーズ、ヨーグルトも含め乳製品は体によくないから避けるべき、というのが先生の主張でしたね。
しかし、その主張の直後、舌の根も乾かぬうちに、プロテインを勧めていらっしゃる。これは矛盾ではないでしょうか。プロテインというのは牛乳の成分を煮詰めた、いわば牛乳の親玉みたいなものでしょう。牛乳の悪影響を列挙したあとに、プロテインの効用を羅列されても、混乱してしまいます。一体どちらを信じればいいのでしょうか」

これは実は内心、僕も思っていたことで、疑問に思われるのはもっともだと思う。
とはいえ、「いやぁ、鋭い!僕も同じことを思っていました!さすがですね!ワッハッハ」と質問者氏とハイタッチして笑いに紛らせる、なんてことはできない笑
牛乳の悪影響については以前院長ブログのどこかに書いたのでここでは繰り返さない。
プロテインの効用については、たとえば以下のような論文がある。
https://go.galegroup.com/ps/i.do?p=AONE&sw=w&u=googlescholar&v=2.1&it=r&id=GALE%7CA118891849&sid=classroomWidget&asid=ae259d73
要約部分をざっと訳すと、、
「牛乳由来のホエイプロテインには多くの効用がある。
ホエイにはラクトフェリン、ベータ-ラクトグロブリン、アルファ-ラクトアルブミン、グリコマクロペプチド、免疫グロブリンが含まれており、免疫を上げる効果がある。さらに、ホエイは抗酸化、降圧、抗腫瘍、抗高脂血症、抗ウィルス、抗菌、キレート作用がある。
ホエイがこうした効果を発揮する機序としては、細胞内でシステインがグルタチオンに変換されることが背景にあると考えられている。
癌、HIV、B型肝炎肝炎、心血管疾患、骨粗鬆症に対して、多くの臨床治験でもその有用性は実証済みである。
また、運動パフォーマンスを高める効果も示されている。」

牛乳の悪影響を列挙したあとに、こうしたプロテインの効用を挙げたものだから、質問者氏の混乱も当然のことだろう。
一応その場でお答えしたのは、「牛乳に含まれているタンパクとして、大まかにはカゼインプロテインとホエイプロテインがありますが、ホエイプロテインとして売られている製品はカゼインフリーだと思います。
牛乳アレルギーはカゼインに対するアレルギーであることが多いように、牛乳の悪影響の多くはカゼインに由来するものではないでしょうか。
プロテインに関しては、過剰摂取で腎臓や骨に負荷をかけるという面はあると思いますが、適量摂取であれば問題ないと考えます」
という具合にお答えしたんだけど、手探りで答えているような雰囲気がありありと出ていて、何とも煮え切らない感じになった。
このやりとりを見て、他のスタッフの人から「カゼインフリーと堂々とうたっている製品でも、私は飲めません。乳糖不耐症のせいかもしれません」との声があがった。
難しいね。合う合わないの個人差もあるだろうし。ある食品がいいか悪いかを一般論として語るのは、本来無理なことなのかもしれない。
それに、ここには僕みたいな論文バカが陥りがちな落とし穴があると思う。
実は論文というのは、互いに矛盾する成果を主張しているものも決して少なくない。
タバコの害を説く論文は山ほどあるだろうが、タバコの効用を主張する論文だって存在する。糖質の効用と害、脂質の重要性と悪影響など、矛盾する内容の論文は数え切れない。
どちらが正しく、どちらが間違っているのか。なかなか二分法では割り切れない。どちらの論文にもそれ相応の真実が含まれているのだろう。
大事なのは、論文はあくまでそのときその状況でのfactを提示したものに過ぎないのであって、決してtruthではないし、ある場合には一抹の誤謬さえ含まれている可能性がある、ということを認識しておくことだろう。

「トランス脂肪酸の悪影響について言及されていましたが、本当でしょうか。牛肉や羊肉にもトランス脂肪酸が含まれているという話を聞いたことがあります。牛や羊などの反芻動物は、腸内細菌の働きによって不飽和脂肪酸からトランス脂肪酸が形成されるとのことです。その点、いかがでしょうか」

これについては僕の不勉強で、正直まったく知らなかった。調べてみると、確かに、質問者氏の指摘と同様の記述が見つかった。
天然由来のトランス脂肪酸と化学的に合成されたトランス脂肪酸を区別する方法は存在しないという。
ただ、論文にあたってみると、トランス脂肪酸の有害性を説く論文は皆、「化学的に合成されたトランス脂肪酸は」という枕詞がつく。天然に微量に含まれているトランス脂肪酸については特に心配する必要はないよ、というニュアンスが言外に含まれているという理解でいいと思います。