院長ブログ

筋トレ

2018.10.1

ジムには「化け物」がたくさんいる。
つい、怖いもの見たさで、チラチラ見てしまう。その化け物たちにしたところで、見られることは歓迎で、肌の露出の多いランニングシャツなんか着て、重いバーベル挙げながら雄叫びをあげてたりする笑
憧れる?
いや、憧れはしないな。
「なるほど、人間の筋肉というものはこういうふうにつくのか」という医者としての目線が半分、「ああいう筋肉を身にまとって人生を生きるというのはどういう気分なのだろう」という好奇心が半分、といったところか。
全国大会で上位入賞経験があるとか、トップレベルのボディビルダーも珍しくない。
ほぼ毎日ジムに通っているものだから、何人か話す人もできた。
主に僕のほうから話しかける。
「すごい僧帽筋ですけど、背中にきかせるのに一番のトレーニングって何ですか」
「腕太いですねぇ。食事にも気を使われたりしてますか」
とか、何でもいいからさりげなく話しかけてみる。
みんな、自慢の肉体美を人に見せたくて仕方ない、できることならシャツも脱いで裸でトレーニングしたい、と思っているぐらいの人種だから笑、こういうふうに質問交えて話しかけると親切に答えてくれる。

「腕を太くしたいのなら、腕をトレーニングすればいい、って思うだろ?それはね、近道のようで遠回りなんだ。
たとえばバイセップ(上腕二頭筋)を鍛えるためにアーム・カールを高負荷で限界回数やりこんで、それを1日3セットとか繰り返す。
なるほど、それだけでも3か月も続ければずいぶん太くなるだろうが、能率が悪いと言わざるを得ないね。
そう、能率って大事だよ。僕らボディビルダーのこと、脳味噌まで筋肉でできてる筋肉バカって思ってる笑?
全国大会に出るようなボディビルダーはね、例外なくクレバーだよ。がむしゃらに頑張るんじゃない。
どのように筋肉を追い込めば、最も効率よく筋肉がつくのか。そのあたりの理論はすごく大事だ。トップレベルのボディビルダーに、理論を軽んじている人はいないはずだ。
上肢の筋肉をつけたいなら、下肢のトレーニングを怠ってはいけない。これ、鉄則だね。
バイセップのトレーニングの直前に、足のトレーニング、たとえばスクワットとかニー・エクステンション、レッグ・プレスをやっておく。
すると、その後でやるアーム・カールの効果が俄然違ってくる。
なぜなら、足のトレーニングによってテストステロンや成長ホルモンの分泌が急速に促進されるからだ。
筋肉は上肢よりも下肢のほうが総じて大きいだろう?下肢の筋肉を最初にある程度いじめておいて、血中のホルモン濃度を高めてから、きかせたい上肢のトレーニングに取り組む。
これが能率を重視した鍛え方だよ。
たとえばアーム・カールだけを1日3セットするのと、ニー・エクステンションを1セット、アーム・カールを1日2セットするのとでは、後者のほうがバイセップの筋肥大ははるかに大きいはずだ」

筋肉のことについては、学者よりもボディビルダーのほうが詳しい面があるかもしれない。
たとえばこんな論文。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/ijshs/2/0/2_0_111/_pdf)
著者に名を連ねている石井直方先生は東大の先生であり、かつ、日本選手権で優勝経験のあるボディビルダーでもある。
理屈だけこねまわしている学者よりも、筋肉の何たるかを身をもって知っている選手のほうが実感を伴った知識を持っているのはある意味当然で、そういう選手が学者になっちゃえば、話は早いね。
たとえばボディビルダーが好んで飲むサプリメントに、Dリボースとかクレアチンというのがあるんだけど、これ、最初に注目したのは学者じゃなくてボディビルダーらしいんだ。
ボディビルダーの間で筋肥大に効くと広まり、それを後追いする形で学者が検証して、その効果を裏付けるエビデンスが出た、という格好なんだ。
そういう具合に、ボディビル業界では実践と理論の相互作用が活発で、実践からのフィードバックを受けてトレーニング理論が年々進化している。
たとえば筋トレ後の糖質摂取の是非について、以前は「絶対摂るべき」とされていたが、最近では「たんぱく質の摂取で充分であって、糖質摂取は蛇足だ」という説が支持を集めつつある。
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27993175)

ちなみに、筋トレする以前から、ロディオラというハーブを飲んでて、患者に勧めることもけっこうあるんだけど、これが筋トレにも有効だという論文を見つけたよ。
(https://www.hindawi.com/journals/omcl/2017/8024857/)
ロディオラによって運動量の増加、ストレス耐性の増加が可能であることは先行する研究から分かっていたんだけど、その機序は不明だった。ネズミの実験によって、ロディオラの投与により有酸素運動時の運動量が増大し、骨格筋、心筋のストレスが改善することを確認した。本研究により、有酸素運動時のロディオラ摂取によって、マイトファジー(傷害を受けたミトコンドリアを細胞内から除去する仕組み)が起こり、骨格筋および心筋でのミトコンドリア合成が活性化することが示された。
ロディオラがなぜ効くのか。ミトコンドリアの数を増やすからだ、というのがこの研究の答えで、なかなか意味のある論文だね。

ジムに通っているけど、何か具体的に明確な目標があるわけじゃない。
「ボディビルの大会に出て、上位入賞を目指したい」なんてとても思わないし、「女の子にもてる体になりたい」とも別に思わない。
別段目標もないのに、この3か月、ジムに通い続けている。
目標がないのだから、能率を追及する必要もないんだよね、実際のところ。
ただ、変化を楽しんでいるんだ。
この3か月、確かに体が変わった。食事量が増えたし、足が太くなって履けないズボンが出てきた。
トレーニングによって向上するのは知能も同じはずだけど、知能の変化は目に見えない。
でも、体の変化はモロに現れて、はた目にはっきり分かる。
そういうのって、何とも言えない楽しさがあるよ。