院長ブログ

裏山部

2018.9.2

一か月ぐらい前に、クリニックに電話があって、たまたま僕が電話に出た。「○○だけど、元気?」
誰だろう。相手は僕を認識しているが、僕は相手を認識できない。
「はい、元気です」ととりあえず答えながら、頭の中フル回転して過去の記憶を検索するが、わからない。「ええと、どちらさんでしたっけ?」
「俺だよ、あつし。シンダイの同級生の○○だよ」
と言われて、ようやくピンときた。
そう、神戸にいるとシンダイは神大だけど、僕は信大の出身なのだ。
「開業したんだね。どうしてるかと思ってさ」
彼、几帳面な男で、毎年年賀状をくれる。
開業を考えていることは、職場の同僚含め身近な誰にも言わなかったんだけど、遠い長野県に住むかつての同級生になら、と思って、年賀状の返信にその旨を打ち明けていた。
「9月1日の土曜日にさ、神戸に行くんだけど、会わない?」
「神戸来るって、学会でもあるの?」
「そう、そんなところ」
そういうわけで、きのうの夜は旧友のために予定をあけておいたのだった。

約束の時間に僕のクリニックに来た。
しかし驚かされたのは、来たのは彼一人ではなかったことだ。同級生三人も一緒に来ていた。
ただの同級生ではない。大学時代に仲が良くて、よく一緒に飲んでいた仲間たちだった。
「久しぶりの裏山部を神戸でしようと思ってさ」

そう、僕らの飲み会には「裏山部」という名前があった。
僕も含め皆、山岳部所属で、山岳部の正規の飲み会ではなくて、その「裏」の、ひっそりと親密な飲み会の場ということで、「裏山部」と呼び習わしていた。
恋愛の話、勉強の話、級友のうわさ話など、教室ではおおっぴらにしゃべれないようなことを、酒飲みながら夜通し語り合う。
テスト期間が終わった頃などに、「今週末あたり、裏山でもする?」と誰かが言い出すと、皆、わらわらと友人宅に集まってくる。
それが僕らの「裏山部」で、僕は肝心の山岳部の活動よりもこちらの方にはるかに熱心だった笑

神戸の繁華街を歩きながら、洋食屋で神戸牛を食べながら、酒場で杯を傾けながら、それぞれの近況を語り合った。
医者としてのキャリアを積み上げつつ、結婚して子供ができて家を買って、という具合に人生のステージを進めている人。
臨床よりは研究メインで、生身の患者よりはもっぱらネズミと対面する毎日を過ごしているという人。
仕事に打ち込みながらも、土日はちゃんと休んで自分の時間を大切にする人。
結婚しても、恋する気持ちを忘れず、「フットサル」にいそしむ人笑
みんな自分なりのフィールドがあって、そこで戦っていた。
同じ出発点からスタートして、同じ「裏山」の空気を吸っていた同級生たちが、それぞれに違う人生を歩んでいた。
「で、あつしはどうなの?」

そう、みんな僕のことを気にして、東京や長野から来てくれたんだ。
「こんなに早く開業した人なんて周りでいないからさ、みんな院長ブログ読んでるよ笑」
「栄養療法ってどういうの?」
「恋愛事情とか、そのへんはどうなの?」
確かに、僕にも自分の人生のフィールドがあるわけだけど、誇って語る何かがあるわけでもない。
好奇心持ってくれても、それに報いるだけの大した答えなんてないんだけどね。
いろいろと近況をお伝えした。

ありがたかったのは、僕のしている医療のスタイルに対して、感情的な反発がなかったことだ。
みな、当然普通の医者なわけだから、従来通りの医療をしている。
「従来通りの医療」VS「代替療法」みたいな構図でいうならば、僕は彼らとは違う陣営に属している格好なんだけど、彼ら、そこをとがめるようなことはしなかった。
むしろ「MSの治療にビタミンDとかさ、それは昔から言われていることだよ」
「ビタミンB12がある種の神経疾患に有効なんじゃないかっていう研究は説得力あると思うよ」
「あっちゃん、ビタミンCの抗癌作用のことブログに書いてて、そこに貼ってあった引用文献も読んだけど、あれはエビデンスとして微妙じゃないかな。
ただ、抗認知症薬は有効性がないっていうのはその通りだと思う。僕の患者で飲んでいる人がいたら、副作用の有無をあえて聞いて、やめさせる方向に持って行くようにしてるよ」
といった感じで、僕に同調してくれるような雰囲気さえあった。

分かる人にだけ、分かればいい。
基本的にはそういうつもりでブログを書いているんだけども、今僕の目の前にいるみんなは、知識も読解力もはるかに僕以上で、そして僕の性格まで知っている。
こんな読者はまったくの想定外だった笑
人間、分かられすぎると、どうなるか知っていますか?
照れて、妙に気恥ずかしくて、大きな声で笑うんですよ笑
昨夜の僕の口からは、そういう笑い声が絶えなかった。

彼ら、僕のクリニックの近くにホテルの一室を予約していて、何と僕の分まで予約していた。
一室にみんなで集まって、そこで酒飲みながら、飲み疲れて寝るまで語り合う。
若さとバカさがなくてはできないそんな「裏山部」の部活動に従事したせいで、今日は久しぶりの二日酔いです笑
同級生諸君、楽しい時間をありがとうね★