院長ブログ

72点

2018.6.18

患者たちのの話を聞き、なんだかんだといろいろ指導して、一日の終わりには、すっかりへとへとになった。
親身になりすぎなのかもしれない。
もっと距離置いて、ちょっと突き放して対応する、ぐらいのほうが、状況が冷静に見えるかもしれない。
それに、こちらがどんなに熱意持って栄養の重要性を説いても、わかる人にはわかるだろうし、わからない人にはわからないもので、わからない人に言葉を費やしても、かえってうざがられるだけだろう、とも思う。

たまたま僕のクリニックのそばを通りかかって、ふらっと飛び込みで来られたような患者がいて、その人としては、「薬さえもらえればいい」と思っているだけなのに、僕の方は、これも何かの縁だなどと妙に張り切って、病気と栄養の関係性について大演説を打ったりする。
相手はこちらに白けた目線を向けている。
そういう患者を何人か経験するうちに、僕も気付いたよ。
「いらない人には、いらないのだ」と。

それ相応の時間と熱量をつぎ込んで勉強し、身につけてきた知識だ。
「みんなに価値があるだろう、多くの人を救えるだろう」
そういう思いで開業したものだから、自分のクリニックに来てくれた人は是非とも救ってあげたくて、その熱意を振りかざそうとする。
でも、そういう熱意は、相手を慎重に見極めてから示さないといけない。
誰彼構わず示しちゃいけない。
「まだの人」というのがいるんだ。
まだ僕の出番じゃない人。今は薬で生活がちゃんと回ってるから、別段何の不足もない。栄養が大事?何だそれ?知らねえよ。もうそういう話はいいから、さっさと処方してくれ。

そういうタイプの患者が一定数いることは知っている。
でも、それにもかかわらず、そういう人に対しても、最低限ひとつぐらいは栄養の小ネタを話し、日々の食事の重要性を言う。世話焼きのオカンみたいに。
我ながら不必要に消耗しているな、と思う。
ああいう人に対しては、何も言わずに黙って薬を出す方が患者満足度が上がるだろう、とも思うんだけどね。

「先日、とある銀行で他行に現金を3万円ほど送金しました。
756円の手数料でした。
ところでみなさん、病院での再診料は何点ですか。
その通り。72点です。720円ということです。
つまり、保険診療において、我々医師の診察料は、こちらのお金をあちらに移すだけの手間賃程度だということです。
それも、研修医が診察しようが、熟練の名医が診察しようが、同じ値段。
最先端機器を完備した大病院で診察受けようが、田舎の病院で診察受けようが、同じ値段。
みなさんはこの事実をどう思われますか。
なるほど、診察が5分で終わることもあるでしょう。
しかしその5分は、ただの5分じゃありません。
みなさんがこれまで栄養療法の勉強につぎ込んだ大変な時間とエネルギーが、極めて濃密に詰まった5分なんです。
学ぶことをすっかりやめて、昔のままの知識で延々診療している医師の判で押したような5分と、いまだに新たな知識を吸収し、患者のために生かそうとする意欲に燃えているみなさんのような医師が、頭をフル回転させて診察した5分。
同じ金額なんです。
これが悪しき平等主義ではなくて何ですか。
みなさんの医師としての矜持、傷つきませんか。
みなさん、どうか自分の能力を安売りしないでください。
自費診療をしている先生であれば、適正な価格をとって、堂々としていてください」

きのうの勉強会で聞いた熱い言葉。
そう、きのうのあの場にいた先生方は皆、学び続けている。相応の金額を投資してまで自分の知識を高めようとしているんだ。
何かしらの報いはあるべきだ、と言われれば、なるほど、と思う。

しかしそういうふうに頑張って身につけた知識も、患者を見極めて使わないとね。
「普通の保険診療、安い医療で充分満足」という患者も確かにいるんだよね。
できればみんな救ってあげたい、と思うけど、そういう大乗仏教的なスタイルでは早晩立ち行かなくなるだろうとも思う。周囲との摩擦もむやみに増えるだろうし。
割り切りはやっぱり必要なんだろうな。