「結婚なんてのは若いうちにしなきゃダメ。物事の分別がついたらできないんだから」というのは、樹木希林の言葉。
若さとはバカさのことで、そういうバカさの赴くままに突っ走らないと、結婚なんてできない、ということだろう。
これは名言というべきで、僕にはすごく重く響く。

「若いうちに結婚して、二十代の苦楽を一緒にともにする。年収も低いのに子供作ったりして、周囲のサポートも借りながら、何とかやっていく。三十代になって収入的にもそこそこ安定して、子供も大きくなってきて、家族としても安定していく、というのが一般的な流れだろう。いや、一般的かどうかは知らないが、少なくともそれが僕の流れだった。
結婚したい、と君は言う。しかしそれは本心だろうか。
つまり、君は自炊していて、食事を誰かに作ってもらう必要がないし、すでにそれなりの収入もあって、今の生活にそれなりに満足している。
自分の食べたいものを作ったり、自分の趣味に没頭できる時間もあって、今の生活、全然悪くないと思っている。
それが、結婚したらどうなる?自分の時間を、嫁や子供に捧げることになるだろう。本を読んだり、新たな知識を吸収して自分を成長させる楽しみを犠牲にして、代わりに、家族サービスや我が子の成長に喜びを見出すスタイルに変えていかないといけない。
すでに一人暮らしが長い君に、そういうことが果たして可能だろうか。
自分を成長させることに喜びを見出す人は、ある意味でずっとその人自身が子供なんだ。いや、誤解しないで欲しいんだけど、けなしているわけではないんだよ。自分のなかの内なる子供がちゃんと生きている、ということだ。
今後、君は年収的にはもっと安定していくだろう。
そして、皮肉なことだが、安定すればするほど、ますます結婚できなくなるだろう。
収入が増えるというのは、単に預金残高が増えていくということじゃない。それに伴って、自分に対する自信や誇りも大きくなる。それ自体はけっこうなことだが、困ったことに、そうして大きくなった自尊心に見合うだけの異性を見つけることは、ますます難しくなっていく。
つまりね、二十代の若い自分というのは、社会的には何者でもない存在だ。自分を安売りする、というわけでもないが、結婚という未知に飛び込む冒険をするのも楽しそうだなって自然と思うことができる。
でも、ある程度安定して、現状に満ち足りてしまうとどうなる?
どう考えたって、結婚なんて合わないよ。そんなリスクに飛び込むバクチなんて、できやしない。
パッとしない嫁と、大して可愛くもない子供に、自分の稼いだ金、自分の時間を彼らに吸収されて、自分の人生を生きられなくなってしまったら?
そんな茶番はまっぴらごめんだろう。
だからこそ君は、結婚に対してますます慎重になっていく」

「その洞察、けっこう当たってると思うけど、話はもっと簡単。出会いの場がないねん、単純に」
と杯をあおりながら笑いに紛らそうとしたけど、同級生の言葉が不気味な予言のようにも聞こえた。
結婚せんならそれはそれでええかもな、と思ってる自分があるのは確かで、やばい傾向かもしれんなぁ。