先月、東京でオーソモレキュラー医学の世界大会があって、僕もそれに参加した。
二泊三日もあったけど、内容の濃いスケジュールだった。世界中から著名な医学者が来てて、僕としては興奮しっぱなしだった。
ただ、僕の心に一番グッと来た話は、そういう著名人の講演ではなくて、大会2日目の夜、立食パーティーの席でたまたま隣りあった、とある先生の話だった。

「埼玉で整形外科のクリニックを開業している。膝が痛いとか腰が痛いって患者さんがひっきりなしに来るから、まぁ経営的には正直うまくいってた。
でもね、それってさ、結局『治せてない』ってことなんだ。
治らない。だから、患者は通い続けてる。
それだけの話なんだよね。
僕は何もしていない。ロキソニンのテープだとか内服とかだしておしまい。それだけの仕事。
何だかさ、むなしい仕事だなって疑問は心の中にずっとあった。
転機が来たのは、僕自身、あるときから、肩こりというか何というか、ひどい肩関節の痛みを感じ始めたこと。
自分が患者相手にやってた治療を、他ならぬ自分自身にやる状況になったわけ。ロキソニンを飲もうが貼ろうが、一向に治らない。
いわゆるスーパードクターって言われてる人に診てもらうため、県外にまで行ったよ。それでも治らない。
ある先生に、こう言われた。「恐らく精神的なものですから、精神科を紹介しますよ」
言われてね、頭の中がカッと熱くなった。
と同時に、その瞬間、 僕も自分のやってる医療のデタラメ加減に気付いたよ。自分の手に負えないってなったら、精神科送りにしてしまう安易な発想。実際言われてみたら腹が立ったけど、それって、僕の鏡像なんだ。根本的な解決を提示せず、のらりくらりとかわしてる。その先生の姿って、僕と大差ないと思った。
自分の肩こりさえ治せないくせによく整形外科医って名乗れるもんだなって思ってさ、これじゃいけないって思った。
いろいろ文献とかネット調べた。そして最終的に行き着いたのが、栄養療法の世界。
まず、自分の肩の不調が見事に軽快した。
これはすごいって思って、ますますのめり込んだ。
栄養療法の勉強会には積極的に出るようにして、自分の患者にもやるようになった。
全然治らなかった患者がね、治っていくんだよ。数十年来の関節痛を抱え、一生付き合っていくもんだと患者も思っていた症状が、見事に消えていくわけ。
患者のなかには、「奇跡だ」って涙流して喜んでくれる人もいた。そう言われると、僕だってうれしい。
でもこれってさ、正直クリニックの売り上げ的には、ありがたいことじゃないんだよ。完治しちゃった患者さんは、もう来ないからね。
でもね、もうお金じゃないよ、もちろん。栄養療法の有効性を自分自身にも患者相手にも知ってしまったら、従来型の対症療法のバカバカしさにはもう戻れない。
だからね、今の僕の診療スタイルは、整形外科医というか、何だかすごく内科医っぽいよ。しかも食べる物の重要性を説明したり食事指導したり。
十年前の僕には想像もつかないスタイルで、診療をしている格好だね。

十年前には真逆のスタイルだった。
薬どころか、手術もバンバン手がけてたよ。専門はスパインでね、トータルの手術件数としてはゆうに700以上だよ。当然、指導医の資格も持っている。
いや、正確には、『持っていた』と過去形で言うべきだね。
だってさ、栄養で整形外科疾患が治るってこと、僕はすでに知っちゃったわけ。そもそも手術なんて侵襲的なことをしなくても、栄養の投与で治るんだから、手術は必要ない。だからさ、指導医の資格の更新、やらなかったんだ。僕が再びメスを握ることは、もう二度とないからね。

いったいこれまでの自分の、整形外科医としての研鑚の日々は何だったんだろう、とは思うよ。手術がうまくなりたい一心で、ひたすら技術の習得に努めた。
でも、ぜーんぶ、的はずれだったわけ。
でもね、後悔はないよ。必要な回り道だったと思ってる。
患者が根本から良くなっていく、ということの意味が、栄養療法を実践するようになってから初めて体感できたんだ。もう昔のスタイルに戻ろうなんて、決して思わないよ。根本から治癒した患者の笑顔ってさ、他のやり方では見れないからね。」

真に患者を思う医者が行き着く先は、結局栄養療法だろうという僕の予感を、見事に裏打ちしてくれる先生に出会って、僕もテンション上がったな。
こういう大会のいいところは、同じ志を持った仲間が集まって、意見交換できることだ。
これまで、ささやかながら栄養療法を臨床現場で自分なりに実践してきて、僕はいろんな人に批判されてきた。「学校で何を勉強してきたのか」と説教されたこともあるし、嘲笑や冷笑にさらされたことは数え切れない。
患者を根底から治そうと思ったがために、つらい思いをたくさんしてきた。あんまりつらいものだから、栄養療法をへの信頼を捨ててしまおうかと思ったこともあった。
でも、ここには同じ信念を持って患者の治療に当たっている人がたくさんいるのだ。それも世界中の人たちが。
特に大友先生の話は、僕にはこの上ない励ましになったし、このスタイルでやって行こうと改めて確信することができた。