人間の様々な身体機能は20代がピークで、その後次第に衰えていく。
30代40代のうちは、まだその衰えを自覚していないかもしれない。しかし検査をすれば、老いの兆候がはっきり現れる。
たとえば、聴力。
老人性難聴、という言葉があるくらいだから、聴力低下は老人になってから、と思われるかもしれない。
しかしモスキート音(17 Khz程度の可聴域ぎりぎりの超高音)は、10代の若者には聞こえるが、20代30代の若者には聞こえない(このことを利用して、コンビニの前でたむろする10代の不良を撃退するために、こっそりモスキート音を照射するコンビニがある。害虫を追っ払ってるみたいだね^^)。
つまり加齢性難聴は、すでに20代あたりから進行が始まっているのだ。
この特性を利用して、耳年齢を判定するアプリがあるし、こういう動画を見ても耳年齢を大まかに知ることができるだろう。

僕は15 kHzでギブアップ。なーんも聞こえません!老いを認めざるを得ない^^;
加齢に伴って次第に可聴域が低下して、会話や生活音(1~8 kHz程度)まで聞こえなくなると、ようやく「耳が遠くなったな」と症状として実感するようになる

加齢によって次第に高音域の聞き取り能力から低下していく傾向は、人間だけではなく、他の動物とも共通している。マウスでも5~6か月齢あたり(人間の20~30歳相当)から高音域の聴力が低下し始め、次第に低い音域も聞こえなくなっていく。人間と共通しているおかげで、マウスを使って加齢性難聴の発症メカニズムや予防法の研究をすることができる。
たとえばこういう論文。
『C57BL/6J系マウスの加齢性難聴はBak依存性のミトコンドリアのアポトーシス(細胞自死)を経由して起こっている』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19901338
「加齢性難聴は、哺乳類の老化に広く見られる現象であり、老化集団に最もよく見受けられる感覚障害である。ありふれた病態でありながら、その分子的な発症機序は不明であり、従って治療法も存在しない。
しかし、C57BL/6J系マウス(マウス実験で使われる超定番のマウス)のミトコンドリアにあるアポトーシス促進遺伝子Bakを除去すると、蝸牛にあるらせん神経節と有毛細胞の加齢性アポトーシス(細胞自死)が減少し、加齢性難聴が起こらなかった。
蝸牛細胞にあるBak遺伝子は酸化ストレスによって発現が促進されるが、Bak遺伝子が存在しないことにより細胞のアポトーシスが起こらない。さらに、ミトコンドリアを標的としたカタラーゼ導入遺伝子は、蝸牛のBak遺伝子の発現を抑制し、蝸牛の細胞死を減少させ、加齢性難聴を防いだ。
ミトコンドリアの抗酸化のために、経口でアルファリポ酸、コエンザイムQ10を経口投与によっても、Bak遺伝子の発現を抑制し、加齢性難聴を予防することができた。
つまり、加齢性難聴の発症機序には、酸化ストレスに対する応答としてBak依存性ミトコンドリアアポトーシスが関与していることが示された」

要するに、
加齢性難聴には酸化ストレスが関係しているから、酸化を防ぐことで加齢性難聴を予防したり進行を遅らせることができる、ということだ。
研究で使われたのは、アルファリポ酸とコエンザイムQ10のサプリだけど、他の抗酸化サプリ(たとえばNAC、ビタミンCとかEとか)でも同じような効果があるんじゃないかな。

乳酸菌の摂取によって加齢性難聴の発症を遅らせることができたという研究もある。
『熱処理乳酸菌(Lactococcus lactis H61)の摂取によって、C57BL/6J系マウスの加齢性難聴の発症を遅らせることができる』
https://www.nature.com/articles/srep23556
「加熱により死菌となった乳酸菌(Lactococcus lactis subsp. cremoris H61:strain H61)をマウス(C57BL/6J系)に投与して、その摂取による効果を調べた。
strain H61を0.05%含む食事を6か月間与えられた9か月齢のメスのマウスは、対照群のマウスよりも、聴性脳幹反応において有意に低い閾値を保っていた。
(聴性脳幹反応というのは、音刺激によって生じる脳波を調べる検査で、本人の意思と無関係に生じる。だから、本当は耳が聞こえるのに病気を装って障害者認定を受けようとするのは不可能だ。でもサムラゴーチさんみたいに、聞こえるのに障害者手帳を持っている人もいたり^^;)
これはつまり、加齢に伴って起こる蝸牛の神経細胞や有毛細胞の消失が、strain H61の摂取によって抑制されたということである。糞便を使った腸内細菌解析によると、strain H61の摂取によって乳酸桿菌が増加しており、この数と聴力に正の相関が見られた。さらに、血中脂肪酸濃度は聴力と負の相関を示していた。
まとめると、6か月間のstrain H61(死菌)の摂取により、腸内細菌叢が変化し、脂肪酸などの血中の代謝レベルが変化したことによって、加齢性難聴の発生が遅れたものと考えられる」

腸内細菌にはビタミン産生能のある菌が多いから、腸相のいい人は、おなかのなかにサプリメント製造工場があるようなものだ。わざわざサプリを摂取せずとも、菌のほうで勝手にビタミンを作ってくれるんだから、こんなにありがたい話はない。
たとえば、この研究で使われたLactococcus lactis やLactococcus brevisはビタミンK、GABA、共役リノール酸を作るし、Bifidobacterium(ビフィズス菌)はビタミンB1、B2、B6、B12、葉酸、ニコチン酸、ビオチンなどを作ることが知られている。
最近の耳鼻科学会では、腸脳相関ならぬ「腸・内耳相関」がよく演題に上がっている。
やっぱり、腸が大事、ということだな。