人間を含め動物の行動原則は、基本的に『エサ取りと休憩』、この二つ。
これは『動と静』と言ってもいいし、『交感神経と副交感神経』の働きでもある。
交感神経の特徴はfight or flight (闘争か逃走か)で、副交感神経の特徴はrest and digest(休息と消化)だ。
しかし現代社会は、デスクワークや対人関係のストレスに由来する交感神経の興奮を引き起こす一方、運動不足やカロリー過剰の食生活による副交感神経の過緊張を生み出す。不自然と不自然を掛け合わせたような格好だ。
ストレスでドカ食いする人がいるでしょう?あれは、ストレス由来の交感神経の過緊張を、ドカ食いで副交感神経を働かせてバランスさせようという行動で、生理的には理にかなっている。でも負数に負数をかけてプラスに持って行こうとするような行動で、あまり健全な感じはしないよね。

実家で猫を飼ってるんだけど、あの子を見ていれば交感神経の何たるかがよくわかる。外を散歩してノラ猫に出くわすと、双方、じっと対峙する。全身の毛を奮い立たせ肩を怒らせて、うなり声をあげながら、威嚇合戦をする。猫パンチの殴り合いに発展することもあれば、一方が撤退することもある。
そう、これこそまさに、闘争か逃走か、の状態で、交感神経のあるべき緊張状態だと言える。戦いが終われば緊張も終わり。家に帰って来て、さっきまでのケンカも忘れて昼寝してたりする。

しかし、現代人のストレスはどうだろう。
上司からネチネチと小言を言われ、営業のノルマのことが始終頭を離れない。上司相手に『闘争』を挑むこともできなければ、家族を食わせないといけないので『逃走』することもできない。
甘いものを食べたり、酒をあおったりして緊張をまぎらせて、戦い続けるしかない。
猫の交感神経緊張が一時的だったのに比べて、現代人の交感神経緊張は延々続く。
こんな具合に、現代人の抱える交感神経過緊張は、動物の中でも相当異質なものだ。

交感神経の過緊張を軽減するために、何か方法がないものだろうか。
一番いいのは、ストレッサーの除去だ。
充実感を持って楽しく働けないような仕事なら、やめてしまえばいい。我が身、我が命を削ってまで奉仕する価値のある仕事なんて、世の中にそんなにないはずだ。
「でも家のローンもあるし、給料的にはけっこういいので、やめるのはちょっと、、」みたいな人はどうすればいいか。
まず、食生活の改善。
こういう人はadrenal fatigue(副腎疲労)を起こしている可能性が高いので、甘いものや酒は控えめにして、タンパク質をしっかりとる。腸内細菌も乱れているだろうから、食物繊維も多くとる。
ビタミンCを始めとする各種ビタミンも適宜補いたい。
副腎のビタミンC貯蔵量は相当減っているはずだし、ビタミンCは神経に直接的に作用して、抗酸化作用を発揮することがわかっている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22116696
『中枢神経系におけるビタミンCの輸送とその役割』というレビュー。
内容をざっと言うと、
ビタミンCの血中濃度はマイクロモルの単位だが、ほとんどの組織中ではミリモルの単位で存在している。つまり、組織中のビタミンC濃度は血中濃度よりもざっと千倍濃いわけだ。この高濃度を支えているのは、SVCT2というビタミンCに特異的なトランスポーターだ。こういう運び屋がいるのみならず、細胞内のビタミンCは、酸化してもまた還元されてリサイクルされている。
様々な哺乳類の組織のなかでも、中枢神経系のニューロン(神経細胞)はビタミンC濃度が最も高い組織の一つだ。細胞内のビタミンCの働きとしては、抗酸化作用、ペプチドのアミド化、髄鞘形成、シナプスの長期増強、グルタミン酸の毒性からの防御などがある。
中枢神経系におけるSVCT2の重要性は、SVCT2を除去したマウスでは広範囲の脳出血を起こして出生後1日目で死亡することからも明らかだ。このタンパク質によって保たれているニューロン内のビタミンC濃度は、人間の疾患にも関わっている。ビタミンCを補うことによって、脳卒中の虚血性再還流障害モデルで梗塞巣の径が縮小することが示されている。
ビタミンCは、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病のような神経変性疾患と関連した酸化ダメージからニューロンを保護する可能性も示唆されている。

ストレス軽減のために、他にぜひともお勧めしたいのが、適度な運動だ。
交感神経が緊張しているときに運動しては、緊張状態にますます拍車をかけてしまうのでは?と思うかもしれない。
でもこれは、皆さんの経験を振り返ってもわかることでしょう。
仕事や学校の勉強で疲れているときに、テニスコートでラリーなんかしていい汗をかけば、疲労はむしろ軽減する。
運動の効用を説く以下のような論文を紹介しよう。https://link.springer.com/article/10.1007/s00421-006-0169-x
『肥満男性における血中アディポネクチン、レジスチン濃度とインスリン感受性に対する運動の影響』
本研究の目的は、健康な肥満男性を対象にして、最大負荷手前の有酸素運動がインスリン感受性のみならず、アディポネクチンおよびレジスチンにどのような影響があるかを、運動後48時間に至るまで調べることである。
9人の被験者が、最大酸素消費量のおよそ65%相当の負荷の運動を45分間行った。
アディポネクチン、レジスチン、コルチゾル、インスリン、グルコース、インスリン感受性を、運動前、運動直後、運動の24時間後、48時間後にそれぞれ計測した。
各データをANOVA(分散分析)で分析し、評価した変数の間での関係性を特定するためにピアソンの補正を行った。
アディポネクチン (μg ml−1) [pre, 3.61(0.73); post, 3.15(0.43); 24 h, 3.15(0.81); 48 h, 3.37(0.76)] 、レジスチン(ng ml−1) [pre, 0.19(0.03); post, 0.13(0.03); 24 h, 0.23(0.04); 48 h, 0.23(0.03)] は、経時的に見ても有意な違いを生じなかった。運動直後に、インスリン感受性は有意に増加し、血中インスリン濃度は有意に減少した。従って、運動によってアディポネクチンやレジスチンは変化せず、これらはインスリン感受性にも影響していない。

上記研究は、特に運動習慣のない肥満男性を対象にしたものだけど、習慣的に筋トレをする人では、筋肉がバッファーの役割をして血糖値変動がゆるやかになっているという話がある。一般には、交感神経緊張状態ではインスリン感受性が鈍って血糖が高くなりがちなんだけど、筋トレはそういう状態を改善してくれる。
仕事の後に憂さ晴らしに飲み屋に行くぐらいなら、ジムに行って筋肉をつけておくといい。そのほうがストレス発散になるし、同時にストレスへの耐性も上がって、健康維持の助けになるはずだ。