「ハメマラ」という言葉がある。
何となく卑猥な響きだが、エロい言葉ではない。男性の老化が顕著に現れる器官を順に挙げたものである。
つまり、まず歯が悪くなり、次に目に来て、やがて男性器も思うようにならない、という具合である。
「ちょっと待て、順番が違う。俺の場合、あそこは50歳でもうダメだったが、そのとき視力に何の問題もなかった」という、「ハマラメ」の人もけっこうな割合で存在するようだ。

いずれにせよ、これらの三つの器官には、解剖学的に見て共通点がある。それは、細動脈が密集していて虚血の影響を受けやすい、ということである。
たとえば糖尿病の患者を想像するといい。歯科疾患(歯周病、虫歯など)の罹患率が高く、網膜症で目がやられ、末梢神経障害は手足だけではなくて股間にぶら下がる末梢をも当然含んでいる。高血糖に長らくさらされた細動脈では動脈硬化が進んで血流障害を起こしている。要は、血流の問題である。

糖尿病は血流障害のリスク因子だが、糖尿病でない人が虚血性疾患にかからないということではない。
いや、言葉をもう少し正確に使うと、医学的には「虚血性疾患」という言葉はない(「虚血性心疾患」という言葉ならある。狭心症や心筋梗塞のことだ)。でも、言っていることはわかるだろう。
上記の「ハメマラ」も狭心症も脳梗塞も、結局虚血を起こしている部位が違うだけのことで、要するに、虚血性疾患だ。
もっと言えば、実は糖尿病も緑内障もめまいも虚血性疾患だと言える。これについては後で説明しよう。

脳梗塞、といえば一大事。働き盛りの中年男性がいきなり倒れて、救急車で病院に運ばれて一命をとりとめたとしても、半身麻痺や言語障害などの後遺症が残る、みたいなイメージかもしれない。
こういうのは比較的大きな血管に血栓がつまった症状で、何というか、「立派な脳梗塞」である。しかし、実はもっと地味な脳梗塞(ラクナ梗塞)というのがある。ある疫学研究によると、症状が出ないラクナ梗塞は、40代で4人に一人、50代で3人に一人、60代で2人に一人、70代ではほとんど全員が持っているという。今後MRIの画像解析技術が進歩すれば、この割合はもっと増えるかもしれない。
これはかなり衝撃的な数字ではないですか?
脳梗塞は、マイナーなものまで含めれば、一般の人が思う以上にありふれた現象だということだ。
しかもそういう広義の脳梗塞は、「起こったり治ったり」を繰り返しているようなんだ。たとえば、TIAという病態がある。一過性脳虚血発作のことで、一瞬ガチの脳梗塞の発作のようだけど、症状は5分とかごく短い時間で消失する。
この現象はどのように説明できるのか。
人間の血液中には凝固系と線溶系があって、凝固系は血を固める作用、線溶系は固まった血を溶かす作用を担っている。TIAでは、血の塊(血栓)が一瞬確かに動脈を塞いで組織が虚血に陥っているが、線溶系が運良く血栓を溶かしてくれて再開通した、ということだ。
手の震えや物忘れ、「今日はちょっと手が動かしにくいな」程度の運動障害とか、高齢者はもちろん、若年者でもそういう超軽症TIAが起こっている可能性がある。

こんな具合に、体内では血栓ができたり溶けたり、を繰り返している。また、一口に血栓といっても、誰がどう見ても間違えようのないカチンカチンの血栓もあれば、「ドロドロよりももう少し固め」ぐらいの血栓もあって、程度はgradualである。
しかし血栓傾向が強いと(凝固系>線溶系)、長期的には血栓が体のあちこちの細動脈につまって、虚血性疾患を引き起こすことになる。症状が「ハマラメ」として現れることもあれば、膵臓の虚血から糖尿病を、脳の慢性的虚血から血管性認知症を起こすこともある。

では、どうすればいいのだろうか。
凝固系を抑える薬はすでに存在する。アスピリン、チクロピジンなど、心筋梗塞をやったことがある人は処方されているかもしれない。しかしこれらの薬には、副作用(出血傾向など)がある。できれば副作用のない治療法がないものか。
そもそも、なぜ凝固系が亢進するのか。
凝固系の亢進は、生物の生存にとって必須の性質である。生物の歴史は、食うか食われるか、戦いの歴史だった。交感神経を興奮させてアドレナリンを高めて敵との争いに備え、敵の攻撃を受けても凝固系を亢進して出血を抑えれば、生存の可能性が高まる。凝固系と炎症には密接な関わりがあるが、これは生物の環境適応を考えれば当然のことである。
『炎症と凝固』
https://journals.lww.com/ccmjournal/Abstract/2010/02001/Inflammation_and_coagulation.5.aspx

失血死を防いでくれる本来ありがたいはずの凝固系の働きが、かえって裏目に出て、肩こり、腰痛から脳梗塞まで、様々な疾患の原因になっている。
生存に必要なものを無理に抑えて、結果、最初の状態よりもっとひどいことが起こる、という流れは対症療法にありがちで、こういうときには栄養療法が助けになる。実際、虚血性疾患はオーソモレキュラーの得意分野である。以前の院長ブログで、ポーリングが冠動脈疾患の患者をビタミンCとリシンの投与で治療した論文を紹介した。
http://orthomolecular.org/library/jom/1993/pdf/1993-v08n03-p137.pdf
しかし、同じ論文の紹介に終始してはつまらない。「君はバラのように美しい、と最初に言った人はすばらしい。しかしそれを二度言うのはバカである」という誰かの警句を謹聴し、同じネタは使わないようにしよう。代わりに、虚血性疾患に対する別のアプローチを紹介しようと思っている。
それは、ミミズから抽出した酵素ルンブロキナーゼである。詳しくは次回に続きます。