腸内細菌と病気の関連について近年ますます多くのことが明らかになっている。
前回、糞便由来の腸内細菌の移植について触れたが、この研究を初めて報告したのは以下の論文である。
『肥満に関連した腸内細菌はエネルギーの吸収能率を増加させる』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17183312
「肥満が世界的に問題になっているため、何が体内のエネルギーバランスに影響しているのかを特定しようとする研究が盛んである。遺伝的に太るマウスとやせるマウスの腸内細菌の比較、および肥満の被験者とやせた被験者の比較によって、肥満はおおまかに二つの支配的な細菌門(バクテロイデス門とファーミキューテス門)の豊富さに関係していることが明らかになった。
本研究で我々はメタゲノム解析および生化学的分析によって、これらの腸内細菌叢の変化がマウスの代謝に影響することを示した。これは、肥満をもたらす腸内細菌叢では、食事からエネルギーを吸収する能力が増加していることを意味している。さらに、この特性は「移す」ことができる。つまり、無菌マウスに「肥満腸叢」を移植すると、「やせ腸叢」を移植した場合よりも、全身の脂肪量増加が有意に大きかった。これらの結果は、腸内細菌叢が肥満の病態生理に影響する一因であることを示している」

2006年の論文で、腸内細菌叢の移植というアイデアが画期的だった。
その後同様の手法で世界中で研究が行われ、腸内細菌研究が加速することになった。シニアオーサーのジェフリー・ゴードンはそのうちノーベル賞をもらうかもしれないね。
この研究は一般の人にとってもおもしろいから(誰かの腸内細菌をおなかにいれるだけでやせたり太ったりするというのは、確かに衝撃的だ)、すでにマスコミなどで「やせ菌」「デブ菌」などという言葉を聞いたことがある人もいるだろう。

腸内細菌が関与しているのは、肥満とヤセだけではない。他の様々な病態にも腸内細菌が関与していることが明らかになっている。
そう、前回触れた統合失調症も例外ではない。
『薬物治療を受けていない統合失調症患者の腸内細菌叢をマウスに移植すると、統合失調症様の異常行動とキヌレニン代謝の異常が起きた』
https://www.nature.com/articles/s41380-019-0475-4
「腸内細菌叢が統合失調症の病理に対して、”腸内細菌-腸-脳相関”を経由して影響を与えているエビデンスが、近年ますます多くなっている。本研究では、薬物治療を受けていない統合失調症患者の糞便腸内細菌を無菌マウスに移植することで、統合失調症様の異常行動が見られるかどうかを調べた。
結果、統合失調症患者の糞便腸内細菌の移植を受けた無菌マウスでは、行動異常(不穏、焦燥など)、学習能力・記憶力の低下が見られた。また、これらのマウスでは健康な対照群から移植を受けたマウスと比較して、末梢神経および脳でトリプトファン分解のキヌレニン-キヌレン酸経路が亢進しており、前頭前皮質の基底細胞外ドーパミンと海馬の5-ヒドロキシトリプタミンも上昇していた。さらに、患者の糞便腸内細菌を移植されたマウスの結腸管腔濾液は、培養肝細胞に対して、キヌレン酸合成の促進とキヌレニンアミノ転移酵素II活性の亢進をもたらした。60種の糞便腸内細菌は患者由来と対照群由来とでは有意に違いがあり、その違いのために、トリプトファンの生合成機能など78の機能モジュールに影響していることがわかった。
腸内細菌叢の構成の異常は、トリプトファン-キヌレニン代謝が変化することで統合失調症の病因になっていることを我々の研究は示している」

前頭前皮質でドーパミン濃度が上昇していたというのは、従来のドーパミン仮説と矛盾する結果ではないのがおもしろい。
ただ、ドーパミンの上昇は明らかに腸内細菌叢の異常(ディスビオシス)によるものだから、抗精神病薬によってドーパミンD2受容体をブロックする試みは、明らかに本質的な治療になっていない。水道の蛇口から水が漏れているのを、タオルでぐるぐる巻きにしたって、水漏れは止まらない。ちゃんと蛇口を閉めないといけない。
では、蛇口の閉め方は?どうやって根本的な原因にアプローチできるのか?
答えは、もちろん、腸内細菌叢を改善することだ。それでは、その具体的なやり方は?
これについては次回に書きます。