70年以上前の古い文献だけど、おもしろそうなので、訳してみます。
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/256511

編集者さんへ
バレンジャー医師が6月27日に貴誌に寄せた薄毛にまつわるいくつかの疑問は、イリノイ大学医学部解剖学教室で行った私の技師としての観察(1916年から1917年まで)によって、解決されるかもしれません。
当時私は、80人のご遺体から神経学の授業の用途別に応じて、脳を除去する作業に従事していたのですが、そのときに偶然気付いたことがあります。それは一見明らかな関連と言えるかもしれませんが、頭皮への血液供給と毛髪量の間にある関係性です。
薄毛になっているのは、頭蓋骨の石灰化によって縫合線が固く接合し、かつ、様々な小さな血管孔が閉鎖したり狭小化している症例ばかりでした。すっかりハゲている症例において、そうした所見が最も顕著でした。これらの血管は頭蓋骨の海綿状組織にある板間静脈とつながる静脈が主体でしたが、その海綿状組織が孔の石灰化により、著明に狭小化していました。頭皮の血液循環が損なわれるプロセスの進行度合いは、石灰化と相関して観察されました。
ということは、この事実は、薄毛が起こるメカニズムを説明するのみならず、なぜ男性は女性よりも薄毛になりやすいのか、という機序の説明になっているものと考えられます。なぜなら、骨の成長(石灰化)は一般に女性よりも男性で活発だからです。
こうした機序を考慮すれば、ヘアトニックやビタミンが血液循環の回復に寄与しないことは恐らく明らかであります。また、カルシウム摂取の増加が薄毛の発症率の増加(および育毛療法の売り上げ増加)につながっている可能性があります。
フレデリック・ヘルツェル

上記はLetter to the editor(編集者への手紙)で、厳密には論文ではないから、エビデンスとしてどうのこうのという話にはならないんだけど、「エンピリック(経験的)にはこうだった」という情報や次に行われるべき研究への示唆が含まれていたりする。
この手紙を書いた人は、たくさんの剖検症例を観察しているうちに「薄毛の原因は頭蓋骨内の海綿状組織の石灰化ではないか」とひらめいたんだな。原文のcalcificationという言葉を「石灰化」と訳したんだけど、これは「カルシウム沈着」と訳してもいいと思う。
そもそも、老化とはカルシウム沈着のことだ、とも言える。
たとえば動脈内壁にカルシウム沈着が進行するということは、動脈硬化の進展そのものだ。カルシウムの濃度は、ざっと、骨:細胞:血液=1億:1万:1に保たれているけど、加齢などの影響でこのバランスを保つことができなくなると、細胞内や血中のカルシウム濃度が上昇する。
実際、アルツハイマー病や糖尿病の人では、細胞中・血中のカルシウム濃度が高い。
細胞内のカルシウム濃度が上がると、活性酸素の産生が活発になり、組織に酸化ストレスによる炎症を引き起こすことがわかっている。
文中、「ビタミンは血液循環の回復に寄与しない」という記述には、栄養療法をやっている身としては異議のあるところなんだけど^^、カルシウムの悪影響を説いている点でトーマス・レビー先生の主張を先取りしている形だ。レビー先生は「カルシウムと鉄は極力摂るな」とあちこちで口を酸っぱくして言っている。

生物は体に不調をきたし始めると、まず生存に必須ではない箇所を退化させて、より重要度の高い体の「本丸」を守ろうとする。たとえば毛母細胞というのは、体にとって、どちらかというと贅沢品だから、このあたりから切り捨てていく。
逆にいうと、豊かな毛髪というのは、生存に対する余裕の現れなんだな。
異性の選択の際、フサフサの男と薄毛の男がいて、他の条件が同じなら、女性はフサフサを選ぶ。どちらが健康体なのか、本能的に知っているんだな。

もっとも、女性が薄毛にならない、というわけではない。
薄毛に悩む女性を対象にしたこんな研究があるので、紹介しよう。
https://www.researchgate.net/publication/292926716_Use_of_the_phototrichogram_to_assess_the_stimulation_of_hair_groth_-_An_in_vitro_study_of_women_with_androgenetic_alopecia
要約
アンドロゲン型脱毛症の女性を二つの群に分け、一方の群には粟の種子抽出物、Lシステイン、パントテン酸カルシウムを経口投与し、もう一方の群にはプラセボを投与する6ヶ月間の無作為化プラセボ対照二重盲検試験を行った。
この研究の評価項目は、成長期の毛髪の発育速度の変化とし、その変化はフォトトリコグラム(頭皮の一定区画をマーキングし、そこの毛髪をマイクロスコープで撮影し、同区画の毛髪の変化を経時的に見る方法)で測定した。標準的な毛髪量の80%以下を脱毛症、85%以上を正常とし、研究開始から3ヶ月後に中間測定、6ヶ月後に最終評価を行った。
実薬群は本研究の評価項目を満たし、女性のアンドロゲン型脱毛症に対する有効性が示されたが、プラセボ群ではそういう変化は見られなかった。

この研究は、露骨にスポンサーのバックアップがあって、上記成分を含む商品を売りたい魂胆が見え見えなんだけど、で、実際、効果は本当にあるようだから、それを試したい人は買えばいいと思う。
ただ、成分の手の内を明かしてくれているわけだから、それを自分で試すこともできる。たとえば粟抽出物、なんて化学的な抽出物をとらずとも、普通にスーパーで売ってる粟でいいと思うよ。一日水に浸しておくと、ふやけて、案外そのままでもおいしく食べられます。システインは本来非必須アミノ酸なので、必要に応じて体内で合成されるんだけど、あえてサプリから摂ってもいいし(とるならNACがいい)、食品から摂るのならタマネギがオススメ。パントテン酸は、panthos(=汎。どこにでもある、ということ)が語源であるように、どんな食品にでも含まれているぐらいなんだけど、納豆、卵がオススメかな。もちろん、サプリから摂ってもいい。
できるのなら食養生が最善で、次善策がサプリ、最後に薬、という順番が基本です★