虚血後再灌流障害、という病態がある。
たとえば心筋梗塞のとき。
心臓の冠動脈に血栓がつまった。大変なことだ。病院に運ばれて、いろいろな救急処置を受ける。
血管がつまっているわけだから、つまりを除去するのが基本。
ただ、「それで万事解決、めでたしめでたし」といかないのが人体のやっかいなところ。
皮肉なことに、血流が再び改善したことによってフリーラジカルが発生し、細胞がダメージを受け、組織の破壊が起こる。
このあたりの機序は、この論文に詳しい。https://www.physiology.org/doi/abs/10.1152/ajpheart.1988.255.6.H1269
ざっと説明すると、
虚血後再灌流による微小血管損傷にはキサンチン酸化酵素と顆粒球が関与している。
虚血状態ではATPが分解されヒポキサンチンが生成される。低酸素ストレスによって、NADを還元するキサンチン脱水素酵素が酸素ラジカルを産生するキサンチン酸化酵素へと変換される。
再灌流が起こると酸素が組織に再び供給されるが、酸素はヒポキサンチンやキサンチン酸化酵素と反応し、スーパーオキシドアニオン(超酸化物)と過酸化水素が大量に発生する。
鉄の存在下では、スーパーオキシドアニオンと過酸化水素はハーバー・ワイス反応を経て、ヒドロキシラジカルになる。
これは非常に反応性が高く細胞毒性のあるラジカルであり、細胞膜の構成成分である脂質を酸化し、続いて、微小血管内皮に顆粒球を呼び込み活性化する物質が放出される。
この顆粒球がスーパーオキシドや様々なタンパク分解酵素を産生するため、血管内皮細胞の損傷がさらに進む。

虚血状態は組織にとっての一大事。
低酸素状態に何とか適応しようと、少ない酸素でやりくりしようとしているところに、いきなり再灌流が始まると、かえって不都合が生じてしまうという、何とも厄介な状態。
それが虚血後再灌流障害だ。
これは全然珍しくなくて、外科ではしょっちゅう出くわす病態だ。
消化管吻合術の術後とか、脳のクリッピング手術の術後とか。
いったん血流を止めて、しかるべき処置をして、血流再開、というパターンの手術では、まず間違いなく、虚血後再灌流障害が起こっている(それが症状として表面化するかどうかは別として)。

この病態は、実はもっと広く見られる現象なのではないか、と個人的に思っている。
肩コリがつらい。マッサージに行った。もんでもらっているときは、気持ちいい。楽になった、と思う。
でも翌日、妙にだるい。肩こりのだるさとは別の、妙な感覚が肩にただよっている。
こういうのはみなさん、経験があるのではないですか。
この現象は、マッサージ業界では「もみ返し」と言われている。
施術時の圧力で、筋膜や筋線維が痛むことが原因ということになっている。「だから、もみすぎはあまりよくないよ」と。
そう、下手にギューギュー押すだけのマッサージのせいで、筋線維が損傷するという面は確かにあるだろうが、それだけではないと思う。

肩コリとは何か。
ひとことで言えば、血流障害のことだ。虚血による筋肉のうずき。それを僕らは、コリと呼んでいる。
局所的に組織への血流が低下し、低酸素状態になると、そこでは副交感神経が優位になっている。つまり、その部分をある種の休眠状態にして、ストレスに耐えようとする。
そこに、マッサージによって急激に血流が改善すればどうなるか。
上記の虚血後再灌流によるメカニズムと同じことが起こる。
顆粒球が流入してラジカルを発生し、組織の破壊が起こる。
「もみ返し」はマッサージの圧力による組織損傷だけではなくて、体の内側で起こるラジカル生成も関与しているのではないか。

さらに、仮説をもう一つ。
この現代社会には食品添加物や農薬など、さまざまな毒物が身近にあふれているわけだが、水溶性の毒物は、体を一巡してダメージを与え、そのまま尿として排出される。
しかし脂溶性の毒物は、もっとたちが悪くて、そう簡単にはいかない。
排出しようにもなかなか出て行ってくれないものだから、かといって血中に流れていても困るので、体はそういう毒物を、ひとまず脂肪にとどめ置く。
ヒ素やカドミウムなどの重金属も脂肪に蓄積する。こうした重金属は、組織での電子や酸素を奪い、低酸素状態を引き起こす。ミトコンドリアの機能不全状態であり、副交感神経の過剰状態となる。
だから、妙にだるいような疲労感にさいなまれることになる。
こういう状態で、マッサージをすればどうなるか。
マッサージによって血流が改善し、脂肪内に蓄積していた重金属が一部、血中に溶出する。
結果、閉じ込めておいた毒性が再度経験されることになり、マッサージ後の不調感の一因となる。

ちなみに、意外に思われるかもしれないけど、ビタミンCの投与によって、血中の有害ミネラル濃度は一時的に上昇します。
なぜかって?
ビタミンCには有害ミネラルをデトックスする作用があるんだけど、その作用を発揮するには、脂肪の中に蓄積した重金属を一度は血中に溶かすプロセスが必要だから。
“Orthomolecular Medicine For Everyone”(Abram Hoffer著)という本の一節に、以下のような記述がある。
「ブリティッシュコロンビア大学のエリック・パターソン医師は、精神障害者の治療センターで顧問医師をしていたとき、ある患者が通常よりも鉛の血中濃度が10倍高いことに気付いた。パターソン医師は1日4000㎎のビタミンCを投与した。彼はすぐに回復するとは考えていなかった。翌年、その患者の血中鉛濃度はむしろ増加していた。しかしこれはビタミンCが体内に淀む鉛を動態化させているのかもしれないと考え、ビタミンCの投与を根気よく続けた。その翌年、鉛濃度は急激に下がっていた。そして年月が過ぎるにつれ、その濃度はほとんど検出できないほどになり、患者の行動は非常に改善した。」
これはすごい話だと思いませんか。
何がすごいって、血中の鉛濃度が普通の10倍も高い人だから、病気に鉛が関与していると考えるのは当然として、その治療のためにビタミンCの投与を開始したら、むしろ血中鉛濃度が上がってしまった。
ここで普通の医者ならあっさり方向転換するところ、根気よくビタミンCの投与を一年以上続けて、結果、ようやく鉛濃度が減少し、本当の回復を達成したっていう。
この話は、実に示唆的だと思う。
ビタミンCの投与は、長く続けることが重要だ、ということ。
即効性を期待して、効果がないやとすぐにあきらめては、もったいないですよー!

マッサージ自体は悪いことではないと思う。
ただ、マッサージによる血流改善によって、フリーラジカルが発生することを事前に認識しておけば、やるべきことは見えてくる。
抗酸化物質の摂取だ。
具体的には、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、セレンあたりを摂っておくといい。
そうすればマッサージ後の不調感を軽減することができる、はず。
はず、というのは、このあたりの考察は、病態機序から考えた僕の推測に過ぎなくて、そのあたりを検証したEBMは恐らく存在しないから。
でも、ビタミンは摂ってて体に悪いものではないから、みなさん、日々の健康管理にビタミンを活用しましょう。