以前のブログに書いたように、スタチンを抗癌剤として利用できるのではないか、と考えて、研究が行われていたことがある。
一体どのような機序によってか?
「スタチンは細胞周期を停止させる。ということは、リダクターゼをブロックするスタチン(およびその他のカビ毒)を使えば、癌細胞の増殖も防ぐことができるのではないか」
この考え方に基づいて実験を行うと、実際確かに、癌細胞の増殖を止めることができた。ただし、ごく一時的に。
実験期間を長くすると、スタチンの投与によって、細胞はますます多くのリダクターゼを産生するようになり、Rasタンパクが阻害され、細胞周期が狂い始める。
現在流通しているスタチンは可逆性があり、citrinin(遠藤先生が研究していたカビ毒)やcerivastatin(バイエル社から販売されたスタチン)ほどの強い毒性がないため、癌を発症するまでには年単位の時間がかかる可能性がある。このあたりは、アフラトキシンの毒性が数週間で出るのと対照的である。
短期間の研究だけを見れば、スタチンは見かけ上、癌細胞の細胞周期をブロックしている。一見癌に効くように思えるが、それは全体像とは言えない。
短期的にではなく、本当の意味でリダクターゼを減少させるのは、植物性イソプレノイドである。

『イソプレノイドを介したメバロン酸合成の抑制~癌に適応できる可能性』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10460692
要約部分をざっと訳してみよう。
「植物性メバロン酸代謝物のイソプレノイド終末産物は、3-ヒドロキシ3-メチルグルタリルコエンザイムA(HMG CoA)リダクターゼの活性を抑制する作用がある。この作用は、HMG CoAリダクターゼによるmRNA転写とHMG CoAリダクターゼのタンパク分解を調整している。そのような転写後作用は、直接的には非環式イソプレノイドによって、間接的には環式イソプレノイドによって、活性化される。
イソプレノイドは、ステロイド産生の支配的転写エフェクターに二次的に作用して、コレステロールを軽度に低下させる。ただしその作用が現れるのは、食事由来のコレステロールが豊富にあることによって、コレステロール産生が抑制されていないときだけである。腫瘍増殖に関連した異常(ステロールのフィードバックに対して抵抗性のあるHMG CoAリダクターゼの活性化)によって、ステロール産生経路の中間産物が蓄積する。そうした中間代謝物が、成長ホルモン受容体、核内ラミンA、B、発癌性rasが膜に接着したり、生物活性を持ったりするための脂溶性アンカーとなる。腫瘍のHMG CoAリダクターゼは、イソプレノイドによって仲介される二次的調整に対して、感受性は高いままである。
植物由来のイソプレノイドによってメバロン酸経路を抑制すると、rasやラミンBのプロセシングが減少し、細胞がG1期で停止し、アポトーシス(細胞死)が始まる。この腫瘍特異的感受性をうまく使えば、イソプレノイドを癌治療に利用することも可能である。スタチンの作用に似ているようでありながら、副作用がまったくないのである。一般的な食事から摂取できる程度の量で検証しても、イソプレノイドの単剤投与ではコレステロール合成や腫瘍増殖に対して、まったく作用しない。しかし、イソプレノイドを介した活性は相加的であり、ときには相乗的である。植物を豊富に含む食事では癌リスクが低いことが分かっている。この理由は、植物体を構成する23000とも推定されるイソプレノイドの組み合わせや、他のフィトケミカルとの相乗作用によって、説明できるかもしれない。ただし癌リスクは、食事(果物や野菜、穀物)の代わりにサプリ(つまり、食物繊維、βカロテン、ビタミンC、E、葉酸のサプリ)を摂っても、低下しない。」

重要なのは要約の後半部分。
イソプレノイドには癌の抑制効果があるが、一種類のイソプレノイドだけを投与しても、食事から摂取できる程度の量では、癌には無効だった。たとえばコエンザイムQ10(イソプレノイドの一種)のサプリは、癌の予防の一助にはなっても、恐らく癌の治療には効かないだろう。
以前のブログで内海聡先生の”精製物質毒”の話を紹介したが、結局サプリメントは天然の野菜のパワーにはかなわない、ということかもしれない。

野菜の摂取量が多いほど癌の発症リスクが低いという研究は無数にあるから、今さら論文を紹介するまでもないだろう。逆に、肉の摂取量が多いほど癌の発症リスクが高いという研究も多いが、近年日本では高タンパク(肉食励行)がブームで、癌の増加にますます拍車がかかるのではないかと心配だ(個人的には、肉が悪いというよりは、粗悪な畜肉が癌の原因だと思っている)。
植物性イソプレノイドの大量摂取によって癌が治癒可能であるということは、野菜ジュースの積極的摂取を勧めるゲルソン療法がやっぱり正しかった、ということだろう。ゲルソン療法についてはまた改めて紹介したい。

参考
“Proof for the cancer-fungus connection”(James Yoseph著)