誰だって死にたくない。それは人間に限らない。
生きようとする衝動は、すべての生物に共通するもので、細菌もその例外ではない。
抗生剤、スタチン、肉類・乳製品(飼育過程で大量の抗生剤を使うため残留している)などのカビ毒によって、生存に不利な環境になると、細菌は様々な変異を起こして、何とか生き抜こうとする。

たとえば、腸内に、いわゆる善玉菌がいる。
普段はビタミンや脂肪酸など、宿主にとって好ましい物質を産生してくれる味方だ。人間と腸内細菌、win-winの関係にあるわけだ。
しかしここに、カビ毒(mycotoxin)など、何らかの毒物が流入してきた。善玉菌は生存のために、やむなく変異し、いわゆる悪玉菌になる。

どのような変異を起こすかは、どのような毒物であるかによって異なる。
たとえば、ペニシリン。
そもそも抗生剤が菌だけを殺し人間には無害なのは(そんなことあり得ないけどね)、抗生剤が細菌と人間の違いに付け込むからだ。
たとえば細胞壁の有無。細菌には細胞壁があるが、人間にはない。
ペニシリンにはβラクタム環が含まれていて、これが細菌のPBP(ペニシリン結合タンパク)に結合し、細胞壁の合成を阻害する。これは医学部の細菌学の授業で必ず習う。
教授がこんなふうに説明していた。
「レンガを積み上げてせっせと壁を作っているときに、そこにレンガと”似て非なるもの”、たとえばレンガと同じサイズのチョコレートが来たらどうだ。
細菌はうっかり、そのチョコレートをレンガとして壁のなかに組み込んでしまう。そうすると、粗悪な細胞壁ができて、結果、細菌は正常な機能を保てなくなり、破綻するわけだ」
なるほど、うまい比喩だね。
では、このペニシリンに対して耐性を発揮する機序は?一般的には、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)という酵素の産生能を獲得することによる、とされている。
つまり、チョコレート(偽レンガ)が来たら、それを溶かす酵素を作るようになることで薬剤耐性菌になる、と。
なるほど、そういう機序もあるだろう。しかしCWDsに注目すれば、別の機序が見えてくる。

実はCWDs(細胞壁欠如細菌)は、細胞壁を持った普通の細菌から、シャーレの上で人工的に作ることができる。ペニシリンを少量注入して、培養してやればいい。
顕微鏡で観察すれば、”普通”の細菌が強固な細胞壁を脱ぎ捨て、アメーバ様の”皮膚”をそのままさらしながら生存している姿が確認できる。マイコプラズマそのものである。
抗生剤を除去してやると、再び細胞壁を身にまとう。抗生剤を入れると、また細胞壁を脱ぐ。その繰り返し。
細菌は非常に賢明である。ペニシリンの性質をすばやく見抜き、「細胞壁を持っていては生存に不利だ」と認識して、すぐに適応する。
この人工のCWDsは、特にL型CWDsと呼ばれている。このL型が、癌をはじめ様々な慢性疾患の発生に関与していることが、研究で明らかになっている。
CWDsにとって、細胞壁を脱ぎ捨てるメリットは、抗生剤による死を免れただけではない。白血球は、細菌の細胞壁上に発現しているタンパクを感知することによって、異物の認識を行っている。CWDsに細胞壁を脱がれてしまうと、白血球は裸の細胞膜のままで体内を移動するCWDsを認識できず、彼らに対して免疫能を発揮できない。

ウレアプラズマやマイコプラズマといったCWDsは、まるで小さな脂肪球(大きさはヒト細胞の100分の1ほど)のように見える。
実際、内部にコレステロールを蓄えており、細胞膜は脂質が豊富で柔らかく、すぐに形態を変える。
真菌のように毒素を産生するものもある。また、やはり真菌のように、エネルギーを他の生物細胞に依存しているため。あらゆるタイプの細胞に侵入して栄養分を奪う。
特にウレアプラズマは泌尿器・生殖器系に侵入するマイコプラズマであり、慢性的な膀胱炎に罹患している人は、まず、このCWDsにやられている。

ペニシリン系薬剤は細胞壁の合成阻害によって効果を発揮するが、別の作用機序の抗生剤もある。
たとえば、生存に必須なタンパク質や脂質(イソプレノイド)の合成阻害である。これらの攻撃に対して、CWDsはどのように対応するのか。
なんと、タンパク質や脂質を合成する遺伝子を放り出すのである。その代わりに、ヒト体内の細胞に侵入し、タンパク質や脂肪を盗む。
抗生剤を使い続ける限り、これらのCWDsは体内に潜み、人間から栄養分を奪い続ける。しかし抗生剤の投与をやめると、また細胞外に出てくる。
CWDs微生物に言葉があれば、このように言うだろう。
「抗生剤を魔法の薬とか言っているが、そんなもん、効いてませんから!残念!(←波田陽区風)
そういう攻撃を続けるようなら、死ぬのはむしろ、あなたのほうだよ」
この百年の間、人間は細菌と戦争し、真菌と領土争いを延々続けている。
カビ毒を使ったこの戦争を終わらせないのなら、終わりになるのは私たちの命かもしれない。

参考
“Proof for the cancer-fungus connection”(James Yoseph著)