「白血球分画オーダーしてるけど、これ、どういうこと?」
上級医に尋ねられ、言葉につまった。どこから説明すればいいだろう。
とりあえず、ざっくりと答えを返す。
「顆粒球優位かリンパ球優位かが分かれば、交感神経緊張状態か副交感神経優位か分かりますし、それに、」
「いや、そういうの、いいからさ。医療費抑制のためにもね、こういうムダなオーダーをしちゃダメだよ」
「はい、わかりました」
文末が疑問形になっているのは単なる婉曲表現であって、本当にその理由を聞いてるわけじゃないんだ。
真面目に答えようとして損したな。
しかし、白血球分画の実施料は15点。つまり、150円だ。
たったの150円で非常に有益な情報が得られると僕は思っているんだけど、データの意味を知らない医者にとっては、確かにムダ以外の何物でもないだろうね。

自律神経には交感神経と副交感神経がある。
これらは互いに拮抗する働きをしていて、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキにたとえられる。
たとえば日中活動的に過ごすときには、交感神経が優位になっていて、心臓の機能を高め、呼吸を早くし、消化管の動きを抑制する。
副交感神経は夕方から夜にかけて、休んでいるときや食事をしているときに優位になって、心臓の働きや呼吸を穏やかにし、分泌現象を促進し消化管の蠕動運動を活発にする。
交感神経は「闘争か逃走か」を司る神経とも言われる。英語の「fight or flight」の訳で、誰が訳したのか知らないけど、うまい翻訳だと思う。
一方、副交感神経は「休息と消化」の神経と言われている。英語では「rest and digest」と脚韻を踏んでてシャレてるけど、和訳では韻も何もなくてつまらない笑
交感神経の刺激は、副腎の出すアドレナリンや交感神経自身の出すノルアドレナリンによって媒介されている。
一方、副交感神経の刺激を媒介するのはアセチルコリンである。
どの臓器にも交感神経、副交感神経が分布していてその機能を調整しているわけだけど、驚くべきことに、白血球さえ自律神経の支配を受けいている。
つまり、白血球の細胞膜上には交感神経の刺激を受け止めるためのアドレナリン受容体や、副交感神経の刺激を受け止めるためのアセチルコリン受容体があり、自律神経の支配を受けている。
この事実を発見したのが、安保徹先生だ。

白血球には大別すると顆粒球とリンパ球がある。顆粒球は細菌を貪食して処理し、リンパ球は抗体などを産生する。
顆粒球、リンパ球、いずれもマクロファージから分化した細胞である。
顆粒球は交感神経の支配下にあり、その膜状にはアドレナリン受容体がある。
リンパ球は副交感神経の支配下にあり、膜状にアセチルコリン受容体を持つ。
だから、ストレスなどで交感神経の過緊張が起こると顆粒球が増加し、その放出する活性酸素により組織障害が起こる。
逆に、休息や食事の過剰、つまり運動不足や肥満によって副交感神経が優位になりすぎるとリンパ球が増え、アレルギー体質になる。
つまり、白血球分画を見れば、顆粒球、リンパ球の比率が分かり、交感神経、副交感神経どちらが優位になっているかを判断できる。
おおよその正常値としては、顆粒球が60±5%、リンパ球が35±5%ぐらいだ。
たとえば顆粒球70%、リンパ球25%のような人は、交感神経が緊張状態にある。
症状としては、肩こり、腰痛、便秘、食欲不振、高血圧、痔、歯槽膿漏、不眠などがある。
逆に、顆粒球45%、リンパ球50%といった分画の人は、副交感神経が優位になっている。
鼻水、かゆみ、蕁麻疹、うつ、元気が出ない、アレルギー疾患などの症状がある可能性が高い。

自分の採血データを見て、顆粒球過多なら「最近ストレスが多すぎたせいだな」「薬の飲みすぎのせいだな」、リンパ球過多なら「運動不足のせいだろう」など、自分の生活を見直すきっかけになる。
白血球分画のこうした読み方は、すでにアメリカの検査会社でも取り入れられている。
安保先生の論文が説得力を持って受け入れられている証拠だろう。
残念ながら、本家の日本で「分画なんて調べるのはムダ」という医者ばかりなのだから、安保先生も泉下で残念に思っていることだろう。

Autonomic Nervous System Control of Leukocyte Distribution: Physiology and Implications for Common Human Diseases

安保先生は生前、著書や講演などで一貫して薬の害を言い続けてきた。
「体にいい薬というのは、ありえない」これが、長年免疫を研究してきた安保先生の結論である。
そこらへんのオヤジが言っているのではなく、免疫学の世界的な権威が言うのだから、一部の人たちにとって、安保先生の存在は実に目障りだった。
不審者に研究室を荒らされるなど、先生は身の危険を感じていた。講演で冗談交じりに「私が死んだら、殺されたと思ってください」などと言っていた。
先生は二年ほど前に急死された。そのあたりの事情をネットで調べてみた限りでは、どうも他殺の線が濃い印象を受けるが、当然真相は分からない。
J・F・ケネディ、キング牧師、ジョン・レノンなど、「本当のこと」を言って殺された人は多い。安保先生もその一人なんじゃないかな。
他殺だったとすれば、「彼ら」は口封じに成功したと思っているかもしれない。でも、それは誤算だ。
安保先生が主張していたのは、自身の研究から導いた学問的事実であって、こういう事実を封印することなんて、できるはずがない。
ネットが情報のあり方を変えて以後、人々がどんどん事実を知るようになってきていて、この趨勢を止めることなんてできないと思う。
んだけど、僕が甘いかもな。
やっぱり既存の医師の権威は揺るぎ難く、製薬会社の宣伝力は力強くて、「本物」は人々に知られぬまま隠蔽され続けるのかもしれないな。