憩室、という言葉は、一般の人が聞いてもまず知らない言葉だろうけど、消化器内科の先生にとっては毎日臨床現場で当たり前に見ている病気だ。
これは典型的な現代病で、19世紀にはほとんど存在しなかったが、20世紀以降急激に増加した。
原因ははっきりしていて、食物繊維が少なく、かつ、糖質が多い食事だ。糖質の摂取量と比例して、発症率が増加している。
以下、”Orthomolecular Medicine for Everyone”からの引用です。

「結腸の憩室性疾患は糖質代謝症候群の主要な症状であり。これは1900年以前には極めて稀だったが、20年も経たないうちに西洋ではよくある病気になった。1930年には40歳以上の人々の約5%に憩室があると推測された。今や結腸で最も多い病気となっている。80歳になるまでに3分の2がこの病気になっている。対照的に、いまだに食物繊維の豊富な食事をしている人では、極めて稀な病気である。しかしそういう人も、低繊維・高糖質食を食べるようになると、その罹患率が急激に上昇する。食物繊維を豊富に含む小麦粉の使用が余儀なくされ、砂糖の入手が困難となった第二次大戦中にはこの病気の発生率の増加がピタリと止まった。
憩室症は筋線維の間で腸壁が絞られることにより発症する。腸内容が豊富で柔らかいと(つまり、食物繊維でかさが多いと)、圧力が少なくて済み、結腸でそれほどきつく締められない。腸内容を蠕動で送り出すのに大きな圧力や負担が必要でないのだ。それでは、腸疾患の治療に無刺激な柔らかい食事が非常に長く用いられてきたのはなぜなのか。食事中に粗い粒子が含まれていると、憩室に刺激を与えたり、憩室の中に入り込んで、穿孔を引き起こすと信じられていたのだった。きめの粗い食物や食物繊維は腸の過敏性の原因だと考えられていた。実際には人々の食事の大半はすでに柔らかくて食物繊維が少なかったのだが、食物繊維豊富な食事は問題の原因とされたため、治療としてそういう食事が供されることはほとんどなかった。食物繊維の乏しい食事では症状を悪化させるだけのことであって、この病気を慢性化させることにしか役立たなかった。
大腸や直腸の癌は糖質代謝症候群を起こす食事と関係性がある。北アメリカおよびヨーロッパの国々では、この癌は他のどの癌よりも多くの人命を奪っている。アメリカでは毎年7万人の新規症例が報告されているが、発展途上国では稀な病気である。発展途上国ではポリープも稀であるが、西洋諸国では非常によく見られる。発展途上国で生まれ育った人が、自国においてであれ、西洋諸国に移住するのであれ、低食物繊維食を摂るようになると、ポリープや癌の発生率が増加する。いくつかの要因が関与しているが、一つの大きな要因は、細菌の作用による発癌物質や胆汁酸塩の濃縮による発癌物質である。通過するのが遅いため、大腸に発癌物質が長くとどまることももう一つの要因である。食物繊維が豊富でかさがある便は腸の通過時間がすみやかであるため、癌を発生させるリスク因子全てを軽減する。
潰瘍性大腸炎は西洋化した国民にとってもう一つのよくある問題である。糖質代謝症候群の他の症状にも言えることだが、本症の存在も低食物繊維、高糖質の食事が原因である。これはいまだ食物繊維豊富な食物を常食している発展途上国では極めて稀な病気であり、先進国ではありふれた病気である。クローン病にも同じことが言える。」

大腸癌、潰瘍性大腸炎、クローン病も、やっぱり食事が原因の現代病ということだ。
腸は食事の通過する部分だけあって、食事の影響がもろに反映されるんだな。

人間は本来何を食べるべきか、というのはこれまでいろんな学者が考察してきたことで、「バランスのとれた食生活が大事だ」などと言われるけど、じゃ、バランスのとれた食事とは何なのか。
たとえば肉食獣のライオンはガゼルとかの草食獣を捕まえて食べるわけで、彼ら、基本的には肉ばっかり食べている。
で、一方の草食獣は、地面に生えた草ばっかり食べている。
肉食獣も草食獣も、「ばっかり食い」なんだな。
では人間の食性はどうか。
肉も草も食べる雑食、というのが答えだから、肉も野菜も両方食べればいいんだけど、その野菜のなかに、穀物(特に精製穀物)を含めてしまっては、かなり危ういことになりそう、というのが研究者の示唆するところだ。
500万年前に発生した人類は、基本的に狩猟採集の生活をしていて、肉とか葉っぱとか食ってた。それが、1万年ほど前から農耕という技術を編み出し、小麦や米を大量に能率的に収穫できるようになった。
炭水化物のもたらす甘味に人々は夢中になったし、穀物を発酵させて生じるアルコールの魅力にもハマり始めた。食生活の変化に伴い、これまでにはほとんどなかった病気もいろいろと出てきた。
さらに革命的だったのは、19世紀後半に進歩した穀物の精製技術だ。それまではパンといえば、黒パンが当たり前だった。
ところが食物繊維を能率的に除去して、黒いパンを白くする技術が次第に洗練されるにつれて、新たな病気がますます増えていった。
たかが食物繊維、じゃないんだ。
小麦のふすま、米のぬかには、食物繊維だけじゃなくてビタミンやミネラルが豊富に含まれていて、それが人々の健康の支えになっていたのに、みんなそれと気付かず、一番大事な部分を捨ててしまうようになったわけだ。
食生活の多様化は、病気の多様化でもあった、というのが歴史を振り返ったときに見えてくる事実のようだ。
では、病気の治し方は?
昔のシンプルな食事に戻してやればいい。
人工的な加工プロセスを経た食材は極力使わず、自然なとれたての野菜や魚を食べる。
でもこれ、一見簡単なようだけど、現代文明の恩恵にどっぷり漬かっている僕らには、なかなか難しいことなんだな。
この食生活の改善の難しさが、つまり、現代病の治療の難しさだと思う。
ここの難関をクリアできた人、つまり、食生活の改善をきちんとできた人は、確実に病気から回復していきます。
そうではなくて、一般的な薬に頼るだけで食生活の根本的なところがそのままであったり、あるいは「サプリさえ飲んどきゃ何とかなるでしょ」というスタンスの人は、根治に至るのはなかなか難しい、というのが僕の率直な思いです。