近所にある塾で『栄養と知能』についての講演会を行ったことをきっかけに、何人かの保護者が当院に相談に来られた。
「栄養状態の改善で成績が伸びるのであれば、ぜひともアドバイスが欲しい」というのが、来られたお母さん方に共通する希望だった。
まずは話を聞く。
どのような食事をしているか。お菓子やジュースを過食していないか。
勉強に取り組む姿勢はどうか。お母さんがプレッシャーをかけすぎていないか。
話を聞いているなかで、それぞれの課題が見えてくる。
ある子供の例を供覧しよう(詳細は変えてある)。

10歳男児。
幼少期からADHDと指摘されていた。いわゆる「場の空気を読む」ということができず、クラスの中でいつも浮いた存在だった。
友達付き合いも苦手で、学校に行くのが苦痛だった。
運動も苦手だった。幼稚園でラジオ体操をしたとき、動きのぎこちなさを担任から指摘されていた。
集中力が持たず、授業中にじっとしていることができず奇声をあげる。教師から「家での育て方に問題があるのではないか」と言われたことも一再ならずあった。
母にとっては初めての子供だったが、何かとこだわりが強く、育てにくさを感じていた。
しかし、かわいい我が息子である。空気の読めなさや落ち着きのなさも愛すべき特質でこそあれ、矯正して治すべきもの、とは思っていなかった。
ただ、その性格ゆえに本人が学校の友達からバカにされ教師から白眼視されているとあっては、気の毒だ。何とかしてやりたい。
ネットを使って様々な情報収集に努めた。
「発達障害児は協調運動障害を併発していることが多い」、との記述を見付けスポーツや作業療法をさせた。
「サプリがいい」、と知ってビタミンや鉄のサプリを飲ませたりした。
どれも効果はない。あいかわらず授業中に独り言が出てしまうし、集中力は続かない。
そんなとき、子供が通う塾で行われた僕の講演を聞き、助言がもらえればと2019年3月当院に来院した。
食生活について問診したところ、お菓子をよく食べ、牛乳を毎日飲み、ご飯よりもパンを好むという。
食へのこだわりが強いようなら無理矢理に、とは言わないが、精製糖質、乳製品、小麦製品の摂取は極力控えるよう指導した。
さらに、有機ゲルマニウム、タラの肝油、フォスファチジルセリン、ビタミンD/Kのサプリを勧めた。

一か月後。
甘いものをできるだけ摂らないようにするなど、食事に気を遣っているという。
机に向かう時間が明らかに長くなった。毎月行われる学力テストで偏差値が初めて50を超えたと喜んでいる(それまではずっと40台だった)。

一か月後。
学校が楽しくなった。授業中に何かを衝動的に言ってしまう、ということがなくなって、友人との付き合いもうまく行くようになった。
これまでは学校から帰ると、学校であったイヤなことを母にこぼしていたが、そういうことが少なくなった。
「いい変化はいろいろあるのですが、何より、我慢、ということができるようになったことが大きいと思います」と母。
食事改善とビタミン摂取を開始してからの心身の変化は、母よりも誰よりも、本人が一番強く感じていた。
4泊5日の自然学校があったが、ビタミンを持って行くことを忘れなかった。
5日間始終他人と過ごすことはいつもの自分なら苦痛で仕方なかったはずだが、サプリのおかげで乗り切れた、と本人は感じていた。

一か月後。
体が軽い。同時に、気持ちも軽い。
「私が口うるさく勉強勉強って言わなくても、自分から机に向かいます。こんな子だったかしら、って思います。
勉強しながら、何かぶつぶつ独り言をいうこともなくなりました。この子らしさがなくなって、ある意味寂しいような」と母、笑いながらいう。
成績も順調に伸びている。このとき初めて、これまでの学力テストの成績推移を見せてくれた。
確かに、着実に上がっている。去年は偏差値40台ばかりだったのが、偏差値50台が当たり前になった。特に算数と理科の成績の伸びが目覚ましかった。
成績に応じたクラス分けもH1クラスからSクラスにアップした。
(クラス分けはV、S、H1、H2とあって、Vは偏差値60以上で灘や甲陽を狙うレベル。Sクラスは偏差値50~60で白陵や六甲を狙えるレベル)

一か月後。
自主的に勉強している。
「頭が良く回ります。記憶力がよくなったと思います。甘いのは食べたいけど、我慢してます。
前はチョコレート食べてたところ、おかきだけにしとこう、みたいな。お母さんも僕と一緒に我慢してくれてる」と本人の弁。
初めて来院したときに比べると、はっきり顔つきが凛々しくなった、というのが僕の印象。
当初は、何となくポカンとした顔つきをしていたのが、今は引き締まっている。
甘いものを控えてスリムになったというのもあるだろうが、それだけではない。
目つきや表情からして違う。知性というのは、顔に出るんだな。

成績が伸びたことは喜ばしいことだ。
しかし学校や塾の成績というのは、長期的な目線で見れば大して意味はないと思う。
一番大きいのは、本人の内面的変化だ。
授業中に奇声をあげてしまう。教師ににらまれ、クラスメートからは失笑された。「恥ずかしい」という思いはある。でも、止められない。
それが栄養改善に取り組むことで、はっきり心身に変化が現れた。
我慢、ということができるようになった。落ち着いて授業を聞けるようになった。衝動的にものを言うことが減り、友人関係も順調になった。
彼の中に初めて、自尊心と呼び得る感情が芽生えた。
もはや母に「勉強しなさい」と言われる必要はない。自分から積極的に目的意識を持って勉強するようになった。

成績が伸びたことは単なるオマケであって、その根本にある本人の姿勢の変化。これこそが核心だと思う。
本人は「将来は医者になりたい」という。このまま勉強を続ければ、きっとなれるだろう。
「医者っていうのはね、製薬会社の手先になって殺人医療に従事する仕事だよ」とはもちろん言わなかった^^;
目標を持って頑張ることこそが大事で、現実に失望するのはもっと後でいい。