「大阪で地震が起こったとき、ちょうど通勤途中で、電車に乗っていた。
電車の中はパニックだった。
激しく揺れて電車が止まって、ケータイの地震警報があちこちで鳴り響いて。
僕のすぐ近くにいた若い女性が、大声出して叫んだ。「死にたくない!」
別に僕に言ったわけではもちろんなくて、本能的な危機感から出た自然な叫び声という感じだったけど、僕のすぐ横だったから、「大丈夫。何とかなるって」とその人に言った。
涙流した顔をこちらに向けた。きれいな人だったから、ドキッとした。
男ってしたたかなもので、ああいう危機的な状況でも、「吊り橋効果でお互い好き同士になれたらいいな」とか思った。結局何も起こらへんかったけどね笑
そこからがきつかった。車内に2時間ほど閉じ込められてさ。
地震が起こった直後のパニックが落ち着いたら、今度はみんな現実的になって、ケータイをチェックする。地震速報がすぐネットで流れるから、大阪で地震が起こったんだ、と自分の状況が客観的に見えてくる。
それと、みんなあちこちに電話をする。会社とか家とか友人とか。でも電話も通じにくかった。
僕の勤める会社は、電車の止まった場所のすぐ近くだったから、駅員に「早く降ろしてくれ。歩いていくから」って駅員によほど言いたかったけど、言わなかった。
車内で閉じ込められて、ガマンしてるのはみんな同じだしね」

今年大学を卒業して社会人になったばかりのいとこの話。
酒を飲みながらの話だったせいか、その後の話題はもっぱら吊り橋効果の話になった。
「吊り橋効果を吊り橋効果として認識しているうちは、吊り橋効果なんて起こらないんじゃない?」
「いや、そもそもそんな効果、ほんまに存在するの?」
「吊り橋を渡る緊張感を、一緒にいる異性に対するドキドキと勘違いするって?そんなアホ、ほんまにおると思う?
むしろ逆やと思うわ。
こいつと一緒におるせいで、ピンチになってもた。こいつは貧乏くじ引く疫病神や、と。
それで相手への好意も冷める、という感情のほうが、よほど現実的じゃない?」

心理学は、学問と名乗るには微妙なところがあって、ある実験報告を読んでそれを追試しようにも、結果の再現率が非常に低いんだ。化学ならこんなことはまずあり得ない。
スタンフォード監獄実験というのがあって、映画化もされた有名な実験なんだけど、これがウソだったということもバレてしまった。http://karapaia.com/archives/52261130.html
要するに、心理学は学問というよりは占いなんだと割り切ったほうがいいと思う。なまじっか学問としての正確さを要求しては、その不正確さにイライラするだろう。占いに毛の生えた程度の代物、ぐらいに思っているほうが、かえって楽しめると思う。

でも個人的に、実臨床で役立っている心理学がある。
バーナム効果って知っていますか。
誰にでも当てはまることなのに、まるで自分にだけ当てはまるような気持ちにさせて、ドキッとさせちゃう効果なんだけど、これ、精神科医として患者と接するときには、非常に使えるテクニックだ。
「みんなの前では社交的にふるまっていて、周りからは悩みなんてなさそうでうらやましい、って言われても、本当はそんなことないですよね。ときには家で一人、じっとしていたい。そういう気分にもなりますよね」
「ありのままの自分を愛されたい、と思う一方で、こんな私じゃダメ、変わらなきゃ、もっと成長しなきゃ、って思う。自分を高めたいっていう思いは、すばらしいですね」
問診の途中で、こういうセリフをさりげなく挿入する。患者は、ハッと僕の顔を見て、「この先生、私のこと、すごくわかってくれてる」って思う。
でもね、違うんです。みんなに当てはまることを言ってるだけなんです笑
そもそも、アンビバレントで両極の間を揺れて行ったり来たりしてるのが人間なんだ。自信満々に生きているように見える人も、内心怯えていたり、萎縮してビクビク生きているように見える人も、人には譲れない信念を内に秘めていたりする。
両義的なのが人間です。
だから、つまり、吊り橋効果をバカにした僕だけど、やっぱり内心、吊り橋効果でドキドキするような出会いには憧れているのです笑