前回のドラッグの話の続きというわけでもないが、最も身近な麻薬は小麦である。
これは比喩でも何でもなく、文字通り本当のことだ。もちろん、法律的な意味ではない。『小麦取締法』という法律はないし、「小麦の所持および使用」の容疑で逮捕されることもない。
しかし小麦が人間の体に及ぼす生理的作用を見れば、モルヒネの薬理作用そのものである。

摂取するとハイになり、人によっては妄想や幻覚を生じる。やめようにも強い依存性があって、我慢すると様々な禁断症状が出る。
覚醒剤の話をしているのではない。スーパーに普通に売っている小麦製品のことを言っている。
小麦をやめるのは本当に難しい。僕自身もそうだったし、患者を見ていればわかる。なんだかんだと理由をつけて、あの手この手で小麦を食べようとする。
意志が弱いとか、小麦製品がないと生活が不便だとか、長年の習慣を捨てることにためらいがある、という話ではない。本人にはまったく自覚がないのだろうけど、すっかり依存症に陥っているのだ。

小麦由来のグルテンは、胃酸とペプシン(胃液に含まれる酵素)によってポリペプチドに分解される。このペプチドには、BBB(血液脳関門)を通過する性質がある。
BBBとは何か。一言でいうと、「関所」のことだ。脳は繊細な器官で、血流に乗って何でもかんでも侵入してきては困るから、BBBという関所を置くことで、要、不要を分別している。
小麦ペプチドは、このBBBをフリーパスで脳に入り込み、脳内のモルヒネ受容体に結合する。これはアヘンが結びつく受容体と同じものだ。小麦によって多幸感や幻覚、妄想を生じる核心はここにある。

研究者はこの小麦ペプチドを、外因性モルヒネ様化合物、略して”エクソルフィン”(exorphin)と名付けた。外因性とは、内因性(たとえばランナーズハイのときに自前で分泌されたり)ではない、ということだ。
小麦によって統合失調症が悪化することが知られているが、この背景にはBBBを通過してモルヒネ受容体に結合するエクソルフィンの作用があるのではないか?
だとすれば、モルヒネ受容体を遮断することで、このペプチドの悪影響を軽減できるのではないか?研究者はこの仮説を検証した。

ナロキソンという薬がある。
内科医には比較的なじみのない薬だが、この薬を知らない麻酔科医や救急医はいない。
麻酔から覚醒させるときや、救急に運ばれてきたドラッグ使用者に投与する。すると、手術中眠っていた患者が目を覚まし、ドラッグの興奮状態が収まる。ヘロイン、モルヒネ、オキシコドン(アヘンに含まれる鎮痛剤)などの作用を、一瞬にして無効化する。これがナロキソンの働きだ。
動物実験ではナロキソンの投与によって、エクソルフィンとモルヒネ受容体の結合が遮断されることが示された。そう、ドラッグ常用者のヘロイン作用をキャンセルするまさにその同じ薬剤が、小麦由来のエクソルフィンの作用をも阻害するわけだ。

この作用はWHOも確認している。激しい幻聴症状に悩む統合失調症患者32人にナロキソンを投与したところ、症状の改善が確認された。
ところが、次の必然的ステップ、「小麦を含む食事をしている統合失調症患者と、小麦除去食の統合失調症患者にナロキソンを投与する比較研究」は、行われていない。
なぜか。なぜこんな重要な研究が行われないのだろう。
「薬ではなく、食事を改めて病気を治しましょう」という結論が出そうな研究は、基本的に行われない。医薬品の使用を支持しない結論は、製薬会社にとって極めて不都合だから。WHOがどういう組織か、こういうところに実体が透けて見えるようだ。
「WHOの背後にはロックフェラーがいる」なんてことを言うと、都市伝説だ陰謀論者だとバカにされる。でも、PubMedにWHOとロックフェラーの関係性を検証する論文が普通にあがってるんだけどね。
『ロックフェラー財団とWHO(世界保健機構)の背後関係 パート1:1940-1960年代』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24412372

小麦を控えるように患者に指導すると、調子が悪くなる人がいる。「気分が曇りがちになって、食欲が落ちた」という。エクソルフィンがモルヒネ受容体に作用して多幸感や食欲増進をもたらすところ、小麦を食べなくなったことでその恩恵がなくなるわけだから、この症状は想定内のことだ。
だから患者は、この禁断症状に耐えないといけない。でも安心してください。ずっとその状態が続くわけではありません。数日間で必ず回復します。

しかし考えてみれば、恐ろしいことだ。
中枢神経系に明らかな作用(多幸感、幻覚、妄想)を与え、その摂取をやめれば禁断症状さえ引き起こす食材なんて、アルコール依存症を除けば、小麦しかない。
そう、まず、この小麦の恐ろしさを自覚すること。回復はそこから始まることを肝に銘じよう。

統合失調症患者が小麦をやめることで症状が改善することについては、以前のブログで述べた。では、正常な人(統合失調症でない人)が小麦をやめるとどのようなメリットがあるのか。
ナロキソンの投与によって、プラセボ群と比較して、食事摂取量が昼食で33%減少、夕食で23%減少した。つまり、小麦によって多幸感が得られて過剰に食べてしまうところ、ナロキソンがその報酬系を遮断し食事摂取量が減る、ということだ。

さすが、製薬会社は利益に敏感である。ナロキソンに似た成分の薬ナルトレキソンを抗肥満薬(Contrave)として販売している。
ナロキソンは、要するに、中脳辺縁系の報酬回路をブロックする。なるほど、その作用によって、食べる意欲がなくなって、痩せるかもしれない。しかし、生きる喜びを感じる部分までブロックしてしまうのだから、タダで済むわけがない。
実際、長期投与の副作用として、不安や抑うつを発症することは必至である。じゃあ、こんな薬、使えないということになるんだけど、そこはさすが、製薬会社である。上記の薬Contraveには、先回りして抗うつ薬成分(ブプロピオン)が含まれている。
何かギャグマンガみたいな話だな。はなから「小麦食べるの、やめとけよ」っていう。でもなぜかその核心には誰も触れない。
臨床現場にはこんな茶番みたいな薬が山のようにあってバンバン処方されている。笑っているのは製薬会社だけ。
食事の改善という、たったそれだけのことで、世の中からどれほど多くの疾患がなくなることか。

参考:『小麦は食べるな』(ウィリアム・デイビス著)