飲み屋で隣り合った紳士。職場でかなりのストレスがたまっているようで、ビールをあおるピッチも早い。
「はっきり言うが、俺は大した学歴じゃないよ。一応四年制大学だが、誇って名前を出せるような大学じゃない。特に先生みたいなお医者さんの前ではね。
学歴のない俺だが、それでも、学歴は重要だと思う。
よく教育評論家みたいなのが言うだろう。『学歴ではない。企業側は人間の内容を見て採用すべきだ』とか。
違う。まったく現場をわかっていない暴論だよ。
うちの会社の人事にも、『人格重視。学歴は問わない』みたいなスタイルの人がいて、それで何度失敗したことか。一回採用してしまったら、たとえ無能な奴でもなかなか首にできないんだよ。
だから俺は人事には口を酸っぱくして言ってる。
『まず、Fラン大学ははずせ。産近甲龍も要注意。あとAO入試かどうか、入学の仕方もよく見ておけ。出身高校も注意。地元の二番手三番手の公立高校出身者はリスク因子。一見優秀そうな関関同立にも時々ハズレがあるから、注意しておけ』と。
立命館の教授に知り合いがいるんだが、嘆いていたよ。AO入試で入る学生がどんどん増えてきて、ついには6割もAO入試からとるようになった結果、学生の質が、もう、目も覆いたくなるくらいに低下した、と。ろくに勉強せずに大学に入って、大学でもフラフラ過ごし、立命館っていう学歴だけ笠に着て就職する。でも会社は、採用してからそいつの無能さに気付く。
あまりにもそういうバカ学生が多いものだから、企業側もついに懲りた。採用試験で『大学には普通の筆記試験で合格しましたか?AO入試で合格しましたか?』と聞くようになった。AOはずしだよ。

先生、いくつ?40?じゃあ、ゆとりじゃないだろ。
先生よりもっと下の世代はさ、ゆとり世代ど真ん中。大学全入時代で、たいした勉強もせずに大学に入学して、テキトーに学生生活を過ごしている。
びっくりするほど無能なのがいるんだよ、本当に。
ある新卒に指示したんだよ。『取引先が相場の2割引き以上で受注してくれるなら、その仕事、取ってこい』って。そしたら、そいつ、2割の意味が分からなかった。

え、信じられないって?そう。俺も最初、信じられなかった。2割の意味がわからないっていう、そのこと自体がよくわからなかった。
『分数ができない大学生』という本があるが、あれは本当だよ。漢字の読み書きが全然できなくて、契約書もろくに交わせない、っていう奴もいたな。

学歴社会を批判する人がよく言うだろう。『二次方程式の解の公式なんて世の中に出て使ったことは一回もない。因数分解なんて何の役にも立たない』とか。
なるほど、確かにそうだろう。うちの業界の営業職で、数学を使うことは少ないかもしれない。でも、算数は絶対に要る。
うちとしては、ときどき出くわすそういうジョーカーみたいな無能を引くリスクを抱えたくないんだ。『学歴よりも個性重視』みたいなのが世間の風潮だが、俺は断固として、学歴は重視したい。だから人事に必ず言っている。学歴は見ろ、と。
数学ができる奴なら、算数でつまづいていることはないだろう。入社試験でそれなりの文章が書ける奴なら、契約書も読めないなんてことはないだろう。そういう具合に、”最低限”の基本がある人間が欲しいんだ。多くは求めない。せめて、算数と国語ができる。それだけでいい。
もちろん優秀ならそれに越したことはないが、採用において一番大事なのは、”ジョーカー”をひかないこと。これに尽きる。
人事部はもっと責任感を持って選考して欲しい。新卒が入社後に”ジョーカー”だと判明したとするだろう。今ね、その新卒を採用した人事担当者を減給とか何らかのペナルティーを課せないか、真剣に考えている。当然その逆があってもいい。優秀な新卒を見出した担当者には、ボーナスにちょっと反映してやるとかね。

この試験を見てみなよ。君なら何点とれる?

数学というか、算数に毛の生えた程度の問題だ。1個2個の計算ミスは大目に見るが、基本、みんな満点をとる。
しかし今うちの現場で扱いに困っている社員は、この試験で、なんと、4点だった。
もうね、そういう学生は問答無用で不採用にしないといけない。無能な新人が来て一番割りを食うのは、現場なんだ。
数学とか国語ができるというのは、単にそれだけじゃない。頭がいいし、能力が高い、ということだと俺は思っている。学歴は、やはり、重要だ」