力士同士が立ち合いで正面からぶつかったとき、双方が受ける衝撃は軽く1トンを超えるという。
いかに当たり負けしない体を作るか、衝撃に耐える強靭な体を作るか。力士は常にこの課題と向き合っている。
食べることも稽古のひとつだった、と元力士が語っている。
そう、体を大きくするための秘訣は、力士の食事にある。

力士の食事と健康についての研究がある。1976年と古い研究だが、今読んでもおもしろい。
https://www.researchgate.net/publication/22180569_Some_factors_related_to_obesity_in_the_Japanese_Sumo_Wrestler
力士の食事は、朝夕の1日2回。ちゃんこ鍋というポークシチュー様の鍋を主食とし、一日の総カロリーはおよそ5500kカロリーである。
そのカロリーの内訳は、780グラムの炭水化物、100グラムの脂質、365グラムのタンパク質である。
なお、平均的な日本人は1日に3回食事し、平均摂取カロリーは2279kカロリーである。また、その内訳は、炭水化物359グラム、脂質50.1グラム、タンパク質82.9グラムである。
よって、平均的日本人と比べた場合、力士の総カロリーおよび炭水化物の摂取量は2倍以上、脂質は2倍弱、タンパク質は4.5倍ということになる。
力士の食事は、総カロリーの57%を炭水化物が占め、脂質の割合は16%と低い。
さらにこの研究では、番付が下位(幕下以下)と上位(十両、幕内以上)の力士で、体格や食事量の違いを見ている。
下位力士では、上位力士と比べて、体重が同じであったとしても、有意に脂肪が多く、かつ、筋肉が少ない傾向にあった。
また、下位力士はちゃんこ鍋を1日平均5120kカロリー摂取するが、その内訳は炭水化物が1000グラム、タンパク質が165グラム、脂質については、わずか50グラムだった。
つまり、下位力士の食事は80%近くを炭水化物が占め、脂質はたったの9%しか摂取していなかった。

この研究は示唆的で、多くのことを語っている。
「いかに太らないか」を考えて食事している人が多いこの現代社会で、力士は例外的に、いかに太るか、いかに体を大きくするかを考えて食事している。
そしてその力士の食事は、上記の研究が示すように、高炭水化物・低脂質食である。
ただし、炭水化物が多ければ多いほどいいのかというとそうではなく、実力上位の力士の食事は下位力士よりも炭水化物が少なく、脂質が多かった。
やせたい人にとって、この研究は非常に参考になるだろう。
つまり、やせるためには、力士の食事スタイルの逆(低炭水化物・高脂質食)をいけばいいわけだ。

さらにこの研究では、力士の血液データや慢性疾患罹患率も調査している。
力士の血中の中性脂肪、リン脂質、尿酸、総タンパクは、健康男性と比べて、いずれも有意に高かった。
また、力士の糖尿病、痛風、高血圧の発生率は健康男性と比べて、それぞれ5.2%、6.3%、8.3%高かった。
体重は、皮下脂肪厚、収縮期血圧、総コレステロール、尿酸と有意に相関していた。
体重、尿酸を独立した変数として重回帰分析で処理したところ、肥満、高脂血症、高尿酸血症は、主に高カロリー(炭水化物主体)の食事が原因だと考えられる。

力士は体を作るために、高炭水化物・低脂質食をとっている。
この食事スタイルは、現役の力士生活が続く限り、変わることはないだろう。
しかしこれは力士の体に大きな負担を強いるもので、その結果が、上記のように、各種疾患の増加に反映されている。
ここにも健康へのヒントがある。
高炭水化物・低脂肪食が、糖尿病、痛風、高血圧のリスク因子になっているのだから、逆を心がけるといい。

近年、糖質制限という言葉は、医療関係者だけではなく、一般の人にもずいぶん浸透してきたが、すでに1976年の研究でその有効性が示唆されていたということだ。
ただし、やりすぎはご用心。
「糖質が諸悪の根源だったのか!」とばかりに、一切の糖質を断つなど、ストイックにやりすぎる人がいる。
それはそれで、また別の弊害があることが指摘されているので、何事もほどほどにね。

参考
“Good Calories Bad Calories” (Gary Taubes著)