インターネットのおかげで、簡単に情報にアクセスできるようになった。
ふと耳にした知らない言葉も、検索するだけでそれが何かすぐにわかるし、何かを勉強したいと思えば、youtubeで世界的に有名な学者の授業を受けることさえできる。しかもタダで。
さらに、英語が分かるなら、アクセスできる情報量はもっと多い。
ハーバード大学とか、オンラインで授業を聴講できるところもある。
世界最高の知性さえ、自宅で簡単に手に入るんだ。すごい時代だよね。

患者は、自分の病気を何とかしたいと思って必死だから、当然ネットを検索している。
どういう病気にかかっているのか?治療法は?副作用は?
みんな調べて、知っている。
もはや知識は医者だけのものじゃないんだ。
しかも科学の進歩が早いから、付け加わっていく知識は膨大で、日々アップデートされている。
新たに勉強しないで昔の知識でやっている医者は、患者の知識に太刀打ちできない時代が来るだろう。
というか、もうすでに来ている。
「甘いものがなかなかやめられなくて」という主訴で来院した患者に、ある内科の先生、「健康管理に対する自覚が乏しいんだよ。意識の問題だね」で片付けようとした。
「はい。確かに精神的な一面もあるかと思います。ただ、自分としては、もっと具体的なアドバイスが欲しいと思って来院しました。
たとえば糖質の過剰摂取により、腸内細菌叢のなかでも特にカンジダやSaccharomyces cerevisiaeの異常増殖が起こる、とネットで読みました。
こうなると、そうした悪玉菌のせいで腸の透過性が亢進してリーキーガット状態になり、結果、菌体成分が血中に漏出して炎症が惹起される、っていうんですね。
で、その炎症を鎮めようとして副腎から過剰のコルチゾルが出て、副腎疲労を起こし、そのせいでますます糖質が欲しくなるという悪循環が起こる可能性があるらしいです。
だとすれば、どうでしょう。この悪循環を断つために、何か具体的に行うべき医学的な対処はありますか」
内科領域の話題ではあるが、リーキーガットがどうのこうのとか、医学部で習わなかったものだから、そんな話は知らない。先生、返す言葉がなかった。
ただ、同業者としてこの先生の弁護をするならば、こういう患者対医者の知識合戦は、患者に分があるのはある意味当然だとも言える。
医者(特に内科医)はスペシャリティを持つ一方で、同時にジェネラリストとして一通りの病気に通じている必要があるけれど、患者は自分の病気についてだけ徹底的に詳しいわけだから、その一点の知識量では医者が患者に負けても不思議じゃない。
しかしまぁ、そういう時代なんだ。
情報は誰にでも公平に開かれていて、勉強する人は医者の知識をも簡単に上回れる時代。

同時に、定説がバンバン覆される時代でもある。
僕も学校で、「疲労の原因は乳酸の蓄積によるものだ」と習った。
しかしこれ、まったくのウソだっていうんだな。
http://todai.tv/contents-list/2014FY/may-fes2014/2014-2
これ、東大の八田秀雄先生の講義。東大だからさぞハイレベルだろう、と肩肘張ることなくて、小学生にも届くぐらいの分かりやすい言葉で話してくれている。
こういう授業を誰でも見られるっていうのが、ネット時代の本当にありがたいところだと思う。
乳酸は疲労の原因ではない、という説は実は大昔からあったんだけど、ヒル(ノーベル賞受賞者)の唱えた乳酸悪玉説が学会のスタンダードになってしまったせいで、延々無視され続けることになった。
実際にはむしろ逆で、乳酸を投与したマウスは他のマウスより高い運動パフォーマンスを発揮するぐらいなんだけどね。
疲労感という訴えは臨床で極めてコモンで、その理屈の説明には、ほら、高校で生物を習った人なら覚えているでしょう、解糖系、TCAサイクル、ミトコンドリアの電子伝達系、あの図を持ち出して説明する。
「ミトコンドリアが元気がないから電子伝達系が渋滞してて、エネルギー産生がうまくいってないんですね。で、解糖系のここで乳酸がたまって、疲労の原因になってるんですね」なんて説明するんだけど、あれ、全部ウソだったってことだ。
知識のアップデートを常にしていかないといけないのは僕も同じだよ。
みなさんも一緒に勉強していきましょう。