「どこのラーメン屋も化学調味料てんこ盛りだって?ちょっと待ってくれ、それは違う。少なくとも、俺はその反例を知っている。
もう10年以上前のことだが、ラーメン屋でバイトしていたことがある。
2年以上そこで働いて、豚骨ラーメンのダシのとり方から、醤油ラーメンの作り方まで、いろんなことを現場で見てきた俺が断言するが、少なくともそこの店では化学調味料なんて使っていなかった。
そもそもそこの店長は、フランス料理を勉強してきた人で、流れ流れてラーメン屋を開業することになったという、ちょっと変わった経歴の人だった。
ダシやソースには強いこだわりを持っていたから、味の素のような「魔法の粉」を入れて、はい、味付け完了、みたいな手抜き料理は、絶対にプライドが許さない人だった。
なるほど、365日ラーメンを食べ続けてブログを書いている『ラーメン評論家』なる人物が、みんな早死にしていることは俺も聞いたことがある。
仮に化学調味料が使われていなくても、麺はおそらくアメリカ産の遺伝子組み換え小麦だろうし、麺に含まれているかんすいが体に悪いと言われていることも知っている。
しかし、こと味付けに関しては、俺の勤めていたラーメン屋の店長は、一切の妥協をしなかった。
化学調味料に頼らないで豚骨ラーメンを作ることが、どれほど大変なことか、想像したことがあるだろうか?
まず、朝の6時に仕込みを始める。豚骨(ゲンコツ)を、大鍋に入れてぐつぐつと30分ほど煮る。これだけでダシが出る?とんでもない。まだまだこれからだよ。
30分ほど煮たらお湯を捨て、ゲンコツを水にさらす。そしてハンマーで砕く。再び大鍋に入れて、強火で4時間、しっかり煮る。水が減ってきたら、足してやる。
放置していると底が焦げ付くから、時々かき混ぜる。そのときの豚のにおいと湯気の熱気がものすごくてね、体に豚の脂のにおいがしみつくし、全身は汗だくになる。
骨髄が溶けてなくなるぐらいになると、ようやくおいしいダシの完成だ。これで作ったラーメンのうまいことといったら、他に比べようがない。

豚骨ラーメンを作るというのは、本来これぐらい大変なことであるはずなんだ。
でも、世の中に豚骨ラーメンを食わせる店は山ほどあるが、本当に豚骨から煮出してダシをとっている店がどれほどあるか。今やほとんど皆無かもしれない。
それは化学調味料の進歩のおかげだよ。ここ10年ほどで、やたらとラーメン屋の数が増えたと思わないか。
それは、料理人が、ダシをとる手間から解放されて、ラーメン屋を開業する敷居が低くなったからだ。
朝から何時間もかけて仕込むなんていう手間をかけないで、魔法の粉を使って一瞬で同じような味を再現できるとしたら、どこの誰がわざわざそんな苦労をするだろう。
ほとんどの客は、化学調味料を使おうが本物の豚骨スープを使おうが、違いの分からない味ボケなんだ。苦労するだけムダというものだ。
実際、僕がかつて勤務していたラーメン屋も、今は豚骨ラーメンをやっていない。
今にして思えばすごいのは、あれだけ苦労して作っていた豚骨ラーメン、あの店では650円で出していた。
作る苦労を知っている俺からすれば、破格だよ。倍の1300円とってもいいぐらいだと思う。
でも店長、「ラーメンは大衆食で、安く食べられるべきだ」っていう妙なこだわりがあって、値上げすることを自分に許せなかった。
店長ももう年だし、バイトの子も豚骨ラーメンを作る重労働を嫌がるし、かといって、店長は職人気質の人だから、化学調味料を使った「豚骨」風ラーメンを出す気はない。
それで豚骨ラーメンから一切手を引いてしまった。
味噌ラーメンや醤油ラーメンは今もやっているけどね。あごや昆布からとったダシを使ってるよ」

今日、高砂市に行く車中、ごうちゃんから聞いた話。
ラーメンというのは、本来作るのにもっと時間と手間のかかる料理だった、という。化学調味料の技術が進歩するまでは。
問題なのは、化学調味料の有害性を、ほとんど誰も知らないことだと思う。ラーメン屋の常連客のなかに、即席のおいしさと引き換えに健康を犠牲にしているんだという意識のある人はあまりいないだろう。
知っててなおラーメンを食べ続けるのは、その人の生き方の問題だからそれでいいとして、少なくとも義務教育のどこかの段階で、化学調味料の有害性はきっちり教えておくべきだと思うんだよなぁ。

今日の昼は、ものすごく久しぶり(多分、数年ぶりとか)に、ラーメンを食べた。
文脈的には、ごうちゃんのかつて勤めていたラーメン屋に行きたかったところだけど、いろいろな都合で、化学調味料てんこ盛りの、いわゆる普通のラーメン屋に行った。
食べたのが昼12時。で、今、この文章を書いているのが18時なんだけど、いまだにお腹にラーメンが残ってて、胃がムッとしている。
「ごうちゃん、お腹、まだムッとしてない?」
「うん、してる。全然食欲ない」
と言いながらも、ごうちゃん、参加したくもない会社の飲み会に向かっていった。サラリーマンはつらいのう。