きのう、ラジオDJの人と一緒に飲む機会があった。
全国的な知名度はないかもしれないけど、関西ではそれなりに知られた人だ。(浜村淳とかじゃないよ笑)。
ちなみに、ごうちゃんは彼のこと知らなかった。Kiss FMとか聞かないから、しょうがないよね。
ただ僕にしても彼の声をラジオで何度か聞いたことがあるぐらいで、どんな人かは全然知らなかった。
明石駅近辺を一緒に歩いていると、彼を知る人が次々に声をかけてきて、握手や写真を求められていた。僕らはその度に立ち止まらなくてはいけなかった。なるほど、有名人ってこういうことかぁ。

年に何回か来るというその人行きつけの立ち飲み居酒屋で、姉、ごうちゃん、僕と乾杯をした。
ラジオDJと飲む機会なんて、人生でそんなにないだろう。
好奇心からいろいろな質問をしたんだけど、丁寧に答えてくれた。

彼の話を聞きながら、僕は不思議な感覚になった。話の内容よりむしろ、彼の声を聞きいってしまう。こんなにきれいな、澄んだ声があるのか。
ただ、彼、オフの声だったと思う。長くDJの仕事をしている人だから、自分の声の一番魅力的なところ、聞かせ方、力の入れ方は当然わかっているんだけど、仕事中ではないから、素の声に近い、飾らない感じで話していたと思う。それでも、いい声だなって思った。

「いやぁ、お医者さんですか、憧れます。もしこういう仕事をしていなければ、医者とか歯医者になりたかったなぁ。一人一人と向き合う仕事って、すばらしい。自分のやったことの成果が、ダイレクトにわかる。相手の感謝や感情を、直接的に感じることができる。きっとやりがいがあるよね。
俺の仕事は真逆なんです。電波を通じて不特定多数の人に話しかける。これといってダイレクトな反応はない。ふんわりとした、モヤモヤしたものを相手にしているようで、がっしりとした手ごたえを感じにくい仕事なんだな。
その点、医者はうらやましいです。」
いえ、とんでもない。その声は、才能だと思います。才能を生かした、自分だけができる仕事のほうが断然すばらしいです。僕の仕事なんて、代えはいくらでもききますから笑
そういう声で人生を生きていくって、どんな感じがするものでしょうか。
中学生の頃、国語の授業で詩を朗読し、それをラジカセに録音して、読み方を工夫しましょう、というのがありました。僕は自分の声を聞いて、耳を疑いました。これは誰の声なんだ、と。いや間違いなくお前の声じゃないかと級友が言うので、認めざるを得ない。山下さんはそういう経験ってないでしょう?
「声の仕事をさせてもらっているのは、確かにありがたいことだと思う。親に感謝だね。
自分の声なんて別段意識したこともなかったんだけど、中学生のとき、変声期を終えた頃かな。友達の家に電話したら、友達のお母さんが出た。本人はいないということで、電話を切ろうとしたんだけど、そのお母さん、『山下くん、もっとお話ししましょうよ』って。1時間ぐらいしゃべった頃、ちょうど友人が帰ってきて、そいつと電話をかわるときに、『ごめんなさいね。長電話になって。とてもいい声だったから、もっと聞きたくなっちゃって』
声をほめられたのはそのときが初めてだった」

異性の声に魅力を感じるタイプの人がいるものだ。アニメオタクの人が、声優が好きだったりするみたいに。
中学生のときに友人のお母さんから声をほめられて以後も、多くの人から声の魅力を認められ、女性からはさぞモテたに違いない。しかし、そのあたりに水を向けても、彼、笑って何も語らなかった。さすが本当にモテる人は、女性経験の多さを吹聴したりしない。

「将来的には声を使った仕事ができれば、という思いは漠然とあったけど、一直線に今の仕事についたわけじゃない。学生時代にはバーテンダー、塾講師、引越し屋、ディスコDJとかいろいろやったし、学校を卒業してからも複数の職を転々とした。会社からひどい目にあわされたこともあれば、こちらのほうで会社に迷惑をかけたこともある。特にDJになる直前に勤めていた某企業には悪いことをしたと思う。
挫折や失敗は数え切れない。でもそういう経験を通じて、鍛えられて、人生の何たるかが少しはわかったと思う。
ムダな回り道じゃない。必要な人生経験だったよ。
学校を卒業してまっすぐにラジオDJになっていたとしたら、今の自分はなかったと思う。
FMラジオのDJって、どんな仕事だと思う?
好きな音楽流してりゃそれでおしまい?いや、そんな簡単な仕事じゃないんだよ。
一人で漫談みたいなこともできなきゃいけないし、ゲストが来たときにはおもてなしができないといけない。リスナーからの手紙に答えたり、リスナーが番組にどういうものを求めているのか、そのあたりの要望にも敏感でないといけない。
要するにね、DJってトータルとしての人間性が問われる仕事なんだ。
声がよければ確かに有利だよ。でも長くやっていこうと思ったら、それだけでは絶対にだめだ。声がいいだけのDJなら俺よりたくさんいるよ。そういうDJが三日で飽きられて、聴取率が下がって、すぐさま番組打ち切りになる例は山ほど見てきたからね。
このあたりの呼吸は異性とのお付き合いと似ている。容姿端麗であることは異性を引きつける上でプラスだろうけど、内容が空っぽな人とは長くお付き合いなんてできないだろう。それと同じことだよ。リスナーはよく見ている。付け焼き刃の人間力では、すぐに底を見抜かれてしまうものだよ」

他にも、ラジオ番組の裏側についても教えてくれた。ここには書けないけど。
酒量が上がるにつれ、オンエアではでは絶対に言わない卑猥な語彙がポツポツと増え始め、そんな下品な言葉を言う声さえ美しいというミスマッチが、僕にはすごくおもしろく感じられた。
僕もごうちゃんも飲める口だから、酒席は段々激しさを増した。DJさんとごうちゃんがケンカをする。僕がその間に割って入って、仲裁する。すると、二人が僕に殴りかかる。でもその後、DJさんとごうちゃんが仲直りのチューをする。「先生もごめんね」って、僕にもチューする。
こういう大立ち回りが何度かあって、最終的ににDJさん、ごうちゃんとチューすること6回。僕とは3回。「よっしゃ、あつしに勝った!」ってごうちゃんが言うから、「くそ、負けた!」って悔しがってみせた。
うむ、いい感じにアホになれた夜だった。