フェニルアラニン→チロシン→ドーパ→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン
という流れがあって、さらにドーパミン以下のカテコラミンは、酸化されると、以下のようになる。
ドーパミン→ドーパノクロム
ノルアドレナリン→ノルアドレノクロム
アドレナリン→アドレノクロム
この○○クロムには催幻覚作用がある。
統合失調症の幻覚・妄想は、脳内でこれらの物質が産生されていることによるのではないか。これがホッファーの提唱した『アドレノクロム仮説』である。
ホッファーがこの説をひらめいたきっかけは、「幻覚を見るぜんそく患者」の話である。
現在では薬局に置いてある薬は、使用期限に配慮して古くなった薬は患者に出さないようにしているはずだが、当時はそういう管理がけっこうデタラメで、使用期限を大幅に過ぎた薬が処方されることもザラにあった。古くなったぜんそくの治療薬(アドレナリン含有製剤)を服用した患者が妙な幻覚を体験する、というのは、医者界隈では知られた話だった。ホッファーはここから着想を得た。「アドレナリンの酸化物こそ、幻覚物質ではないか。だとすれば、カテコラミンの酸化を防ぐことで統合失調症を改善できるのではないか」
もちろん近年の研究では、カテコラミンだけでなく、グルタミン酸、GABA(γアミノ酪酸)、アセチルコリン、セロトニンといった脳内物質の変化も、統合失調症の病理に関わっていることがわかっているが、ホッファーの着想は大筋で正しかった。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4032934/

上記のカスケードを見て、素朴に思った。そもそも、フェニルアラニンやチロシンを含有する食材の摂取を控えれば統合失調症が軽快することはないだろうか。
いや、しかしこれは違うな。
たとえば牛乳、肉、卵にはフェニルアラニンが多く含まれているが、これらの多食が統合失調症を増悪させることは考えにくい(ただ、牛乳の多飲は危うい印象だけど)。
チロシンはチーズや納豆に多く含まれるが、これらを多食しても、やはり特に問題は起こらないだろう。
研究によると、チロシンのサプリの大量摂取によって、なるほど確かに、ドーパミンやノルアドレナリンの血中濃度が上がったが、特に気分に問題はなかったという。

前回のブログで、キノコチロシナーゼ(mushroom tyrosinase)という言葉が出てきた。これは研究試薬としてよく用いられるものだけど、一般にキノコにはチロシナーゼが多いのだろうか。チロシナーゼを多く含む食品の摂取によって、ドーパミンの産生が亢進することはないか。キノコにチロシナーゼが多く含まれているとすると、キノコの多食で統合失調症が悪化する可能性は?
しかしこれは直感に反する。キノコといえばβグルカンが豊富で健康によいイメージである。実際、この線で調べてみたところ、ある種のキノコ(ヤマブシタケ)には、統合失調症を改善させる作用がある、との論文を見つけた。

『ヤマブシタケの生物活性物質により統合失調症が改善した』
https://www.longdom.org/open-access/recovery-from-schizophrenia-with-bioactive-substances-in-hericium-erinaceum-2469-9837-S1-003.pdf
著者らはヤマブシタケに抗認知症作用があることについては過去に報告していた。その機序としては、神経成長因子の誘導、細胞毒性物質(アミロイドβ)の抑制、酸化ストレスおよび小胞体ストレスによる神経細胞死の予防が挙げられる。
以下、ヤマブシタケが著効した統合失調症患者の症例報告である。
『54歳男性。
18歳で統合失調症の診断を受け、クロールプロマジン、ハロペリドールの服用を開始した。
20代は幻聴と妄想から、精神科への通院、入退院を繰り返した。
薬の副作用がひどく、唾液過多、発汗、頭痛、アカシジアの症状に悩まされた。
33歳時、陰性症状(無為自閉)が出現し、さらに水中毒(水の病的多飲による)も見られるようになった。
49歳時、幻聴、罪業妄想が悪化し、入院。退院後、薬の副作用の不快さから、服用している薬をすべてやめたところ、悪性症候群を発症した。
52歳時、2週に一度リスペリドン(37.5mg)の注射を開始。
9月8日クエチアピン200mgと眠前フルニトラゼパムを開始。症状軽快し、11月19日退院。
退院後、毎日午前11時頃に起きていたが、起きている間はずっと眠気が残存し、無気力のまま過ごした。』


こういう症例は、精神科に山ほど溢れている。統合失調症の、極めてありふれた経過だ。
しかし論文を読んでいて、精神科の勤務医時代の記憶が蘇って、胸が痛くなった。
治るわけもない薬を出さなきゃいけないつらさ。でもつらいのは僕だけじゃない。患者もつらい。副作用がきつくて、できれば薬をやめたい。でも薬をやめると、ひどい副作用が襲ってくる。患者は薬の罠にかかって、がんじがらめで動けない。
もう、一生飲み続けるしかない。
そんなときに上記患者、ヤマブシタケを飲み始めた。

『12月2日、アミロバン3399(ヤマブシタケ製剤)を1日6錠開始。
2週間後の12月16日、日中の眠気が著明に改善し、一日を活動的に過ごせるようになった。陰性症状がなくなった。彼の母は息子の軽快に驚いた。「この35年間、こんなに元気なこの子を見たことがない」と。
アミロバン3399を開始して1年後、服用している薬は、ミルタザピン(45mg)とゾピテン(5mg)である。
以後4年間、好調を維持している。』

ヤマブシタケ製剤という形でしっかり商品化されているところに、商売っ気を感じるが、試してみる価値はあると思う。サプリ(lion’s mane) として誰でも買えるから、興味のある人はネットで注文してみるといい。

しかし一番いいのは、普通にヤマブシタケを食べることじゃないかな。ヤマブシタケは、マツタケみたいにレアで貴重なキノコではない。シイタケとかマイタケ、シメジなんかと同じように、養殖栽培が可能で、スーパーで普通に売っている。
鍋物の季節だから、シイタケやマイタケなんかと一緒に、具材として使ってみるのもよさそうだ。