多細胞生物は単細胞の真核生物から進化したが、最初の多細胞生物は海綿動物などの二胚葉の生物である。
二胚葉というのは皮膚になる外胚葉と腸になる内胚葉のことだから、二胚葉生物というと皮膚と腸管しかないように思われるが、実際には、外胚葉と内胚葉のすきまに多くのマクロファージが存在し、生体防御を担っている。
三胚葉生物になると、これらの二胚葉に中胚葉が加わるが、これはマクロファージが進化したものである。
つまり、二胚葉生物といえども、すでに三つの構成要素から成り立っているということだ。
マクロファージは、体の中の「単細胞生物」そのものだ。そしてこの単細胞生物は非常に有能で、呼吸、えさ取り行動、消化、代謝、異物認識、生体防御など、一つの細胞ですべてを行なっている。買い物、料理、洗濯、子守など、何でもできるお母さんのようだ。
単細胞生物から多細胞生物に進化するにつれ、多細胞生物時代の名残をそのまま残したマクロファージから一部の特徴を強調する形で、様々な細胞群が生じた。
マクロファージ時代の貪食能を強調したのが顆粒球、接着分子を多様化し異物認識(免疫機能)を高めたのがリンパ球、傷をふさぐ性質に特化したのが血小板、酸素の運搬機能を洗練させたのが赤血球、組織を修復することを専門にしたのが線維細胞、収縮する細胞内骨格を発達させたのが筋細胞、血球の入れ物になったのが体腔上皮や血管内皮細胞である。
学校で習うのはせいぜい、「肝臓のクッパー細胞、脳のグリア細胞、肺の肺胞マクロファージ、腎臓のメサンギウム細胞、骨の破骨細胞、皮膚のランゲルハンス細胞はマクロファージが分化したもの」程度だが、決してそれだけではない。
二胚葉生物と三胚葉生物の違いは中胚葉の有無だが、「中胚葉に由来する細胞群はすべてマクロファージ由来である」と言った方が真相に近いだろう。

体の防御は主に顆粒球とリンパ球によって行われるが、これらはマクロファージが進化したものだ。
マクロファージはアドレナリン受容体、アセチルコリン受容体の両方を持ち、交感神経、副交感神経、いずれの自律神経の活性化でも働くようになっている。
マクロファージは交感神経緊張のときには分泌現象を抑制し、分化や増殖、遊走(炎症部位への移動)を行う。逆に副交感神経刺激によって、貪食や分泌を行う。
食事と排泄が、個体レベルでも細胞レベルでも副交感神経支配になっているというのは興味深いと思う。
ここには、単細胞生物から多細胞生物に進化してきた歴史がからんでいる。
多細胞生物の特徴は分業制だ。複数の細胞群が寄り集まって組織を構成し、それらが機能分担しているが、それぞれが好き勝手に動いているわけではない。
生物にとって必要なものは二つ、えさ取り行動と消化であるが、各組織はその目的に合わせて協調して動くようになっている。
酸素を取り込んで活動し、エネルギーを消費する働きを交感神経系が同調して行い、えさを吸収したり排泄したりしてエネルギーを蓄積する働きを副交感神経が同調して行なっている。
分業し、かつ、協調する。これが生物の歩んできた進化の道筋だった。
僕はここに、人間社会の進化そのものを見るような気がして、ミクロとマクロの相応を実に不思議に思う。
昔、NHKで『驚異の小宇宙・人体 THE UNIVERSE WITHIN』 という番組をやっていた。もう30年ほど前の番組だから、内容的には当然古びている。ただ、この番組のコンセプト、「体の中にこそ、宇宙があるのだ」というテーマは決して古びていない。
科学が解き明かす人体の精妙さを目の前にして、僕らは、ただ、感嘆の息をもらす。
そして、人為の卑小さを知る。
内なる宇宙の摂理にのっとった医療を実践したい、と常々思っているのだけれど、果たして今の自分にそれができているだろうか。