植物は日光により光合成を行い、エネルギーを産生する。
動物はそうした植物を食べて、エネルギーを得る。いわば、間接的に太陽の恵みを食べている、という格好だ。
では動物にとって、日光には直接的な意味がないのか、といえば、全然そんなことはない。
人間を含め哺乳類も鳥類も爬虫類も両生類も、皆、直接的に太陽の恩恵にあずかっている。
その機序の一つは、ビタミンD3を介したものだ。

ビタミンD3は別名「日光ビタミン」とも言われるように、日の光に当たった皮膚で(ケモノでは体毛でも)生成される。
もう少し詳しくいうと、日光曝露によりコレステロールが7-デヒドロコレステロールに転換され、これが肝臓と腎臓で代謝を受けて、活性型のビタミンD3になる。
だから肝臓や腎臓の調子が悪いと活性型ビタミンD3の産生が障害される可能性があるんだけど、今はそういう難しいことはいい。
とりあえず、「お日さんを浴びた肌でビタミンD3が作られる」と理解しておこう。

生化学的には、D3はビタミンというよりはむしろホルモンだ。
コレステロールを材料にして生成されるプロセスが他のホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、コルチゾールなど)と共通しているし、分子式もよく似ている。
細胞の核にある核内受容体に作用して遺伝子発現に影響するところもホルモンと同じ。
そのあたりを踏まえれば、D3は「日光ホルモン」と呼んだほうが適切かもしれない。

病気との関連で言えば、血中D3濃度の低下と相関が見られる病気は多い。
多すぎて、ほとんどすべての病気ではないかと思えるほどだ。
あえて列挙すると、、、
代謝疾患(高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症、痛風、メタボリック症候群、頭痛、めまい、低血糖症、性腺機能低下症)
精神疾患(うつ病、統合失調症、双極性障害、強迫性障害、自閉症、学習障害、過食症、アルコール依存症)
消化器疾患(胃炎、胃潰瘍、過敏性腸症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎)
呼吸器疾患(風邪、ぜんそく、結核、COPD)
筋骨格疾患(関節炎、ガングリオン、子供の成長痛、骨痛、足底筋膜炎、くる病、骨軟化症、骨棘、骨粗鬆症)
循環器疾患(心不全、心肥大、脳卒中、静脈瘤)
腎・泌尿器疾患(腎臓病、尿失禁)
皮膚疾患(水虫、爪水虫、ニキビ、フケ、乾癬、アトピー性皮膚炎、光線性角化症、日焼け、皮下嚢胞、古傷)
眼疾患(黄斑変性、近視・遠視、緑内障)
免疫系疾患(アレルギー、リウマチ、SLE、強皮症、1型糖尿病)
神経疾患(パーキンソン病、ALS、多発性硬化症、認知症)
産婦人科系疾患(月経前症候群、早産・死産、子癇、妊娠糖尿病)
その他、虫歯、各種の癌(特に前立腺癌、乳癌、直腸癌、白血病、膵臓癌など)、各種の感染症

ビタミンD3の欠乏と上記の病気がどのように関連しているのか。
この関連性を説明する仮説がある。以下に紹介しよう。

生命が発生してン十億年。生物は太陽の恩恵を巧みに利用する形で進化してきた。
だから、日光が生存に悪影響を及ぼすことは、本来あまりないはずなんだ(皮膚癌のリスクは煽られすぎだと思う)。
むしろ生物にとっての課題は、日光の乏しさに対していかに対処していくか、ということだった。
夏はいい。あふれる太陽と萌える緑。豊富な木の実や果実。
生い茂る植物を草食動物が食べ、その草食動物を肉食動物が食べる。
長時間にわたり惜しみなく注ぐ日光と豊富な食材が、生存を保証してくれている。
しかし冬になると、どうなるか。
短い日照時間と厳しい寒さで、植物は育たない。捕食行動をしようにも、そもそも食糧が存在しない。
困った。食えなくては、死んでしまう。どうすればいいだろうか。
そこで彼らは、冬眠という方法を編み出した。
厳しい冬の間は、下手に動くのは得策ではない。また温かい春が来るまで、いっそ眠り通してやろう。
クマ、リス、ハリネズミ、ハムスター、コウモリ、蛇、とかげ、亀、カエル、ワニ、フナ、メダカ、かぶとむし、てんとう虫など、多くの生物がこの戦略を採用した。
そして見事、厳しい冬を乗り切ることに成功した。

ところで、人間はどうだろうか。
温暖な赤道近辺に安住することをよしとせず、高緯度地域へ北上あるいは南下していった人間は、冬の寒さをどのように乗り切ったのだろうか。
ホモ・サピエンス(頭のいい人)を自称する人間である。動物の毛皮を着て、家を作り、火を使うなど、万物の霊長として、知恵を使って冬をしのいできた。
しかし人間も動物である。冬眠という越冬手段は、人間もあえてその気になれば、できなくもなかった。
たとえばこんな報告がある。
https://uk.reuters.com/article/uk-sweden-snow/swedish-man-survives-for-months-in-snowed-in-car-idUKTRE81H0JX20120218
(冬の二か月間、飲まず食わずのまま低体温(約31度)状態で過ごした男性)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/6197339.stm
(23日間飲まず食わずのまま低体温(約22度)状態で過ごした男性)
人間も他の動物と違わず、ある種の条件下では冬眠状態になることで急場をしのぐ。そういう本能がいまだに残っているようなんだ。
活動状態と冬眠状態、その切り替えを促すものは何だろう。
そのスイッチの一つこそ、日光ホルモン、ビタミンD3ではないか、という説がある。

夏、豊富な日光のもとでは、血中のD3濃度は高い。
D3は体にメッセージを送っている。
「食べ物はそこらへんにいくらでもあるよ」「夜は短く、昼は長い。日中は活動的に行きましょう」
だから、代謝が活発になる。エネルギーの消費モードだ。飢えを恐れる必要がないから、食欲はそんなにない。
一方、冬になるにつれて、日照時間が減少する。同時に、皮膚で合成されるビタミンD3が減少する。
これが、冬の到来を知らせるある種のシグナルになる。
「もうすぐ飢えと寒さの季節が来るよ」「エネルギーの無駄遣いは厳禁だ」「しっかり食べて、脂肪を蓄えておけ」
代謝を極力落とし、体を休眠へ誘う。エネルギーの節約モードだ。
食欲が亢進して、同時に活動量も低下することで、能率よく脂肪がたまる。

この「冬眠仮説」によって、上記に挙げたD3低下との関連が指摘されている疾患のほとんどがクリアに説明できる。
たとえば、うつ病というのは冬眠そのものだ。
D3低下は「活動量を下げろ。ムダにエネルギーを使うな」という警告なんだから、無気力で何をする気も起きず、ずっとウトウト布団で過ごしているというのは、実に合目的的な行動だと言える。

高脂血症は皮下脂肪のみならず、血中の脂質をも高めておこうとする反応だし、糖尿病も血中にグルコースとしてエネルギーを蓄えておこうとする反応だ。
また、血中のグルコースが高いこと、および血圧が高いことは、寒さから身を守るための適応でもある。
「水溶液の濃度が濃いほど、圧力が高いほど、凝固点が低下する」というのは理科の授業で習っただろう。
冬眠中に血液が凍っては一大事だから、高血糖、高血圧は、厳しい冬をしのぐための理にかなっている(そういえば、車のラジエーターの不凍液はエチレングリコールで、なめると甘いらしい)。

関節炎は冬に増悪することが多い。
D3低下による炎症(および痛み)の悪化は、「狩猟のために遠出なんてしてる場合じゃないぞ、家でじっとしておけ」というメッセージだ。
不必要に過剰な行動への牽制になり、エネルギーの消耗を防ぐことができる。

風邪が夏より冬に多いのはなぜか。
一般的な答えとしては、「空気が乾燥しているから」ということになっている。
そういう側面もあるかもしれないが、D3濃度の低下の影響は無視できないはずだ。
免疫賦活作用のあるD3が低下しているわけだから風邪をひきやすくなるのは当然だし、また、疲労感などの身体症状のため、活動量が低下する。
やはり、「家で寝とけ」ということだ。

ここまで説明すれば、D3のサプリメントがなぜ過食症やアルコール依存症(広義の『糖質欲求亢進症』)を改善する一助になるのか、もうお分かりだろう。
過食症の患者で、タンパク質(肉や魚)をドカ食いする人を見たことがない。例外なく、炭水化物(特に糖質)をむさぼり食っている。
D3不足が「冬が来るぞ。しっかり栄養を蓄えろ」というメッセージを送っているのだから、その声に従って、能率よく体重を増やせるものを食べているのだ。

僕がD3を勧めたある患者が、言っていた。
「先生、ビタミンD、すごい効いてます。食欲が落ちました。でもまったく食べれない、っていうわけじゃないです。ただ、自然と、『もういいかな』って感じになります。
あと、びっくりしたのが、私、昔左膝を痛めたことがあって、それ以来、走ることができなくなってたんだけど、その痛みがビタミンDを飲みだして数日で、不思議と消えました。
ビタミンDを始める以外他に何もしてないから、きっとこの効果だと思うんです」
その通り。D3には古傷を修復する作用もある。
これも「冬眠仮説」で説明がつく。
D3低下状態において、体は周囲を「冬」だと認識して、エネルギー節約モードになっている。そういう状態でケガをするとどうなるか。
組織の損傷に対して、完全に治癒させようとはしない。とりあえず、生存していくのに差し支えのない程度の突貫工事で、状況をやりくりしようとする。
食糧事情の切迫した冬なんだから、不測の事態に備えてエネルギーをケチらないといけない。根本からの修復は、またあたたかい季節が来てからで(血中D3濃度が上がってからで)いいだろう。
体はそういうふうに考えている。
しかし実際にあたたかい季節が来ても、現代日本に生きる若年女性はほとんど全員が「太陽はお肌の大敵」だと思っていて、日光に極力当たるまいとする。結果、血中D3濃度は「冬」のまま。それで古傷が延々治らない。
ところがD3を摂り始めたことで、ようやくこの患者に「春」が来た。
体もようやく重い腰を上げ、古傷の治療を開始し始めた、というわけだ。

傷がきれいに治らず、色素沈着してあとが残る、という人はいませんか?
そういう人の体は、乏しいD3濃度のせいで「冬」の節約モードにあるのかもしれない。
最近の医学は紫外線によるシミ、しわ、皮膚癌の危険性を言い過ぎる。
この説を真に受けて、太陽を悪魔のごとく忌避し、日焼け止めを塗りまくっている女性は多い。そのせいで血中D3濃度が低下して、女性たちは様々な病気にかかりやすくなっている。
皮膚科医の罪はとてつもなく大きいと思う。

D3をサプリとして摂るなら、どれくらい摂ればいいのか。
一般に言われる推奨量、600 IU程度でいいのか。もっと摂るべきか。
脂溶性ビタミンで摂り過ぎはよくないというが、大丈夫か。

長い文章になってしまった。
また後日に稿を改めます。

参考”The Miraculous Results of Vitamin D3″(Jeff Bowles著)