動物園で飼育されているネコ科動物(ライオン、トラ、ヒョウなど)は、つがいで飼っても繁殖しない。
なぜだろう。野生では普通に繁殖するのに、飼育下ではなぜ繁殖しないのだろう。
欧米の動物園関係者の誰しもがこの問題に悩んでいた。
ライオンは百獣の王、動物園の花形だ。病気や高齢で亡くなったり、動物園を新規開業するとなれば、次のライオンを補充しないといけない。
そうなれば、繁殖できないのだから、野生からわざわざ仕入れてこないといけない。
しかし野生のライオンをアフリカで生け捕りにし、ヨーロッパやアメリカまで運ぶのは、相当な手間と費用がかかる。
ネコ科動物をなんとか自前で繁殖できないものか。これは動物園関係者の長年の悲願だった。

ロンドン動物園に勤務するある動物研究者が、この問題に本気で取り組んだ。
なぜ飼育下では繁殖しないのか。狭いケージに閉じ込められ、思うように運動できないストレス、無数の人間の目にさらされるストレスなど、ストレスによる要因は大きいだろう。
しかしそれ以上に、給餌に問題があるのではないか、というのがこの研究者の直感だった。
そこでアフリカに向かい、野生のライオンの狩りの様子を詳細に調べた。
かみ殺されて横たわったシマウマに対して、ライオンはまず、腹部をかっさばく。そして最初に口にするのは、右側腹部の臓器、つまり肝臓である。
それからしばらく好みの臓器を選り分けつつ食べた後は、もう残りはいらない。食べ残しに砂をかけ、現場を去る。
この食べ残しは、ジャッカルやハイエナにとってのごちそうになる。
ライオンが現場を立ち去った後、研究者はジャッカルを追い払いつつ、すばやくシマウマの死体に駆け寄った。ライオンがどの臓器を好んで食べたかを調べるためである。
この研究こそが、世界中の動物園の歴史を変えた。つまり、ネコ科動物の繁殖に何が必要であるかを、解き明かすことになった。
動物園で飼育されているネコ科動物に、従来のように四肢の肉だけではなく、モツ(臓物)も与えるようにしたところ、見事、繁殖させることに成功した。
動物園で生まれた仔も、モツを与えることで適切に成長し、繁殖することがわかった。
この研究者のおかげで、ライオンの価格は大幅に低下し、動物園にライオンを提供することが比較的容易になった。
プライス博士はこの研究者から直接話を聞きながら、思った。
「なるほど、興味深い研究だ。しかし、我々に身近なネコを見ていても、同じことは観察されるようだ。
ネコが小鳥やネズミを殺す様子を観察するといい。ネコがまず食べるのは小動物のはらわたで、手足の筋肉を進んで食べることはないだろう。
彼らは本能で、何を食べるべきかを知っている」

研究者の話に触発されて、プライスはこんな実験をした。
身動きできぬよう固定したウサギのいるケージに、数匹のラットを入れる。ラットに餌は与えない。一晩たてばどうなるか。
哀れ、ウサギはラットにかじられることになる。プライスが注目したのは、ラットが特にウサギのどの部分を好んで食べたかである。
ラットは特に、ウサギの目と脳を食べ、血液を吸っていた。
この結果は、ラットがこれらの組織によって供給される栄養素を選り好んで食べていることを示していた。

動物は本能の声を聞くことができる。
しかし言葉を獲得した人間は、その知恵や理性が邪魔をして、もはや本能の声を聞くことができない。
でも赤ちゃんは別のようだ。かつて、こんな実験が行われた。
1920年代、ある小児科医が経営する孤児院で行われた実験。
対象は、離乳直後で、それまで食事をしたことのない赤ちゃん15人である。
子供は施設内で適切に育てられていたが、唯一風変わりなのが食事である。
食事の時間になると、子供たちには34品目の食事が供された。それぞれの食品は皿に盛りつけられており、いくつかのスプーンも用意された。
子供たちは幼すぎて何もわかっておらず、どれが食べ物かを理解する前であったため、皿やスプーンをかじる者さえあった。
飲み物は、水、牛乳、酸乳、オレンジジュース。野菜はビート、えんどう豆、人参、ほうれん草など。炭水化物は大麦、コーンミール、ライ麦パン。
たんぱく源として、内臓肉、鶏肉、牛肉、骨髄、脳、魚などが与えられた。
子供たちは、食べたいものを好きに選んで食べることができる。子供の食事の様子(食べたもの、残したもの)を保育士が詳細に記録した。
さて、子供に一番人気の食材は何か?
それは骨髄だった。脳もかなりの人気だった。
逆に不人気だったのは、野菜や果物である。
好き嫌いのままに食べさせては、栄養が偏ってしまうと思われるが、子供たちは健康に成長した。
この小児科医の研究により、本能的に求める食材さえあれば、子供はそれぞれの好みに従っていても、きちんと成長することが証明された形となった。
ただ、この研究は非常に強い反発を招いた。
人が栄養源として本能的に求めるものが、動物の骨髄や脳であるということは、人間の感情として受け入れ難いものがあったためだ。
この実験は1920年代に行われたもので、現在では人権の問題もあって、同様の実験を行うことはもはやできない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1626509/
子供が野菜を嫌うのは、至極生理にかなったことなのだろう。
無理に食べさせるのはよくないのかもしれない。

出生前および出生後の成長プロセスでビタミンAが重要な役割を果たしていることを示すデータは無数にある。
体の形成期にビタミンAが欠乏すると損傷を受ける組織の一つは、目である。
このため、ビタミンB1が脚気ビタミン、ビタミンCが壊血病ビタミンと呼ばれるのと同様に、ビタミンAは眼球乾燥症ビタミン、と呼ばれていたほどである。
このビタミンは特に目に貯蔵され、眼組織のビタミンA濃度は哺乳類でおおよそ一定である。
眼組織(網膜、色素上皮、脈絡膜)の抽出物をビタミンA欠乏ラットに投与すると、著明な治療効果を発揮する。
ビタミンAは生殖にも重要だ。
これは男女ともに言えることで、男性ではレチノールは精子の産生に不可欠で、女性ではビタミンAがエストロゲン、プロゲステロンなどの生殖に直接的にかかわるホルモンの産生にかかわっている。
ビタミンAが重度に欠乏している女性ではそもそも妊娠しないが、軽度に欠乏している女性では、胎盤剥離や産後の乳汁分泌量低下のリスクが高いことがわかっている。

不妊に悩むカップルは、食生活を見直してみませんか。
かつて動物園で飼われ繁殖しなかったライオンと同じ食生活になっているとすれば、いつまでも子供に恵まれないだろう。

参考
“Nutrition and Physical Degeneration”(Weston Price著)