グリナという健康食品がある。睡眠をサポートするグリシンという成分が含まれていて、不眠症のなかにはこれがよく効く人がいる。
ただこの商品の欠点は、値段が高いこと。でも実をいうと、主成分のグリシンに飲みやすさのために香料を加えただけの商品だから、お徳用のグリシンパウダーで同じ効果が得られちゃうんだな。

グリシンというのはアミノ酸の一種で、しかもアミノ酸の中で最もシンプルな構造をしている。
口に含むと、甘みとうまみがある。食品としては、ホタテ、エビ、カニ、イカなどに多く含まれる。甘エビの、砂糖とは違う独特の甘さ。ホタテの身を噛み締めたときに感じるうまみ。こうした味は、グリシンによるものだ。
生体内では、多様な働きをする。
コラーゲンやグルタチオンの合成に使われるているから、美肌や抗酸化のお助けになる。クレアチンの合成に関与しているところはボディービルダー向けだと言えるが、プリン体の合成にも関与しているから、過剰摂取は痛風の原因になるかもしれない。

睡眠に影響する理由は、グリシンが、神経伝達物質そのものだからだ。GABA(γアミノ酪酸)と並ぶ抑制性神経伝達物質で、ニューロンの活動電位を抑制する。
以下の論文に、詳しいメカニズムが書かれている。
『グリシンの睡眠促進効果および体温低下効果は、視交叉上核のNMDA受容体により媒介されている』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4397399/
「睡眠の質を改善する治療選択肢としてグリシンを使用することが、安全性の高い新たなアプローチとして注目されている。その有効性については臨床的エビデンスがあるものの、その作用機序についてはほとんどわかっていない。本研究において、我々はグリシンの作用部位および睡眠促進の機序をラットを用いて調べた。
急性睡眠障害に際して、グリシンを経口投与すると、ノンレム睡眠が誘導され、深部体温の低下とともにノンレム睡眠潜時が短縮した。グリシンの経口投与および脳室内への注射によって、足底の表皮血流(CBF)が用量依存性に増加し、その結果体熱が発散された。グリシン受容体のアンタゴニストであるストリキニーネによってではなく、NメチルDアスパラギン酸(NMDA)受容体のアンタゴニストAP5とCGP78608によって事前に処置すると、脳内へのグリシン注射で引き起こされるはずの表面血流の増加が抑制された。
グリシン注射後、視床下部核(内側視索前野(MPO)や視交叉上核(SCN)も含む)におけるc-Fosの発現が誘導されることが観察された。SCNにグリシンを注入すると、CBFが用量依存性に増加したが、MPOや脳室下帯にグリシンを注入しても効果が見られなかった。SCNにDセリンを注入してもCBFが増加したが、この効果はL701324の存在下ではブロックされた。SCNを焼灼すると、グリシンの睡眠促進および体温低下効果は完全になくなった。
これらの結果は、外因性グリシンが周辺血管の拡張によってSCNにあるNMDA受容体を活性化させることで、睡眠が促進されることを示している」

ややこしい文章だね。訳した僕にも意味がよくわかりません^^;
ポイントとしては、グリシンが体温に作用している、ということだ。
眠りにつくとき、手足や体表の温度が上がることが知られている。これはなぜか?
代謝が高まっているのではない。むしろ、下がっている(そもそも眠りとは、代謝を下げて体を休めることだ)。血液を中枢メインに供給するのではなく、手足などの末梢に優先的に流すことで、体熱を発散しようとしている。
寝るときには頭寒足熱がいい、といわれる理由はここにある。睡眠時の深部体温の低下は、脳内の温度(脳温)の低下でもあるわけだ。

さらに、タウリンも睡眠にいい。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3630960/
タウリンはGABA受容体に作用して、神経系の発火を抑制する。
ハエにカフェイン(0.01%)を与えると活動量が25%増加し睡眠が16%減少したが、タウリンの投与(0.1%〜1.5%)により活動量が28%〜86%減少した。0.75%のタウリンによって、睡眠が50%増加した。

その他、イノシトール、テアニン、フォスファチジルセリンにも有効性を示すエビデンスがある。
こんな具合に、ベンゾの離脱症状に対していろいろな栄養素(ビタミンC、ナイアシン、マグネシウム、ケイ素、グリシン、タウリン、、、)を使う。
こういう治療は、お世辞にもスマートとは言えない。「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」式の方法では、仮に効いたとしても何が効いたかわからない。そういう意味で、理想としては、使う栄養素は2、3種類以下に抑えたい。
でも症状に苦しむ患者は、「スマートじゃなくてもいい。何が効いたかわからなくてもいい。とにかく、今すぐにでも、楽になりたいんだ」という気持ちでいる。僕としても、その気持ちに応えてあげたいと思って、いろいろお勧めすることになる。
一般の病院で量産されるベンゾ依存症患者を、こんなふうに何とか立ち直らせていくのが僕の仕事です^^;