『ドキシサイクリンと自殺傾向』という、なかなか直球のタイトルの論文。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3888527/
ざっと訳すと、
皮膚症状の治療のためにドキシサイクリンを服用した、精神疾患の既往のない3人の若年症例について。
3人は抗生剤服用後自殺念慮を生じ、うち2人は既遂となった。
彼らのうち1人は、CYP2C19*2ヘテロ接合型の遺伝子型(このタイプの人では、シトクロムp450の酵素活性が低い)で、彼の血縁者の2人はドキシサイクリンの服用によって重度の不安障害を発症したことがあった。
別の1人は、以前低用量のドキシサイクリンで気分障害を発症したことがあったが、使用中止により症状は軽快していた。
自殺未遂となった1人は、ドキシサイクリンの使用中止により、精神科的投薬をするまでもなく希死念慮は軽快した。

ドキシサイクリンは、テトラサイクリン系の抗生剤の一つで、1967年から臨床で使用されている。
つまり、それなりに長い間使われてきた薬なんだけど、安全性が証明されているかというと全然そんなことなくて、事実はむしろ逆。
副作用の危険性を示すエビデンスはたくさんあって、その一つが精神症状。
自殺念慮という、かなりショッキングな形で出現することもあるけど、不安やうつとして生じる例はさらに多い。

テトラサイクリンに限らず、抗生剤の使用に起因する精神症状というのは、一般の人が想像する以上に多い。
データもちゃんとある。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26580313
『抗生剤の使用とうつ病、不安、精神病のリスク 入れ子型症例対象研究』という論文。
腸内細菌と精神状態の関連については、近年ますます研究が進んでいて、今一番熱い分野といっても過言ではないだろう。
抗生剤は、ざっと100種類100兆個とも言われる腸内細菌叢に大きなダメージを与えるわけで、精神状態に影響を与えないわけがない。
精神に影響を与える機序としては、神経系、代謝系、免疫系など複数のメカニズムが関与していると思われる。
「抗生剤の服用は、精神病の発症に対するリスク因子ではないが、うつ病、不安に対してはリスク因子である」というのがこの論文の結論だ。

20代男性。
1年前、皮膚科にてニキビ治療のためにテトラサイクリンを処方された。
1か月服用後にはニキビが軽快したが、あるときひどい腹痛を生じた。医師には抗生剤の継続を指示された。
数か月後、不安発作を生じ、家から出られなくなった。ビルから飛び降りたらどうなるだろう、など、自殺衝動を感じることが多くなった。
精神科受診し、広場恐怖症、うつ病との診断を受け、投薬治療開始。
まったく症状が軽快しないため、栄養状態に問題があるのではないかと思い、当院受診。

10代女性。
数か月前、肺炎の診断で抗生剤による治療を受けた。(抗生剤の詳細不明)
その後、無気力を感じることが多くなった。生理前に精神症状が悪化することから、婦人科を受診。
月経前症候群の診断で、エストロゲン製剤の服用を開始した。
症状軽快しないため、セカンドオピニオンとして当院受診。

こういう症例は、世の中に無数にあるのではないかと想像する。
問題の根本的原因は明らかで、抗生剤の服用だ。
でも一般の医療現場で働く先生は、抗生剤の副作用のことなんて、ほとんど無視している。
本当は医学部教育で、こういう副作用があることをしっかり学んでおくべきだったのにね。

いや、もう少し正確に言うと、一応勉強することはするんだよ。
でも「抗生剤治療の利点が、副作用によるデメリットと比べて上回る場合には、その使用をためらうべきではない」みたいな原則があるものだから、先生方、遠慮なく抗生剤を使う。
実際、抗生剤のおかげでニキビは治ったし、肺炎も軽快したわけだからね。
だから先生方の医療行為を、まったく100%の悪だと断罪することはできない。
(本音としては、そう言いたいけどね。栄養療法ならニキビも治せるし肺炎も治せるから。)
問題なのは、「抗生剤による副作用としての精神症状を見ても、抗生剤による副作用としての精神症状だ」ということが分からない医者ばかりだということだ。
だから、突拍子もない方向の診断をつけて、その診断のもと、新たに薬を使い、症状がますますこじれていく。
抗うつ薬、抗不安薬、エストロゲン製剤、、、全然そこが本質じゃないのにね。
こういうふうにして、患者は薬害でぐちゃぐちゃになっていくんだよ。

点数稼ぐために出さなくてもいいような薬を出す先生も確かにいるけど、ほとんどの先生は人を助けたいと思って医療をしていると思う。
せっかく仕事するんだから、人に感謝されたいのは当然のことだよね。
でも悲しいことに、先生方の善意の行為が、結果的には大変な不幸を生み出していることは全然珍しくない。
はっきり言って、この原因は、先生方の無知だ。
医原性疾患が世の中にどれほど多いことか。
その多さが数字に明瞭に示されれば、「総じて医療は、国民の健康にとって、プラスよりはマイナスの存在である」、「日本中の病院は、救急外来を除いてすべて閉院すべし」、という結論になるだろうけど、幸か不幸か、そんなことには絶対ならねえだろうなぁ。