アルコール依存症の激しい飲酒欲求に対して、ナイアシンが著効する。
ホッファー先生の成し遂げた大発見の一つである。
しかし栄養療法の存在を知らず、一般の病院を受診すればどうなるか。
恐らく、抗酒薬の処方を受けることになるだろう。

抗酒薬は、シアナマイドかノックビン(成分名:ジスルフィラム)が使われることが多い。
違いとしては、シアナマイドは液状で即効性があること、ノックビンは粉末で遅効性だがその分効果が長く続くことだ。
作用機序は同じようなもので、どちらもアルコール分解酵素(アルデヒド脱水素酵素)を阻害する。
酒が飲める人と飲めない人の違いは、アルデヒド脱水素酵素の活性の違いだから、この薬はまさに、体を強制的に「下戸」にする薬だ。
個人的な印象としては、ノックビンよりもシアナマイドが処方されることのほうが多いと思う。シアナマイドは1日1回服用だから、「禁酒の誓い」として毎朝これを飲み「今日も一日断酒、頑張るぞ」と、ちょっとした儀式的な意味合いを持たせることができる。そういう点が好まれて、ノックビンよりシアナマイドが多く使われているのかもしれない。
しかし意外なことに、シアナマイドはアメリカで販売されていない。ノックビンだけ。なぜなんだろうね。だから、シアナマイドの効能についての論文でアメリカ発のはほとんどない。

アルコールというのは、本来微生物の生み出した有害産物である。
しかし適量だと酩酊による快感を楽しむことができて、人との友好関係を深めるツールとして大昔から利用されてきた。
しかし長期間大量摂取すれば、体は大きなダメージを負う。
しかも失うのは健康だけじゃない。
家族や社会からの信頼、仕事、収入、財産、地位、名誉。アルコールは、全てを奪っていく。
「俺は病気だ」本人も自覚している。しかし、それでもなお、酒がやめられない。
涙を流しながら、酒をあおっている。
AA(断酒会)の場には、こういう「底つき体験」をした人がたくさんいて、僕は勤務医時代、彼らの体験談を聞いてきた。

彼らのほとんど全員が、何らかの形で抗酒薬を飲んでいた。
アルコール性肝硬変で、主治医から「このまま酒を続ければ、間違いなく死にます。命をとるか、酒をとるか、どうしますか」と迫られた結果、命を選択し、抗酒薬の服用を始める。
主治医の言っていることは間違っていないと思う。
ただ、この主治医先生、抗酒薬よりもベターなチョイスであるナイアシンの存在を知らないことに加えて、実は抗酒薬自体が肝臓にあまりよくないことも知らない。

論文を紹介しよう。
『シアナマイド関連性アルコール性肝障害〜一連の組織学的評価』というタイトル。https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/j.1530-0277.1995.tb01616.x
要約をざっと訳すと、、
本論文は我々の知る限り、慢性的なアルコール使用とシアナマイドの服用、その両者の組み合わせによって引き起こされる肝疾患の組織病理学的な進行を追跡したものである。29人のアルコール依存症者(シアナマイドによる治療を受けながらも再飲酒してしまったことがある患者)に対して、肝生検を2回行い、標本を採取した。
シアナマイドは肝細胞内に擦りガラス様封入体(GGIs)を生じさせた。
GGIs病変が増加しているか減少しているかによって、患者群を2つに分けたところ、この振り分けはシアナマイドの投与期間および無投薬期間によって決まっていることが明らかになった。
第1群は14症例からなり、彼らはGGIsが2回目の生検標本でのみ見られたか、あるいは1回目に比べて2回目の生検標本でGGIsが増加していた人々である。
第2群は15症例からなり、彼らは1回目、2回目、いずれの生検標本でもGGIsが見られなかったか、あるいは2回目の生検標本で1回目よりGGIsが減少していた人々である。
第1群では、5症例(33%)が2回目の生検標本で好酸性体が増加していたが、第2群では増加は全く見られなかった。
門脈炎症の重症度は、第1群の10症例(71%)で増悪したが、第2群で悪化したのは2症例(13%)だけだった。線維化の進行具合については両群で違いは見られなかった。
これらの違いは、両群の1日のエタノール摂取量および再飲酒期間の長さによっては説明できない。シアナマイドで治療を受けたアルコール依存症者が再飲酒すると、シアナマイドとアルコールが相乗的に悪影響を及ぼし、GGIsの出現とともに、好酸性体や肝門脈炎症の増悪を引き起こすのである。

中島らもは抗酒薬を飲んでてもなお、酒を飲み続けた。
上記の論文によれば、アルコールとシアナマイドの相乗毒性が出て、肝臓には最悪の飲み方だった、ということになる。
こんな飲み方をしてしまうぐらいなら、抗酒薬はむしろ飲んではいけない。
そもそもシアナマイドは、アルコールという毒物の代謝能力を阻害するわけだけど、弱くなるのがアルコールに対してだけかというと、そんな保証はどこにもない。肝臓のデトックス能力自体を落としてしまう可能性もある。
中島らもと、この前亡くなった勝谷誠彦氏は共通点が多い。どっちも尼崎出身で、どっちも灘高で、どっちもうつ病で、どっちも酒で才能を潰して、そして致命的なことに、どっちもナイアシンのことを知らなかった。
ナイアシンで救える命がある。
シアナマイドより、まず、ナイアシンでしょうに。