何らかの体調不良があって、その原因がビタミンやミネラルの不足であった場合、サプリメントがよく効く。
たとえば、飽食の時代とされる現代日本にも”隠れ脚気”や”隠れ壊血病”の人がいるもので、前者にビタミンB1を、後者にビタミンCを投与すれば、劇的に改善する。
患者は快癒を喜び、医者に大いに感謝する。
「ちゃんと食事をしているつもりだったが、意外に栄養不良があるものなんだな」と患者は認識を改める。
ここまではいい。
しかし、さらなる健康を求めて、サプリ信者になる人がいる。
風邪のときに薬を飲んで症状が治まって(実際には風邪は薬で治らないが)、「これはすばらしい薬だ」と感動して、それ以後毎日風邪薬を飲み続ける、なんて人はいない。
しかしサプリでは、そういうことがしばしば起こり得る。

ビタミンやミネラルの欠乏症状に対しては、サプリメントを使えばいい。ここに異議を唱える人はいないと思う。
しかし短期的に著効するサプリを、長期的に服用しても、何ら問題はないのだろうか。
長期的に飲み続けても、やはり体にいいのか。それとも、何らかのデメリットがあるのか。
実はこの点については、議論がある。

僕はホッファーの本を読んで栄養療法に目覚めた。
ホッファーの本に、このような記述がある。
「患者が言う。『先生のおかげで病気が治りました。しかし先生、私はいつまでサプリを飲み続けないといけませんか』
このような質問に対して、私はいつもこのように答えることにしている。『あなたが快適でいたい限り、ずっとです』と」
ホッファーは、ポーリングとともに栄養療法を創始した立役者の一人だ。
対症療法一辺倒の既存の医学界にとって、栄養療法の出現は脅威だった。製薬会社にとっては特許のとれないビタミンは、一円の得にもならない。それどころか、ビタミンなんぞで患者の病気が治ってしまっては、薬が売れなくなってしまう。
そこで製薬業界は栄養療法を潰すために、ありとあらゆることをやった。ネガディブキャンペーンもやれば、御用学者にビタミンの有害性を喧伝する捏造論文を書かせたりした。ロビー活動をして政治家に働きかけ、サプリを『薬』として扱うよう(つまり、一般の人が簡単に買えないよう)法律を改正しようとさえした。
ホッファーは、そういう弾圧と実際に戦ってきた人なんだ。サプリの効用(大量長期服用も含め)を全面的に擁護するのは当然だろう。
その心情は理解できる。

しかし、様々な研究が行われ、新しい知見が蓄積して進歩していくのが科学の世界だ。ときには従来の常識が覆るパラダイムシフトが起こることもある。栄養療法もその例外ではない。
「ある種のサプリメントの長期的服用は、むしろ健康にマイナスではないか」という研究がいくつかある。
こういう研究に対して、どこから研究資金が出ているのか、とひとまず疑う姿勢は重要だが、「製薬会社のネガディブキャンペーンに違いない」と決めつけるのも、公平な態度ではないと思う。

僕の臨床経験でも、「その体調不良はおそらくサプリメントの大量服用によるものではないか」と思われる症例を見たことがある。
この患者は知的レベルの高い人で、漫然とサプリを飲んでいるわけではなかった。「このサプリはこの論文で有効性が示されているから」と、自分できちんと考え納得した上で飲んでいるような人だった。
ただ、飲んでるサプリの種類と量がものすごく多かった。
飲んでいるサプリの一覧を見た。確かに、どのサプリも悪くない。一つ一つを見れば、各々の症状にきっと効くはずだ、と思う。しかしこれを全部飲むとなると、ちょっと、、、
どう助言したものかと、言葉に詰まってしまった。一つ一つは、全部合っている。でも全体としては、間違っている。
還元主義の罠だ。局所の事実の総和が、全体の真実とは限らない。

https://www.consumerreports.org/cro/2014/05/do-vitamin-supplements-work/index.htm
ここにあげられている例として、以下のようなものがある。
・50歳以上の男性において、ビタミンE、セレンの長期服用は前立腺癌の発症リスクを増加させる。
・マルチビタミンのサプリを長期に服用しても、癌や心血管系疾患の予防効果はなかった。また、加齢に伴う精神機能の低下を予防する作用もなかった。
・オメガ3系脂肪酸のサプリを長期に摂取しても、心血管系疾患(心筋梗塞、脳卒中など)の抑制にはならなかった。

「効果がない」だけならまだしも、逆に癌のリスクが上がるとか、本当ならショックだな。
僕のほうにも「抗酸化物質だから、体に悪いはずがない」という思い込みがあるから、ビタミンEにしてもセレンにしても、遠慮なく飲み続けていいよと患者に勧めてしまいそうだ。
こういう研究を見てしまうと、長期的な健康の維持にはやっぱり食品が無難だなと思う。
もっというと、短期的にすぐ改善させたい場合でも、食品で改善させるのが本来あるべき形なんだろうな。
食養生という言葉があるように、B1欠乏ならぬかとか胚芽を食べればいいし、C不足なら柑橘類を食べればいい。
食事の一工夫で改善するところ、サプリの服用を勧めるというのは、一見近道のようでいて遠回りなのかもしれない。