石黒伸先生がフェイスブックにおもしろい投稿をされていた。

「国はコロナウイルスの感染予防として、手指消毒を勧めている。しかし、本当に有効なのか?そのエビデンスは?
高濃度のエタノールが手指の皮脂をごっそりそぎ落とし、皮膚常在菌が壊滅して、ウイルス予防にはむしろ逆効果ではないか?」
一考に値する指摘だと思う。
よかれと思ってやっていることが、実は「火に油を注いでいるだけだった」と後に判明した医療行為はたくさんある。
確かに、この手指消毒にもその可能性がないとは言えない。
そこで論文検索をかけてみた。

比較的新しい、こんな論文を見つけた。
『インフルエンザ罹病患者由来の感染性喀痰に対処するための現行の手指衛生の有効性が低下する状況』(←タイトルが訳しにくくて、変ですいません^^;)
https://msphere.asm.org/content/4/5/e00474-19
僕らの手というのは、けっこうな頻度で、痰がつくものだ。何も手鼻をかむ人に限らずね^^;
たとえばせきやくしゃみをしたときに、手で口を覆う。そのとき、手には痰がついている。インフルエンザにかかっていれば、その痰のなかにはウイルスが含まれていて、それが感染源にもなり得る。
この論文は、そのように痰に包まれたウイルスは、普通に存在する(生理食塩水中に存在する)ウイルスよりも、消毒薬に対して抵抗力があるのではないか、という可能性を検証したものだ。
実際そうだった。
インフルエンザA型ウイルスを、食塩水に含ませた場合と痰に含ませた場合、それぞれについて一般的な消毒薬(濃度80%エタノール)を作用させて、ウイルスが不活性化するまでの時間を比較した。
結果、生理食塩水中のウイルスは30秒以内で殺菌できたが、痰の中では2分経っても感染力が維持されていた。消毒薬がウイルスの不活性化させるのに必要な時間は、痰の中では、生理食塩水の中の場合と比べて、8倍長く必要だった。
この論文要約の結びの一文が、なかなか強烈である。
「この研究により、我々は感染性喀痰中のインフルエンザウイルスに対して、エタノール消毒が有効ではないことを証明した」
あるウイルスについて成り立ったことは、他のウイルスについても同様に成り立つと考えるのが基本である。少なくとも「コロナウイルスに対してだけはエタノール消毒が効くはず」と楽観視していては、感染症対策はままならない。

この論文は2019年に京府医の先生が書いた論文なんだけど、けっこうインパクトがあって、アメリカの感染症予防機関(Center for Infectious Disease Research and Policy)がこの論文についてコメントしている。
http://www.cidrap.umn.edu/news-perspective/2019/09/hand-sanitizer-shown-less-effective-hand-washing-against-flu
記事のなかに、こうある。
「この研究によってWHOの指針が変更になる可能性もある。というのは、現在、医師や看護師は、ある患者の対応をし次の患者に移るとき、手指を15~30秒エタノール消毒するというのがWHOの推奨だからである」

この研究は、痰の有無で、エタノール消毒によるウイルスの殺菌作用がどの程度違ってくるかを調べたものだけど、エタノール消毒には別の問題もある。
それは、上記で石黒先生が指摘するように、医療者がこまめに手指殺菌を繰り返すことで、かえって医療者側の皮膚免疫力が落ちて、ウイルスへの感染率が上がってしまうのではないか、という点。
消毒によってリスクを下げているつもりが、逆にリスクを上げている、となれば、そんな消毒、いっそしないほうがいい、ということになる。肌が弱くて手荒れがひどい医療者は、しょっちゅう消毒液なんてすれば手がいよいよガサガサになってえらいことになるから、こっそり消毒をスキップするだろう。しかしこれは、賢明な自衛というべきだろう。ガサガサの手指がウイルス防御力が高いとは、素人目にも思えない。
この点を研究した論文があればぜひ読みたいところだが、見つけることができなかった(あれば教えてください)。

個人的には、エタノール消毒よりも、ニンニクの抽出液のほうが人の皮膚にも優しく、かつ、ウイルスにも効果的ではないかと思っている。
手がニンニクくさくなるのは、医療者のQOLに差し支えるかもしれないけど^^;
でもパンデミックとなれば、そんなことは言っていられない。患者、医療者、双方にとって少しでもプラスになる方法なら、ニンニクでも何でも取り入れればいい。

ニンニクがウイルスに有効だと考えるのは、以下の論文によります。
『無菌卵中のコロナウイルス(感染性気管支炎ウイルス)に対するニンニク抽出物の有効性』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4967842/
【目的】ニンニクは香味のある食材としてはもちろん、抗菌薬、抗下痢薬として長く用いられてきた植物である。感染性気管支炎ウイルス(IBV)はコロナウイルスの一種である。IBVに対するワクチンを作っても新たに出現した変異株には対応できない。本研究では、IBVに対するニンニク抽出物の抑制的効果を検証した。
【方法】と【結果】は省略して、
【結論】は、
「ニンニク抽出物は、ヒヨコ胚中のIBVに対して抑制的な効果がある」

要するに、ウイルスは細胞の中に寄生し細胞の増殖機構を借りて増えるわけだけど、ニンニク抽出物によって、ウイルスの増殖が抑えられた、という研究。
特に、コロナウイルスに対する有効性が示された、というところが熱いよね^^今一番タイムリーな話題だから。
ニンニクのいいところは、妙な副作用がないところ(匂い、という副作用は除く)。
それに、「薬剤耐性ウイルス」が出現するとしても、「ニンニク耐性ウイルス」が出現するとは考えにくい^^
前に紹介したけど、カレーとかニンニクとか、香辛料・香草の類は、下手な薬よりもよほど薬だね。